人類進撃
(´・ω・)誤字脱字あったらごみんに。
日常。
私が生まれ、ジオとの修練とも呼べぬ戦闘から数日
偶にジオと簡単な能力の修練を行う事以外、森は平和に包まれていた。
小鳥が集まり囀って、そよ風が葉を揺らす光景。それを切り株の上に腰かけて眺める。
頭上から降り注ぐ木漏れ日が僅かに眠気を誘い、うとうとし始めた頃にジオが森へとやってくる。
それを私は恨めしい視線で出迎えるのだ。
これが此処数日の森。私のここでの生活である。
巨大な翼を器用に畳んだ後、何故かジオは私の顔をじっと眺める。
何時もは修練の内容から切り出してくるのだが、今日は私を見つめるだけで口を開かない。
すぐに目を逸らすかと思いきや長い時間見続けるのでつい「何?」と聞いてしまう。
『いや、随分髪が伸びたものだと思ってな』
「・・・そう?」
ジオに言われて髪を無造作に掬う。確かに髪は地面に触れるほど伸びきっていた。
いや、最早これは歩けば引き摺るレベルである。
言われて初めて気付くとは、私は自分に対して関心を持っていないらしい。
生まれた頃は腰辺りまでの長さだったと記憶しているが・・・森の子とやらは髪の伸びるスピードが速いのだろうか?
「切った方が良いかな」
『いや、そのままでも良かろう』
「どうして・・・?」
そう聞き返すとジオは言い淀み
『まぁ、すぐ伸びる様なら切ってもあまり意味は無かろう』
と歯切れ悪く漏らした。
私は少々考える。この髪、何故かは知らないが地面を引き摺っても汚れが付かない。
別に邪魔と言う訳でも無いし、邪魔になる様な運動をする訳でも無い。それにジオの言う事も一理ある。
伸びるのが異様に早いのに、一々(いちいち)散髪するのも正直面倒くさい。結果、放置する事に決めた。
「・・・ん、分かった。このままにする」
『そうか』
ぶっきらぼうにそう言い放つジオだが、その顔には少々安堵が見て取れた。私は首を傾げる。
兎も角今日も修練に励まなくてはなるまい。ジオもその為に来たのだろう。
私は切り株から立ち上がろうとしたが、ジオの声がそれを静止した。
『おっと、主は修練の為に我が赴いたと思っているだろうが、今日は違う。
少々主と老樹に報告があってな』
「報告?」
鸚鵡返しで聞き返せば、ジオは僅かに目を細め不機嫌そうに鼻を鳴らした。
『ああ。 少々面倒な事になった』
私の頭上に「?」が浮かぶ。対してジオは少々深刻そうに口を開く。
その言葉は、私の平和な時間をぶち壊すには十分過ぎる内容だった。
『人間がこの森に進軍して来る』
生まれて数日、私の様な存在が生み出されるのだから戦争が頻繁に起こる世界なのだろうか。
そう考え、ジオに問うた事が有る。だが、ジオが言うには今世界は平和であると言う。
無論、それは表面上のものではあるが・・・。
『この森の付近に国が一つ、名を「ラジャン」と言う。その隣国が「ベルム」。
もしこの森が戦火に呑まれるとすれば、この二国が攻めて来た時だろう。
だがこの二国のどちらかが攻めて来る事はまず無い。奴等は五年前から睨み合いを続けているからな。
森に進軍して相手国に背後でも見せれば、忽ち兵を率いて襲ってくるだろう。
それでも尚兵を向けて来たと言う事は、其処に何かしらの意図が有るか・・・単なる愚者か』
ジオはそう言って老樹の傍に座り込んだ。僅かに地面が軋み、小鳥たちが驚いて飛び立つ。
私も老樹の根元に背を預ける様にして腰を下ろした。
あの後、私とジオは報告の詳細を聞くために老樹の元へと移動した。最初はジオの来訪を蔦をくねって歓迎していた老樹だったが
、ジオの表情から感じ取るものがあったのだろう。その陽気な動きはすぐになりを潜めた。
この二人は言葉を交わす事無く意志疎通が出来るらしい。その証拠に、ジオの念話は私に届いていない。
「森と人間は、仲が・・・悪いの?」
私がそう老樹に尋ねると、蔦が器用に×を示す。
『仲が悪いと言う訳ではない、いや、寧ろ良いと言っても差支え無かろう。
特に「ラジャン」の国とは「友好の契り」を交わしている』
「友好の契り?」
ジオの補足に聞きなれない言葉が混じっていた。
『友好の契りは、同盟に近い契約だ。
