1-1 出会い
月明かりに照らされた海は、幻想的でいて、波打つ海面は月明かりを反射して煌めいているようにも見えた。
月はいつもより人一倍輝いているようにも見え、周りの星の輝きが、夜のパレードを沸騰させるほどに美しい光景であった。
そんな砂原に、一人の少女は座っていた。
肩ほどまで伸ばした黄色の髪、まだまだ幼さを隠しきれない顔立ちではあるが、ややつり目ぎみのかわいらしい少女であった。
心地好い海風が少女の髪を揺らす。
見慣れた風景なのに、今日は何もかもが完璧で、いつもとは違うところに来ているのかとでも錯覚してしまいそうだった。
「明日はいいことあるかな」
少女――リンはふいにそう呟いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
海を眺めて五分程度だろうか、唐突に“それ”は見えた。
なにか足音が聞こえる、そう感じて、足音がする方を見てみると、見えたのは明らかに人影であった。
足取りが不安定で、今にも倒れそうにも見えた。
案の定、その人影は糸が切れたように倒れてしまった。
「ちょ…ちょっと、大丈夫ですか!」
すぐさま立ち上がり、人影に向けて掛ける。
「あ、あの…大丈夫で――ッ!!」
人影の主は女性だった。
金色の長い髪にスーツ姿の、美しい顔立ちをした女性。
金髪という点を除けば、普通のOLにも見えた。
リンが驚いたのはそこではない。
“女性が血塗れだったということだ”。
美しい顔を苦痛に歪め、必死に足を押さえてる。傷口は股の辺りだろうか、そんなことを冷静に考えるほど、リンも正常ではなかった。
「がぅっ……あぅ」
嘔吐を押さえられず、思わず吐き出してしまう。
それが功を成したのか、多少は冷静さを取り戻した。
――と、とにかく、早急に治療しないと
彼女の怪我は、まさに一刻を争うと言っても過言ではない状態だった。
彼女が歩いてきた砂原は、血の道が出来上がっている。明らかに、血を失いすぎている。
「お~い、リン。夕飯が――おい、その人…」
「お兄ちゃん!! いいタイミングに来てくれてありがとう、この人を早く家に運んで!!」
このあまりにも非現実な状況にも、とくに戸惑うこともなく、リンの兄――シンジはこう答える。
「あぁ、お兄ちゃんに任せとけ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「………?」
金髪の女性が目を覚ましたのは、およそ15時間ほど経過した、午前10時ごろであった。
半身を起こして、辺りを見る。知らない場所だったが、そこには意識を失う前に見た少女――リンがいた。
「あっ!いや、えっと…ぐっどもーにんぐ……?」
「大丈夫よ、ちゃんと日本語も話せます」
そう答えた金髪の女性は、そのまま立ち上がろうとした。
「ぐッ……ぁ……!!」
声にならない叫びが部屋に響き渡る。
美貌を苦痛の色に歪ませ、必死に右足の股を押さえる。
「う、動いちゃ駄目ですよ!安静にしてないと…」
彼女の足には、まるで銃で打たれたかのような傷跡ができていた。なぜそう判断したかと言うと、1~2cmほどの空洞が股に空いていたからだ。
また吐きそうになってしまい、リンはシンジに応急処置程度のことはさせた、完治にはほど遠く、できるだけ早急に病院に連れていくべきである状況だ。
そのため、楽な体制で休むようにと催促するリンの手を、彼女は振り払った。
「…えっ?」
戸惑うリンを尻目に、彼女は嗚咽を漏らしていた。
痛さのあまりに泣いている訳ではないことが、リンには何となく理解できた。
しばらく嗚咽を漏らした後に、彼女は独り言のようにボソッと呟いた。
「…ダメなんですよ……早く、あの子を――」
その呟きを遮るかのごとく、乱暴にドアが開けられる。
反射的にドアの方に振り向く二人。
そこにいたのは、何を隠そう――
「ようよう!きれーなおねーさん!!悩みならこの俺、シンジさんが聞くぜ」
リンの兄こと、シンジであった。