ロボット内会議
お待たせして、申し訳ありません(←誰も待っていない)。今回は、先が見えない微妙な会話劇です。
第九章 ロボット内会議
『すみませ~ん。ちょっと~ぉ、状態を確認したいのでぇ、見せてもらって良いですか~ぁ?』
例によって間延びしたロボットの声が、誰ともなく尋ねた。状態を確認ってことは、オレが乗っているロボットのことを差しているのだろう。ロボットがオーバーヒートしたことは、ミューにも伝わっている筈だし。
間もなく、複数の若い女達の声が戸惑った様子で話し始める。
『えっ? いいのかなぁ? どう思う?』
『ダメじゃない? だって、大事な人質でしょ?』
『別に、見るだけなら良いんじゃない?』
『そんなこと言って、逃げられたらどうすんの?』
『これだけの人数で見張ってるんだし。そうそう、逃げられはしないでしょ?』
『万が一って、こともあるかもしれないじゃない』
まるで、休み時間の女子のお喋りみたいな会話が繰り広げられた。ここの軍隊は、女子だらけか。もしかすると巨人も、妖精と同じく男子が劣性遺伝子で、男子が生まれにくいのかもしれない。それとも、王直属の召使か。
しばらく女達がざわついていると、この二日間で聞き慣れた男勝りな軍人女が笑い出す。
『はははっ! 全く、お前達はホント、小心者だよな』
『でももしも、もしもよ? 護衛兵達が兵器でも持っていたとしたら……』
達? ってことは、ミュー以外にも何体かロボットがいるのか? 考えてみたら、「技術士ひとりで来い」という指定はなかった筈だ。きっと護衛の○ビルドールを、何体か連れて来たに違いない。
『あらかじめ、身体検査をして、武器なんて持っていないって、確認したじゃないか』
巨人達は、大事なところを見過ごしている。「武器を持っているか」よりも、「中の人がいないか」を疑うべきだ。しかし巨人達は、ロボットは全て無人機だと、思い込んでいる。今まで捕らえてきたロボットが、全て○ビルドールだったから無理もない。
その証拠に、この二日間、食料はおろか水の一滴すら貰えなかった。もしコクピットに乾パンとお茶がなかったら、今頃餓えていたところだ。
だが、例外がある。それが、オレとミューだ。ミューはロボットの国唯一のロボットパイロットであり、技術士だ。そして、人間界からやってきたオレ。今現在、たったひとりの妖精の男子。
そうだ、ミューにこのことを、相談しなくてはいけなかった。おっと、その前にロボットから出る方法を教えてもらわなければ。
『あの~、ダメですか~ぁ?』
痺れを切らしたのか、ミューがもう一度巨人達に請う。ややあって、女のひとりが少し困ったような口調で許可を出す。
『まぁ……、見るだけなら』
『ありがと~ございま~す』
ロボットが感謝の言葉を述べると、ズシンズシンという足音と振動が近付いて来た。足音が止むと、オレにそっと囁く小さな声。
『長らくお待たせしてしまって、申し訳ありません。私です、ミューです』
声は車掌のおっさんだが、喋り方はミューだった。やっぱりミューだったんだ! オレは嬉しさのあまり、声を弾ませそうになった。それをぐっと堪えて、小声で返す。
「助けに来てくれたんだ? ありがとう」
『もっと、早く来たかったのですが。生憎、予備が整備中だったもので。動かせるようにするまで、少々手間取ってしまいました』
そうか、ミューが今乗って来た機体は、予備機か。まぁ考えてみれば、機械なんだから、整備は必要だよな。予備が用意してあるに、越したことはない。本当に申し訳なさそうに謝るミューに、こっちが恐縮してしまう。
「あ~、そうだよね。ゴメン。大変だったよね」
『いえ、こちらこそ。こんなにお待たせしてしまって、すみません』
「いや、オレが悪いんだ。オレが変な気を起こさなかったら、こんなことにはなってなかったんだ。本当に、ゴメン」
態度で反省を示したかったが、ロボットはオーバーヒートを起こしているから動かせない。仮にオーバーヒートを起こしていなかったとしても、オレの思い通りには動かせないから、どうしようもない。
『あなたが巨人に捕まったと知った時には、肝を冷やしましたよ』
「うん、オレも捕まるなんて思ってなかったよ」
