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森の幼女  作者: トクサン
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過去の邂逅

短いよごみんに。(´・ω・)



ある日、遠い昔の事。






「 おはよう、森の子よ 」


凛とした声が森に木霊し、耳にこびり付くように離れない言葉を彼は理解した。場所は辛うじて日が差し込む様な深森。彼はその身の三倍近くもあろう花から生まれ出た。

最初彼は赤子の様に緩慢な動作で瞳を動かし、やがて徐々に意識を覚醒させていく。

手始めに彼は体中に不快感を与える粘液を一瞥し、無造作に擦り取ろうとした。その一連の動作を黒い竜はじっと見守る。


「…何見てんだよ、あんた」


彼は視線に耐えかねたのか、竜に向かって口を開いた。第一声は喧嘩腰。


「調子はどうだ、森の子よ?」


「は? 森の子? 何言ってんだ、俺は都会生まれの都会育ちだ」


話も通じぬ様子で彼は一心不乱に纏わり付く粘液を擦り取っていく。だが埒が明かないとみると、唐突に巨花から身を投げた。

黒竜は慌てたような仕草をするが、彼は大事ない。

着地と同時に前転をかまし、勢いを逃がした。何事も無かったかのように立ち上がる彼を見て黒竜は安堵する。


「名を聞いても良いか?」


「名前? んなもん、聞いてどうすんだよ。 つか此処どこ?」


「此処は森だ」


「森? なんて言うかアバウト過ぎない?」


「森と言えば一つしか無かろう」


「いや、まぁなんつうか…」


「もっと具体的な地名で」と言う彼の呟きは黒竜には届かなかった。彼は黒竜を見上げると一つ、溜息を吐く。

どこか男らしい顔つきを覗かせるその表情は、半分困惑、半分確信に染まっていた。


「…もしかしなくても、此処って日本じゃないよね」


「にほん?」


やっぱりかと彼は眉を顰めた。

そして周囲を何やら見渡し始めたと思えば「おっ」と声を上げ、走り出す。その方に首を向けると、丁度彼が湖に飛び込む所だった。

水飛沫が上がり、彼が勢いよく水面に顔を浮上させる。


「ぷはっ! あ~…やっとさっぱり出来る」


まるで花の中でずっと意識を保っていた様な言い草。黒竜は静かに彼に近寄ると、問うた。


「主は人間であったか?」


「あったか…と言うと過去形かね。 答えは『いえす』だ」


「いえす?」


「肯定だよ」


水の中で忙しなく動き回る手は執拗に肌にこびり付いた粘液を落としている。何となく彼が潔癖症である事を黒竜は見て取った。


「俺は人間だった…つか、今も人間じゃないの?

 あんたの言い方だと、俺がまるで死んだみたいだ」


彼は水面から腕を掲げ、言った。


「主は森の子だ、あと主の前世については知らぬ」


対して黒竜はさも当たり前の様に言う。

「前世って…」彼はげんなりとした表情で岸に体を預け、10m近い黒竜を仰ぎ見た。


「何が違うのさ?」


「森の子は世界の意志が生んだ存在、崇高にして自然に愛される存在だ。

 対して人族は古来より存在する種族、野蛮で利己的な存在にすぎない………と聞いている」


「あ? 聞いている?」


突っ込んだ疑問を聞き返すと、黒竜は戸惑った様につっかえた。


「我とてそう長い事生きている訳でも無い。まだ生まれて50年程度しか生きとらんのだ。

 竜族の中でも若輩者だ。」


「ふーん…にしては随分と口調は貫禄あるな」


「す、捨て置け」


そっぽを向いた竜に意地悪な笑みを見せる彼。

「よし」と一声発すると、おもむろに立ち上がり陸へと上がった。


「ん、もう良いのか?」


「ああ、あのベタつく奴が取れれば結構。長い時間浸かってても風邪を引く…。 

 というか、この湖入ってよかったのか?」


事後ですまないがと言う言葉に、黒竜は「構わん」と答えた。

自然乾燥に身を任せ、竜の目前へと適当な即興椅子を都合する。今は倒れた小樹だ。

ザラザラとした凸凹が尻の肌に少し違和感を齎す。


「さて、んじゃあアレだ」


彼は少し思考するように瞳を閉じ、そして口にした。


「異世界の話をしよう」


「異世界?」


黒竜は首を傾げた。対して彼は呆れる様に溜息を飲み込んだ。


「あんたら、俺の事少しは知ってるんじゃないの?」


「知ってるも何も…森の子と言う事と、世界の意志によって生まれるとしか…」


「そんなんで呼んだんかい」


辛うじて心構えの出来ていた彼は比較的冷静ではあった。

問題なのは世界の意志とやらである。それが自己で完結した「世界」なのか、それとも惑星規模を指す「世界」なのかで別れる。

口でなんと言おうと、自分らの都合で呼び出されたのなら彼は怒り狂う事間違いなしだった。

彼は激昂に蓋をしながら問うた。


「あんた達が俺を呼ぶ…もとい、召還したって訳じゃないのか?」


「召還、とはまた異なことを言う。

 それではまるで魔獣か使い魔の様な言い草ではないか」


あながち間違いでもないと言う言葉を胸に下し、黒竜を無言で睨んだ。

体格差もあるし威圧の欠片も出ていないが、意図は察したのだろう。

「我々は主の誕生に関わっていない」と零した。


「そ、んじゃ完全に自然誕生な訳だ」


ひとまず方向性を定める為、知恵を絞る。

唸りながら頭を捻り、やがて思い付いた様にぽんと掌を打った。


「まぁ、あれだ。まずは自己紹介だ」


いきなりの話題変更に黒竜が目をぱちくりと開く。先程の剣呑な雰囲気は何処に行ったのか。

今にも握手を求めてきそうな表情で彼は言った。

彼にとって害ありし者には相応の態度を、そうでなければ温厚であれと言うのが信条であった。


「あんた名前は?」


「わ、我か? 我は…ジオだ」


いきなりの問いに少々戸惑いながら黒竜は答える。

その答えに満足そうに笑みを零し、彼は自らの名を名乗った。




「そうか、俺は参月みつきって言うんだ。 よろしくなジオ」




 

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