バッドエンド
十年振りに続きを書こうと思って、一から読み返してみたら、ビックリするほど黒歴史でした。
ロボットアニメは、バッドエンドが多いことをご存じだろうか。
「機動戦士Vガ〇ダム」「機動戦士Zガ〇ダム」「機動戦士ガ〇ダムAGE」「伝説巨神イデオ〇」「無敵超人ザ〇ボット3」「銀河烈風バクシ〇ガー」「聖戦士ダ〇バイン」「宇宙戦士バ〇ディオス」「宇宙の騎士テッカマ〇ブレード」「ぼくら〇」など。
どれも、ロボットアニメ好きなら、知らない者はいない超人気作。
極論(きょくろん=極端な話)を言えば、ロボットは戦争兵器。
だいたいのロボットアニメは戦争物で、主要キャラクター達が容赦なくバタバタ死んでいく。
主人公が死んだり、廃人化も珍しくない。
「宇宙戦士バ〇ディオス」の人類滅亡エンドは、もはや伝説。
オープニングの歌詞が「明日を救えバ〇ディオス」だった為、「明日を救えなかったバ〇ディオス」と言われている。
「異世界転移物の先駆け」と言われる「聖戦士ダ〇バイン」
主人公は、ある日突然強い光に包まれて、異世界転移させられる。
その後、なんやかんやあって、一度は元の世界へ帰れはするものの、核兵器並みに強くなりすぎたせいで、異世界へ戻らざるを得なくなってしまう。
元の世界へ帰れない異世界物も、かなり多い。
「ダ〇バイン」みたいに「俺TUEEE」になりすぎたり、現実世界より異世界の方が快適すぎたり、異世界で結婚して家族まで作っちゃったり。
そうなっちゃったら、もう帰れない。
異世界転生物に至っては、すでに死んでるから、初手で詰んでいる。
異界物の主人公って、すぐ状況を把握出来るし、臨機応変に対応するし、かなりポジティブシンキングだよな。
「異世界に順応出来る奴」が「選ばれし者」の条件なのかもしれない。
そう考えると、オレは異世界に順応出来ていない気がする。
オレは自分が主人公だと思っているけど、本当はたまたま巻き込まれただけのモブ(mob=群衆)なのかもしれない。
異世界転移されたモブは、現実世界へ帰れるのだろうか。
それはさておき、今後どうするかなんだけど。
まずは、オレがコクピットから脱出しなければ。
しかし、巨人達が見ている手前、コクピットがあることはバレてはいけない。
巨人達は、ロボットを無人機だと思っているからだ。
コクピットを開けることなく、オレとミューが入れ替わらなくてはならない。
そんな、手品みたいなことが可能なのか。
オレが、コクピットから脱出すること自体は簡単。
例えばの話だけど、ミューが整備するふりをして、コクピットの部品を取り外し、オレはその部品の中に隠れる。
ミューが持参した整備用の箱の中へ、部品ごと移動する。
これで、オレの脱出劇は完了。
問題は、ここからだ。
どうやって、ミューが女王機のコクピットへ移動するか。
技術士機を自動操縦に切り替えてから、オレと同じように部品に隠れて、コクピットへ移動するってのはどうだろう。
しかし、技術士機に自動操縦機能があるのかどうか。
考えに行き詰ったので、ミューに問い掛ける。
「なぁ、どうやったら、バレずにオレとミューが入れ替わることが出来ると思う?」
『入れ替わる? そんな必要ありませんよ。このまま交渉して、終わったらみんなで帰れば良いだけです』
「あ、そっか」
難しく考える必要なんてなかった。
ずっと「どうやって入れ替わるか」を考え続けていたんだけど、そんな必要はない。
なんで、無駄に小難しいことをひとりで悩み続けていたんだ。
普通に交渉して、普通に帰るだけで良いんじゃないか。
巨人達も、いつまでも女王機を捕虜にしておくことも出来ないだろうし。
早く交渉を終わらせないと、ロボット達が、女王機を取り戻す為に反乱を起こすかもしれない。
いや、待てよ。
ロボットに、「女王を取り戻そう」という意思はあるだろうか。
ロボットにはAI(Artificial Intelligence=アーティフィシャル・インテリジェンス=人工知能)が、搭載されているらしい。
ミューが作ったAIには、「ディープラーニング(Deep Learning=機械が自動的にデータから学習する機能)」はあるのか。
確か、ミューが「巨人達にロボットが盗まれて、改造されている」とか言ってなかったっけ?