しかも寝てるところを捕まるなんて、まぬけにもほどがある。脱獄を試みたにも関わらず失敗したし、敵にも迷惑掛けるし。ホント、何やってんだ、オレ。
それでもミューは、オレを本気で心配していたらしく、安心したように言う。
『ですが、ご無事で何よりです。こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません。あなたはすぐ、妖精の国へお帰しします』
「ありがとう。けど、帰すのはフェーだけでいいんだ。オレはまだ帰れない」
覚悟を決めた強い口調で伝えると、ミューが意外そうに聞き返してくる。
『どういうことですか?』
「オレに、ちょっと考えがあるんだ。あとで、詳しく話すけど。あ、そうだ。フェーは、あれからどうした? ちゃんと、妖精の国に帰った?」
『実は、その。今、ここに、い……』
少し言いにくそうに、ミューが言葉を濁した。その言葉を遮るように、同じ声で別の人物が喋り始める。小声で話そうなんて気はちっともない、でも明らかに心配そうな口調だ。
『大丈夫だった? 怪我はない?』
「フェーッ? 何でここにいるんだっ?」
驚きのあまり、オレの声が裏返った。すると怒った口調で、フェーが言い返してくる。
『君が心配だったからに、決まってるでしょっ!』
もしかして、一緒に来たとかいうロボットの中にでもいるのだろうか? オレの問い掛けに答えるように、ミューが説明してくれる。
『実は、フェーさんだけでもお帰り頂くか、私の家にとどまって頂くかしようと思ったのですが。一向に聞き入れてもらえず、一緒に行くと言ってコクピットに……』
一人用に作られたコクピットに、よくふたり入れたな。でもそういえば、「○ンダム」でも「○クロスF」でも、操縦士の膝の上に女の子を乗せて操縦するって場面があったな。今、ふたりはそういう状態なのだろうか。羨ましい。フェー、ちょっとそこ替われ。
『君に何かあったら、みんなにどやされるのはあたしなのよ。こんな状況で、どの面下げて帰れって言うのよ?』
戸惑うミューとは対照的に、フェーは強気の姿勢を崩さなかった。きっと唇をとがらせて、怒っているんだろうな。その姿を思い浮かべたら、何だか笑いが込み上げてきた。
「ふふっ。そっか、そうだよな」
『何笑ってんのよ?』
二日振りに、見知ったヤツと気兼ねなく会話出来ることが、嬉しくて仕方がない。この二日間、ずっと緊張していたから尚更だ。変にハイテンションで、笑いが止まらない。
「いや、フェーらしいなって思ったら、おかしくて……っ」
『もうっ、散々心配かけておいて、ずいぶん元気そうじゃないっ?』
「いやいや、さっきまでは全然元気なかったんだよ。誰も話し相手になってくれないし、飯も出ないしさ。でも、フェーとミューと会えたら嬉しくて、そんなの吹き飛んじゃったよっ」
オレが声を弾ませながら答えると、ミューとフェーも釣られたようにくすくすと笑い出す。
『ま、元気なら良かったけどね』
『そうでしたか。では、また後でお食事をご用意しますね』
「うん、ありがとうミュー。出来れば、風呂も用意して貰えたらありがたいんだけど」
「ええ、良いですよ」
迷惑ついでに、図々しく風呂まで要求したら、ミューは快く了承してくれた。ここに来てからというもの、一回も風呂に入っていないから、そろそろ身体を洗いたい。もう三日経つし、汗臭いかもしれない。
しばらく和やかな雰囲気に包まれていたが、一瞬後、ミューが真剣な口調で切り出す。
『それで、あなたの考えというのは、何です?』
「実は妖精の……」
言い掛けて、言葉を切った。先に、聞かなくちゃいけないことがある。苦笑交じりに、言い直す。
「その前にこのロボットじゃなかった、この巨人から出る方法を教えてくれない?」
『出たいんですか?』
「うん。実は、おしっこしたくて。いや、おまるはあったんだけど、出来れば外でしたい」
外に出る方法を教えて貰う為の口実だけど、嘘ではない。コクピット内には、何も入っていない綺麗なおまると紙は置いてあった。ちゃんとフタが出来るタイプだったんだけど、やっぱり少し臭う。それに、一三歳にしておまるって、どんな羞恥プレイだよっ?