片方が困難に直面した時は助け合い、決して相手に対し侵略行為を行わないと言う誓い。
この森はもう百年もの歳月をラジャンと共に過ごして来た』
「・・・そう」
ジオの言葉を聞くと、ラジャンと言う国が森に対し好意的である事が分かる。
少なくとも「ベルム」と言う国よりかは信頼できるのであろう。百年の歳月と言うのは相当長い時間だ。
となると・・・。
「進軍して来たのは、ベルム?」
こういう結論に至るだろう。
だがジオは『いや』と首を振った。
『詳細な情報は未だ配下の者から上がっていないが・・・斥候に出した者の報告によると、進軍して来た国の旗印は「双頭の狼に戦乙女」』
その言葉にぴくりと、老樹が反応した。本当に僅かな動揺。注意していなければ見落とした位小さい。
そしてジオはそんな老樹の異変に気付かぬまま、決定打を口にした。
『進軍して来たのは「ラジャン」だ』
「王よ、何故です!?」
王の間には何処か剣呑とした空気が流れていた。豪華な装飾の施された一面黄金と言っても差支えない部屋。
その中央。一人用にしては大きすぎる机に脚を乗せ、これまた豪華な椅子に腰かけた一人の男。
首にはジャラジャラと宝石をぶら下げ、指に自らの富を主張するかの様な指輪を嵌めている。
真っ赤なワインを片手に飲み干すと、男はワイングラスを机に叩き付けた。
この人物こそラジャンの王、「フィレム」である。
「ベルムとの睨み合いは此処までだ。 余は早々にベルムを駆逐したいと思っておる。」
目の前に跪く一人の騎士、銀の甲冑に身を包んだ青年を見つめ王はそう言い放った。
青年の顔は未だどこか成熟しきっておらず、王の間に鎮座している近衛の騎士と比べても何処か頼りなさげである。
だが彼はこの年にして幾つもの修羅場を潜って「ラジャン騎士団」の団長まで上り詰めた天才であった。
故にその顔つきは年相応では無く、身から滲む威圧感は近衛にも劣らない。
「ベルムと開戦なさるおつもりか? 一体どれ程の犠牲が出るとお思いなのです!?」
青年は名を「アネル」と言った。
アネルは王に喰って掛かり、王はアネルをつまらなそうなモノを見る目で眺める。
王は溜息を吐くと机上にあったワインを掴み取り、ワイングラスに注いだ。
「アネルよ、貴様は優秀だ。 剣術にも秀でておりおまけに策士だ。我がラジャンに大いに貢献してくれた。
死んだ父も良く貴様の事を漏らしておったものだ」
このフィレムはつい数ヵ月前に王へと着任したばかりの新王である。
前王である「カレム」が急死した為、急遽王の座へと立った王家の長男。
前王の死については様々な憶測が飛び交っているが、アネルはこの目の前に居る「フィレム」が殺害したのではと疑っていた。
それ程にこの王は権力に強い欲を抱いていたのである。
そして王の座に着いて早々、隣国である「ベルム」侵略を提唱した。すべてはラジャンの為にと謳っているが、本音は自らの欲を
満たす為であろう。
アネルはこの数ヵ月ですっかり王に対する不信感を溜め込んでいた。
「だが、その臆病な性格は頂けない。 今すぐ直した方が良い。
それにな、アネル。我とて絶対に勝てる戦しかやる気はない」
王はそう言うと机に乗せた足を退かし、一枚の紙をアネルに差し出した。
アネルは訝しげにその紙を受け取る。王の目は「さっさと読め」と暗に訴えかけていた。
「・・・」
アネルは表情を押し殺し、渡された紙へと目線を落とした。それは立案書であった。
王がベルムに必勝すると豪語する策、其処には驚くべき内容が書かれてる。
半ばまで読み終えたアネルは「馬鹿なッ・・・!!」と押し殺した悲鳴を上げた。
紙はアベルの手によって握り潰されている。最後まで読む必要など無かった。
内容は至極簡単、聖森に進軍し「森の子」を誘拐して来ると言うもの。
アネルは押し殺した声を解放し、声を張り上げた。
「てめぇ正気かッ!?!?」
今にも王に殴り掛かりそうなアベルを、背後から瞬時に駆け寄ってきた二人の近衛が取り押さえようとした。
だが予想以上の力に近衛が逆に弾き飛ばされ、アベルは大股で王へと近付く。
「森は百年も前から友好を築いてる、俺達ラジャンの同盟国だぞ!?