「和平」の為に作ったロボットを、改造して悪用するなんて許せない。
真のロボット好きは、カッコ良くポーズを決めたロボットを愛でたい。
戦いの中で、傷付いてボロボロになっていくロボットは、見ていて心苦しくなる。
「滅びの美学」ってのもあるけど……。
『ねぇ、聞いてる?』
「あ、ごめん。ヘルシェイク矢野のこと、考えてた」
フェーに話し掛けられて、考えを中断させた。
オレは一度考え始めると、周りが見えなくなってしまう。
悪い癖だと分かっているけど、直しようがない。
ヘルシェイク矢野は、ヘルシェイク矢野であって、ヘルシェイク矢野以外の何物でもない。
実のところ、オレも「ヘルシェイク矢野」がなんなのか良く分かっていない。
まぁ、それは良いとして。
話し合いの結果、「巨人達の提案を飲む」ことが決定した。
巨人達が欲しがっている「ブラックボックスの設計図」を渡す。
ブラックボックスは、内部機構を見ることが出来ないように密閉された機械装置。
開けてみても、素人目には、さっぱり分からない。
巨人にも技術者はいるようだが、ミューの頭脳には敵わなかったようだ。
巨人がブラックボックスの設計図を欲しがったのは、ロボットを改造して悪用する為だ。
「交渉が成立すれば、妖精達の乱獲を止める」と言うが、過去の事例があるから信用出来ない。
巨人達の言い分は「妖精を保護して、生態を調べてやっている」「可愛いから欲しい」
乱獲して数が減ったら、今度は保護して生態を調べて繁殖させる。
自分達の勝手な都合を、押し付けているとしか思えない。
なんで、そんなに上から目線なんだ。
デカいことが、そんなに偉いのか。
「お前の為に、やってやってるんだぞ」って感じで、「大人にとって都合の良い言い訳」みたいに聞こえる。
巨人の考えが理解出来ないのは、オレが「子供」だからだろうか。
ひとりで色々考えている間に、ついに交渉の時がやってきた。
交渉はミューが「技術士」として、応じることになった。
オレじゃ、交渉は出来ないからな。
女王機は目隠しをされたままだから、相変わらずモニターは真っ暗なままだ。
例によって、間延びしたロボットの特有の声が聞こえてくる。
『お話は~ぁ、お聞きしました~ぁ。なんでも~ぉ、設計図を渡せば~ぉ、女王様をお返し頂けると~ぉ。しかも~ぉ、妖精達の乱獲をやめて下さるとか~ぁ』
『ええ、もちろん。そちらがお約束をお守り下されば、こちらも相応の対応をさせて頂きます』
巨人の偉い人らしきおっさんが、相変わらず傲慢そうな口調で応えた。
『それは~ぁ、大変ありがたい話です~ぅ』
『では、護衛兵の設計図を、こちらへ渡して頂きましょうか』
『はい~ぃ、どうぞ~ぉ』
ズシンズシンと、ロボットの足音と振動がして、ミューが設計図を差し出したことを知る。
この世界の設計図は紙なのか、それともデータなのか。
見えないのが、もどかしい。
クソ、なんで女王が目隠しされたまんまなんだ。
巨人達が図面を確認しているのか、何やら話し合う声が聞こえる。
『うわ、凄い!』
『なんだこれ、めちゃくちゃ細かい』
『向こうの技術士は、こんな小さなものが作れるのか』
どうやら、巨人達は、ロボットの設計図に驚いている。
回路図なんて物は、初めて見るんだろう。
今まで巨人達は、その辺にいたロボットを捕まえて、勝手に分解して、適当に改造していた。
機械の内部構造にワクワクする気持ちは、オレにも分かる。
ロボットには、男のロマンが詰まっている。
オレは小学一年生の頃からロボット教室へ通っていて、ロボットを作るのが趣味なんだ。
何を作ろうか、こうしたらどうだろうかって、想像しながら作るのが楽しい。
上手く稼働しなかったら、「何がダメだったんだろう?」と、試行錯誤するのも良い。
そうして、苦労の末に完成させた達成感と感動は、何物にも代えがたい。
このワクワク感は、好きな者にしか分からないだろうな。
「オレにも、その設計図を見せてくれ!」と、言いたいところだが、今は我慢我慢。
あとで、ミューに頼んで見せてもらおう。
『あの~ぅ、それで、よろしかったでしょうか~ぁ?』
焦れたのか、ミューが伺いを立てた。
すると、巨人のおっさんが応える。
『これを見て、気が変わりました。全ての技術を、我々に譲渡(じょうと=ゆずり渡す)するまで、女王陛下と技術士にはここにいてもらいます』
は? 何言ってんだ、このおっさんは?
