彼女である幼馴染の寝取られ動画が送られてきて絶望していたが、間男である親友の腰振り音がモールス信号になっていることに気付いて動画を見直してみると貞操の危機であることが発覚して心が今すぐ死にそうです
『あっ♡ ああっ♡ あーんあああん♡ あっあっ♡ あんんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』
なんなんだ、これは。
とある土曜日。画面の向こうで行われてる行為に目を奪われながら、俺こと初小岩実は驚愕していた。
「これ、路夏だよな……間違いなく……」
朝届いた一本のDVD。差出人は不明だったが、今人気の作品のパッケージだったのでとりあえずリビングの再生機器で見てみると、そこには俺の幼馴染にして彼女である、瀬谷路夏の姿があったのだ。
『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』
いや、それだけじゃない。路夏を抱きながら熱烈な口付けを交わす男にも見覚えがある。
宇場津太郎。俺のもうひとりの幼馴染にして、親友であるはずの男が、画面の向こうで俺を蔑みつつ、裸で俺の恋人を抱きしめていた。
『あーっ♡ あ♡ あっっ♡ あー♡ 津太郎くんのほうが、実よりずっとすごいよ♡ あっあっあっ♡ ああーん♡ ああっ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』
本来なら拒絶しなければいけないはずなのに、大きな喘ぎ声を何度もあげて興奮の渦に浸る路夏。
路夏の瞳にはハートマークが浮かんでおり、そこには俺など映っていない。
俺の恋人はもはや、親友だと思っていた男に陥落しきっている。
それが分かってしまった。同時に理解する。
俺は恋人を寝取られたのだ。それも、長年の親友に。
俺は恋人に裏切られたのだ。長年の幼馴染で、初恋の相手に。
『へへへっ、おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜ? 俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』
「あ、ああああ……」
全身が震える。絶望が襲いかかる。
これが、これが寝取られ。これが、恋人を奪われるということなのか。
脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになる。もうこれ以上、あの動画を見ていることなんて出来ない。
「うわああああああああああああ!!!!!」
俺の心はこの瞬間、粉々に砕けてしまった。きっともう、二度と立ち直ることは出来ないだろう。
激しい絶望感に襲われ、画面から目を離しうずくまる。
目からはとめどなく涙が溢れてくるが、動画は再生したままのため、耳には路夏の喘ぎ声と津太郎が腰を振ったことにより生まれたパンパンという音が断続的に飛び込んでくる。
地獄か、ここは。
パンッ、パパン、パパッパンパン
「うぅ……ぐすっ……」
パッパッパパン、パンパンパッパ
「ひぐっ……ん?」
そうしてしばらく泣き続けていると、ふと俺はあることに気付く。
パパパパ、パパパッパーン、パッツーン
「津太郎の腰振りの音……なんだかリズミカルじゃないな……不規則というか、違和感があるような……」
そう、普通なら腰を振った際にはもっと一定のリズムが刻まれるはず。
単純に津太郎が下手くそという可能性も高いし実際下手くそなのだが、どうもそれだけには思えない。
一度浮かんだ疑問はやがて、俺を真実へと導いた。
「もしやこれは……モールス信号か!?」
間違いない、これはモールス信号だ。
余談になるが、俺には小さい頃にボーイスカウトに入っていた経験がある。
そこでモールス信号のことは習っていたが、その時は幼馴染で親友だった津太郎も一緒だったのだ。
お互いにモールス信号で会話をする遊びに一時期ハマっていた時期もある。津太郎が今でも覚えていても不思議じゃない。
「だが、何故寝取り中にモールス信号を……」
疑問符が浮かぶが、とりあえず今は津太郎がなにを伝えたいのか解読するほうが先決だ。
動画を最初まで巻き戻し、俺は意識を津太郎のケツと腰を打ち付けるパンパン音に集中する。
『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』
パンパン パパパン パーン!
「S……O……S。SOS!? 助けてってことか津太郎!?」
口では間男全開のことを言いながら、下半身で真逆のことを俺に伝えてくる津太郎。
しかし、何故寝取った相手に助けを求めてくるのかさっぱり不明だ。
答えを知るべく、俺は動画の視聴を続けていく。
『へへへっ、おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜ? 俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』
(助けてくれ実! 俺は路夏に脅されて、無理矢理この動画撮影に協力させられているんだ! この寝取り動画を、同人AVとして販売して売りさばくために……! このままじゃ俺、AV男優として世界デビューすることになっちゃうよおおおおお!!)
「なん……だと……」
同人AV!? な、なにを言ってるんだ。
いや本当になにを言ってるんだ!? 意味不明にもほどがあるぞ!?
『実ぅ? 見てるかこの俺の腰使いを! お前にはこんなテクはないだろ? ほーれほれ!』
(気付いてくれ実ー! バレたらママに叱られちゃうよ! なんでも路夏は友達がパパ活で高級バッグを買って貰ったのが羨ましかったらしく、対抗しようとしてAV撮影を思い付いたらしいんだ! お前じゃなく俺を竿役に選んだのは、NTRもののほうが売れるからとかいうふざけた理由だ! お前の脳がどれくらい破壊されたかによって、どう販売するか決めるらしい!)