それを聞いたミューが、おかしそうに小さく笑いながら教えてくれる。
『右手に、緑色の明かりが灯った開閉器がありますよね? それを上へ上げれば、鍵が解除されます。その後、その下にある取っ手を回せば、扉が開きます』
「開閉器?」
言われた通り、右を向く。右の壁に、緑のランプが付いた電気のスイッチみたいなのがある。開閉器って、スイッチのことか。その下には、クランクみたいながものが突き出ていた。なるほど、ハッチは手動か。
外側から、ドアロックの解除が描写されているロボットアニメは、よく見かける。「○クロス」は小さいマジックハンドみたいなので開けてたし、「○ンダム」はナンバーロック式、「○トレイバー」は手で小さな丸いハンドルみたいのを捻るタイプだった。でも、内側からロック解除の描写って、あんまり見ないな。大体は、ボタンひとつで、開くものが多い。
思わず試してみたくなって、スイッチに手を伸ばしたら、見透かしていたかのようにミューの注意が飛んでくる。
『今は開けないで下さい』
「何で?」
『巨人達が見ています』
「あ、そっか。そうだった」
目隠しをされていてすっかり忘れていたが、巨人達に監視されているんだった。今ハッチを開けたら、ロボットの中に妖精がいることがバレてしまう。
オレを交渉の道具として使うなら、ここで正体を明かしてしまうのはマズい。切り札はタイミングが大事だ。軽々しく使うのも、出し惜しみするのもダメだ。絶好のタイミングで使ってこそ、切り札は最大の威力を発揮する。
『そろそろ、あなたの考えというものが何なのか、教えて下さいませんか?』
真剣そのものの声で、ミューが問い質してきた。とりあえず、小目的は達成されたので、もうそろそろ話してもいいだろう。
「実はさ、オレ自身を交渉の道具として使おうと思うんだ」
『何言っているんですか! そんなこと出来るはずがないでしょう?』
すかさず、ミューからダメ出しが出た。反対されることは、あらかじめ分かっていたのでオレは動じない。なるべく落ち着いた声で、ミューに言い聞かせる。
「まぁまぁ、聞いてくれ。オレさ、今まで散々迷惑掛けてきたお詫びに、ミューに何か恩返ししたいんだ。でも、他に方法が思いつかなくて。なぁ、ミューはオレをダシに使うなら、どうやって交渉する?」
『そんな、ダシだなんて……。私のことなどお構いなく、どうか自分のことだけを考えて下さい。私はあなたを、あなたがいたところへ帰したいんです』
切なげな声で訴えてくるミューに、真剣にオレの思いを伝える。
「オレだって、ミューを妖精の国へ帰してあげたいんだよ。ミューこそ、もっと自分を大事にしろよ」
『そのお気持ちは、とても嬉しいです。でも、あなたまで、犠牲になる必要はありません』
「もちろん、犠牲になる気なんてさらさらないさ。オレだって、家に帰りたいからな。だから考えてるんだ、オレもミューもフェーも、妖精の国へ戻れる方法を。そして、どうすれば、巨人との戦争を終わらせることが出来るのかを」
『そんな上手い作戦がありますかね?』
「その作戦を、ミューと一緒に考えたいんだ」
全ての条件をクリアする方法は、何かないだろうか。もしこの世界がゲームなら、大団円はお約束だろ? 夢も希望もないバッドエンディングなんて、とんだクソゲーだ。オレなら即刻叩き割るか、中古ゲーム屋へ売りに行くね。
『ねぇ、あたし達だけ逃げて、この巨人を置いていったらどうなるのかしら?』
急に、今まで話に参加していなかったフェーが、口を挟んできた。三日前、ロボットに追われていた時に、俺がしたのとほとんど同じ質問だった。あの時は確か、動けなくなったカラスを置いて逃げようと言ったんだっけ。
怪訝そうな声で、ミューが聞き返す。
『乗り捨てるって、ことですか?』
そんなあっさりロボットを乗り捨てるって、「○トムズ」じゃあるまいし。
『あたし達の足だけで、妖精の国へは帰れないかってこと』
フェーの台詞は、あの時俺が答えたものと全く同じものだった。オレは首を横に振りながら、慎重に考えながら答える。