森の恵みも分けて貰ってる! ここの果物や医薬品の原料も森から採れてる!!
三十年前の飢饉の時だって聖森が助けてくれたって聞いた事がある!! 国の民は感謝してる!!」
転がった近衛が再び剣を手に駆けるが、アネルの蹴りが顔面を捉える方が僅かに早かった。
首を大きく逸らし壁に激突する近衛。それを見てもうひとりの近衛は動けずに居た。
「それをてめぇ!! 森の命とも言える「森の子」を奪うだと!?!?」
王の前へ辿り着いたアネルの表情は、怒りで赤く染まっていた。
その額には青筋すら浮かべている。
「ふざけんじゃねぇっっッ!!」
怒り狂ったアネルが有らん限りの力で机に拳を振り下ろすと、酷く鈍い音と共に机が真っ二つに割れた。
樹がへし折れる音が部屋に響き、どう考えても素手で壊せる筈の無い机が地面を転がった。
注いだばかりのワイングラスが地面に衝突し、中身をぶちまける。
無表情を装っている王の額に冷や汗が浮かんだ。だが王のポーカーフェイスが崩れる事は無い。
「・・・悪いが、この作戦。
俺の直属である第一部隊は参加しねぇ」
怒りを露わにするアネルは王に向かってそう口を開いた。
その言葉に、王の無表情が僅かに変化を見せる。
「それは駄目だ。この作戦はベルムに背後を突かれぬ様、迅速に行わなければならない。
故に貴様と第一部隊の参加が必須だ」
「ふざけんじゃねぇクソ王、誰がてめぇの愚策なんぞに加担するか。
そもそも聖森を襲うって時点でこれは策じゃねぇ」
身を乗り出すように王へ詰め寄るアネルの姿は最早騎士のソレでは無く、一匹の怒り狂った狼の様だった。
「唯の愚行だ」
そう言い放ち、アネルは身を翻す。
呆然とする近衛を横を通り過ぎ、王の間を去るまでアベルは一度も振り返る事は無かった。
この事件から一週間後。
王自ら「聖森進軍作戦」を提唱するも、アネルの予想通り反発するものが圧倒的に多かった。
それ程に森と言うのは暮らしの身近にあり、誰もが好意的に受け取っているものだったのだ。
無論、作戦に参加すべき兵達からも反発が続出。
騎士団のトップである第一部隊が不参加を決め込んだ瞬間から、この作戦は既に機能していなかった。
家臣からも発言を撤回する様求められ、王は事実上孤立。
しかし、作戦提唱から五日後。
王より一つの令が出された。
ー 聖森進軍に不参加の兵は死罪とす。
又、これに不満を漏らす者、反発する者も身分関係なく死罪とす。
王は作戦を強行。
これにより、ラジャンは聖森への進軍を開始せざる得なかった。
次の投稿は何週間後か・・・。(´・ω・)