察するに、巨人達は設計図が読めなかったんだ。
基盤設計図や電子回路図は、専門知識がないと全く読めない。
だから、技術士が、設計図の読み方からロボットの組み立て方まで、一から全部教えろと言う訳か。
どんだけ偉そうな物言いなんだ、仮にも教えてもらう立場だろうが。
「設計図だけじゃ分からなかったので、教えて下さい、お願いします」くらい、言えないのか。
技術を全て譲渡したら、巨人達は何をする気なのか。
たぶん、ロボットを量産して他国へ売買するんだ。
巨人達は、子供を人質に、身代金を脅し取ろうとする誘拐犯と同じだ。
欲張って、人質を増やし、さらにむしり取ろうとしている。
どんだけ、面の皮が厚いんだ。
巨人が約束を守るとも思えない、いや、破るに決まっている。
ああ、そうか。
こうして、戦争は起こるのか。
いくら話し合っても、分かり合えなければ武力に訴えることになる。
戦争をしたら、オレ達はきっと負ける。
戦争に負けたら、勝った方の言うことを全面的に聞かなければならない。
妖精は、残らず乱獲されるだろう。
もともと増えにくくて短命な妖精達は、近いうちに絶滅する。
巨人達は、妖精絶滅の原因は自分達なのに、少しも悪いと思わないに違いない。
自分を犠牲にしてまで、必死に妖精達を守り続けてきた、ミューの努力は水の泡。
巨人達は、女王を帰す気もない。
無駄に、人質が増えただけだ。
このままだと、オレもミューもフェーも、自分の国へ帰れない。
それどころか、数日のうちにビスケットと水が尽きて、三人共餓死。
動きを止めたロボットを不思議に思って解体すると、オレ達の死体が出てくる。
そこで初めて、巨人達は、女王機と技術士機は無人機ではなく、妖精が操縦する有人機だったことを知るのだ。
知ったところで、遅い。
どうあがいても、バッドエンド。
バッドエンドを回避するには、どうすれば良いだろうか。
ハッピーエンドを探して、うんうん悩み続けていると、ミューが答える。
『分かりました~ぁ。では~ぁ、私と女王様が~ぁ、ここに残って~ぇ、技術を譲渡すれば~ぁ、妖精の乱獲は~ぁ、やめて頂けるのですね~ぇ?』
ダメだ、ミュー! これは罠だっ!
何、バカ正直に受け答えしてんだよっ!
ミューが提案を受け入れたことで、気を良くしたらしいおっさんの声が聞こえてくる。
『そちらが約束を違わなければ、こちらもそれに応じましょう』
はい、これ絶対約束破るやつ。
オレは過去の経験上、知っている。
こういうこと言う奴は、絶対約束を守らない。
適当な理由を付けて「そっちが約束破ったから、こっちも破っても良い」とか、言いがかりを付ける気満々。
こちらが下手に出ていると、どんどん調子に乗って、強請り集り(ゆすりたかり)を繰り返す奴の典型。
ミューだって、分からないはずはないのに。
もしかして、ミューは死ぬ気なのか。
ミューは、もうすぐ寿命を迎えて死ぬ運命。
ミューは自己犠牲の塊みたいな人で、「自分はもうすぐ死ぬから」と何もかも諦め切った目をしていた。
今まで、ミューは妖精を守る為にひとりぼっちで頑張ってきた。
でも、心身共に疲れ果ててしまった。
きっと、オレ達を道連れにして死ぬつもりなんだ。
終わった……オレ達は、餓死決定だ。
オレが絶望していると、ミューがまた話し始める。
『あの~ぉ、それでですね~ぇ、ちょっと~ぉ、お願いがありまして~ぇ。実は~ぁ、大事な部品の希少金属が~ぁ、足りないんですよ~ぉ。一度ぉ、工場へ取りに戻らなくては~ぁ、ならないのです~ぅ』
それを聞いて、気付いた。
自分ひとりが犠牲になって、オレとフェーを妖精の国へ帰すつもりなんだ。
この人は周りにはとても優しいけれど、自分に厳しすぎる。
もっと、自分を愛してあげて欲しい。
でも、いくら訴えても、頑なに受け入れない。
自分さえ犠牲になれば、自分の愛する妖精達は救われると信じている。
その考え方は尊いけれど、オレには理解出来ない。
どうして、ミューだけが犠牲にならなきゃいけないんだ。
どれだけミューが頑張っても、報われない。
本当は、妖精の国へ帰って、みんなに温かく迎えられて、最期はみんなに看取られるべきなんだ。
ひっそりと、ひとりぼっちでコクピットの中で死ぬなんて、悲しすぎる。
どうにかして、オレ達全員が助かる道はないだろうか。
オレの考えを余所に、交渉は続いていく。
『必要な物は、こちらで全て用意させて頂きます。希望があれば、何でも取り寄せましょう』
『では~ぁ、お願いします~ぅ。あと~ぉ、整備室を~お貸し下さい~。まずは~ぁ、女王様を整備しないと~ぉ、いけませんから~ぁ』
『もちろん、場所も提供しましょう。それにしても、あなたは賢い方だ。女王陛下と違って、物分かりが良くて助かりましたよ』
『ありがとうございます~ぅ』
こうして交渉は、オレ達の完全敗北で終わった。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
もし、不快なお気持ちになられましたら、誠に申し訳ございません。