「この監視の中、見られずにロボ……護衛兵から出て、オレ達の足で帰るなんて無理だよ。そもそも見つかったら、妖精として捕まっちゃうし」
『ですよね』
オレの意見に、ミューも苦笑交じりに同意した。
オレは二日前のことを思い出しながら、ミューにオレの決意と有力な情報を伝える。
「とにかく、交渉で平和的に戦争を止めるべきだ。それに巨人達は、ミューが作った護衛兵の構造を知りたがってる。技術を教えれば、もう妖精を乱獲しないって、向こうから言ってきた」
『それは、本当ですか?』
ミューが食い付いてきたので、オレは大きく頷く。
「うん。オレのことを、女王だと思い込んで交渉してきたんだよ」
『それ、信じていいのかしら?』
半信半疑といった声で呟くフェーに、オレも同じ心境だけに何とも言い難い。
「さぁ? 百パーセント信じることは出来ないけど、そう言っていたのは確かなんだ。生憎オレには交渉なんて出来なくて、人質に取られちゃったけど……」
それが何とも、情けない。だが、これは先の明るい話だ。オレは少し身を乗り出して、興奮気味に訴える。
「それが本当だとしたら、ミューの夢は現実になる。妖精が巨人に捕らえられずに、平和に暮らせる日がくるんだ。そうしたら、護衛兵なんていらなくなるし、ミューだって、妖精の国へ帰れる」
『今更帰ったところで、私を知るものなんていませんよ』
諦め切った悲しい声で言うミューを、オレは精一杯励ます。
「そんなことない。ミューのことを覚えている妖精だって、きっといるはずだ。だから、自分の国に帰ることを諦めないでくれっ。オレも諦めない、絶対に家に帰るんだ」
これは、何度も自分に言い聞かせてきた言葉だ。家へ帰る、それがオレの望み。諦めて何もしなかったら、きっと帰れない。
それに妖精の国にオレが転送されたのには、きっと何か意味がある筈なんだ。妖精の国へ戻れたら、何か分かるかもしれない。もしかしたら、この島を救う為にオレはここへ呼ばれたのかもしれない。いや、きっとそうなんだ! オレはこの島を救う、救世主になるっ!
『そうですね、分かりました。何か手を考えましょう』
ややあって答えたミューの声には、張りがあった。オレの強い思いが届いたんだ。しかし、ミューと一緒にいるフェーには、届かなかったらしい。疑いの口調で、ぽつりと呟く。
『上手く交渉出来るかしら?』
「さっきの、ミューと巨人のおっさんの遣り取りで確信した。ミューなら出来る」
あれだけ巧妙に交渉が出来るなら、オレが説得するより、ミューに頼んだ方が良いに決まっている。男よりも、女の方が口は達者だ。
しかし妙だな。ミューはこれだけ賢くて弁が立つのに、前回の交渉ではどうして失敗したんだろう?
ミューが主役を演じること前提で、オレは作戦を伝える。今のオレは、参謀官だ。表舞台には立たないが、主役をサポートする大事なポジションだ。
「まずはミューは大変だけど、この女王機を直してくれ。出来るか?」
『はい。損傷具合によりますが、ざっと見た限りではすぐ直せる範囲でしょう』
はっきりと答えるミューに、オレは力強く頷いて続ける。
「修理する時、タイミングを見計らってオレと交代するんだ。そして、ミューが交渉するんだよ。『護衛兵の情報を渡す代わりに、金輪際妖精を狩るな』って。その約束手形として、オレを差し出すんだ。妖精の男子なんて、レアもんだろ? 奴らにとっては、喉から手が出るほど欲しいシロモンだ」
『だったら、あたしも一緒に行くわ』
何故かフェーが立候補してきて、オレは目を丸くする。
「何でフェーまで?」
『男子だけじゃ、繁殖は出来ないじゃない。ツガイだからこそ、価値があるんでしょ?』
ふふんと鼻を鳴らして、得意げに言うフェーが頼もしい。オレ達がオークションに出された時、バラ売りではなくツガイとして競りに掛けられた。大方、自家繁殖させて、子どもを売って大儲けという算段だったのだろう。幸い、ミューによって阻止されたが。
正直な話、オレひとりは心細いところがあった。フェーがいてくれれば、精神的にはかなり助かる。
「なかなか賢いな、フェー」
『まぁねっ』
褒めてやると、フェーは嬉しそうに笑った。きっとコクピットでは、偉そうに胸を張っていることだろう。
『そんな、フェーさんまで巻き込むなんて、とんでもありません』
慌ててミューは否定したが、オレはまぁまぁと宥めるように言い聞かせる。
「だから、オレは犠牲になる気はないって言ってるだろ? オレもフェーも、もちろんミューも、一緒に妖精の国に帰るんだ」
『では、どうやって逃げるんですか?』
「そこなんだよな……」
ミューに問われて、オレは腕組みをして小さく唸って考え込む。今一番の最大の課題が、それなんだ。巨人の手に渡ったオレ達は、一体どこへ保管されるのか? 逃亡ルートは、確保出来そうなのか? 逃げたら、巨人達はどうするのか? 問題は山積み。
妖精が逃げても、ミューは責任を問われない。オレ達が、勝手に逃げるだけなんだからな。そもそも妖精は巨人を恐れているんだし、逃げたっておかしくないんだ。
しばし考えて、質問を質問で返す。
「この建物のセキュ……じゃなかった、この建物の警備はどうなってる?」
『相当厳重なもののはずです。それこそ、絶対に妖精を逃がさないように厳重にするでしょうね』
「じゃ、どうやって逃げ出そう?」
あーでもないこーでもないと再び考え込むオレの作戦を、ミューが切り捨てる。
『そもそも、あなた方を差し出す必要がありません』
「へ? どういうこと?」
今までの考えを一蹴されて、呆気に取られたオレが聞き返すと、ミューは淡々と説明する。
『設計図と取り扱いを教えれば、もう妖精を狩らないのですから。約束の妖精のツガイなんて、用意する必要ないんです』
「でもそれだと、妖精を密漁するようになるぞ。それじゃ、今までと何ら変わりがない。それに、構造を知られた後とあっては、もう護衛兵としての機能も果たせない」
理論的に考えて、こっちの不利は目に見えている。本来妖精を守ってきた筈のロボットが機能を失い、昔と同様に巨人達が妖精を襲う。それでは、今までミューが頑張ってきたのが、無駄になってしまう。
しかしミューは、明るい声で提案する。
『設計図の偽物を渡せばいいんですよ』
『え? そんなの、すぐバレるんじゃない?』
フェーが、疑いの声を発した。オレも同意見だ。偽の設計図なんて渡したら、すぐバレるに決まっている。何しろ、今まで散々ロボットの改ざんをしてきた巨人達だからな。
だがミューは、自信を持って答える。
『彼らにはわからない筈です。偽と言いましても、一番大事な中枢部分だけ、改造出来ないようにするんです。中枢さえ無事なら、絶対に安全です』
「中枢って何?」
『一定の条件を満たさないと、命令を利かない装置です。特殊な操作によって、爆発するようにも出来ますよ』
「なるほど、自爆装置ね」
大抵のロボットアニメのロボットには、自爆装置が付いているものだ。自爆装置で有名なのは「○イムボカン」シリーズの敵ロボットだ。うっかり押し間違えてしまうってのは、もはやお約束。「○ンダムW」では、主人公の○イロが○ンダムで自爆するという、とんでもない場面があった。
ミューも綺麗な顔して、物騒なことを考えるもんだ。○ビルドールが自爆するところを想像して、薄ら寒くなった。
ミューはくすくすと笑いながら、補足する。
『もっとも、爆発までさせる必要はありませんけどね。ただの故障と思わせるような、故意に誤作動を起こさせれば充分でしょう』
「万が一妖精を襲おうとした時に、誤作動を起こさせるとか? それによって、護衛兵による乱獲を完全に防ぐってことも、出来るかもな」
『まぁ、そういうことも出来ます。条約を結んだ以上、彼らは妖精を狩ることは出来ません。これでずっと、妖精は守られます』
やっぱり、ミューは賢い。
交渉が上手くいけば、オレ達は全員妖精の国へ帰れる。ミューも、恋焦がれた故郷の土を踏むことが出来るだろう。そしてオレも家に帰るんだ、絶対に!
お読み頂けた方、ありがとうございました。そして、お疲れ様でした。今作は一応ハッピーエンドを目指していますが、現時点では何とも言えません。もしかすると、希望に満ちた絶望かもしれません。