「えぇ……」
そんなしょうもない理由で俺寝取られたの?
いや、寝取られたっていうか路夏の自作自演なんだけど……てかそんな友達さっさと切れよ。パパ活やってるとか今どき洒落にならんぞ。いや、路夏のやってることも全然笑えないんだけど。
お前高校生のうちからなにやってんの。
『悔しかったらこの動画を送ったUSBに添付するサイトをクリックして、この動画の評価をするんだな! 星5に入れてくれたなら、路夏を返してやってもいいんだぜぇ? 感想もつけてくれたらなおグッドだ!』
(これは罠だ実! お前が星5に入れたら出来がいいってことで即販売を開始することになっているんだ! そうなったら、俺は終わりだ! 感想だって書くなよ! 絶対書くなよ!? これはフリじゃないからな! 俺は絶賛腰を振っているけど!)
やかましいわ。てか余裕あるじゃねぇかお前。
だいたい、お前さっきから自分のことばかりじゃねえか。
まず俺に謝るのが礼儀ってもんだろ。なんか段々ムカついてきたな。
なに謝りもせずに助けを求めて腰振ってんだ。ふざけんなよ、殺すぞ。
『ハハハ! 気持ちよすぎて涙が出てきたぜ! 俺の将来、どうなるんだろうなぁ!? 高校生でパパになっちゃうのかな!? やべーな、ヒャハハハハ!』
(いやだよおおおお! AV男優なんてママになんて言えばいいんだよおおおお! 代わってくれよ実ぅ! 俺、パパになんてなりたくない! 大学に行って遊びたいよおおおお!)
絶望しながら腰を振るとか器用なやつだな。
さっきは下手くそとか言って悪かった。誇れ、お前は凄い。
あとすまん。俺は絶対代わりたくない。お前が頑張ってくれ。俺はもう路夏に見切りをつける。とてもじゃないが、俺の手に負える女であるとは思えん。
お前に譲るから、あとはふたりで撮影を頑張って……。
『あーっ♡ あ♡ あっっ♡ あー♡ あーん♡ あっあっあっ♡ ああーん♡ ああっ♡』
……さっきから気になってたけど、路夏の喘ぎ声も大分うるさいな。
こっちもなんか規則性がないし、いつもと違っててどうにも不自然……はっ!?
「も、もしや……路夏もモールス信号を!?」
路夏も俺の幼馴染だ。
以前習ったモールス信号について教えたことがあるし、路夏がつかえても不思議じゃない。
「だ、だが何故路夏も……い、いや、考えても仕方ない。とりあえず最初から見直しだ!」
俺は再度一から動画を見返し始め、意識を津太郎から路夏へと切り替える。
パンパン音から喘ぎ声というのがいろんな意味でひどすぎるが、そもそもこの状況自体がカオスなので、そこは今更気にしても仕方ないだろう。
最悪なこの状況に、俺は適応しつつあった。いや、心底したくないんだが、人間って慣れるものなんだなぁ……(諦め)
『あっ♡ ああっ♡ あーんあああん♡ あっあっ♡ あんんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』
(実、見てる? ごめんね、私寝取られちゃった。なーんて嘘♡ 勿論演技だから心配しないでいいよ。後でちゃんとネタバラシするから許してね♡ お金入ったら、一緒に旅行行こうね? あ、お返しにブランドバッグを買ってくれてもいいんだよ?)
「えぇ……」
しょっぱなからノリ軽っ! かりーよ!
お前、罪悪感とかないわけ? 演技とか言ってるけど、お前がっつり本番やってるからな? そのことちゃんと分かってる? ……分かってないだろうなぁ、絶対。
『あーっ♡ あ♡ あっっ♡ あー♡ 津太郎くんのほうが、実よりずっとすごいよ♡ あっあっあっ♡ ああーん♡ ああっ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』
(んーやっぱ津太郎くんの気持ちよくないなぁ。下手くそだし。これ、AVとしてちゃんと売れるかなぁ。女優の可愛さならバッチリだと思うんだけど。顔と幼馴染って関係だけで津太郎くんを男優に選んだのは失敗だったかなぁ。でもプロの人に頼むと絶対高いし……あーあ、やっぱり素直に実と撮影したほうが正解だったかも。あー、てか痛い! 下手くそかよ! 引くわ!)
俺はお前にドン引きしてるよ。
なにモールス信号で男優批判してんだよ、こえーよ。
『実ぅ、ごめんね♡ でも実だって悪いんだよ、私を放っておくから……だからこんなことになっちゃったの。私たち、もう元の関係には戻れないね……』
(こんな感じでしおらしくしたほうが、ウケはいいんだっけ? あー、人気あるからってこんな臭い台詞言うの嫌だなぁ。寝取られってなにがいいんだろ? 実には分かる?)
わかんねーよ。つーか聞くな。
最初に見た時、マジで心が壊れそうになったんだからな。
喘ぎながらそんな冷静に聞いてくるお前が怖すぎて、今やすっかり冷めきってるよ。
こうしてツッコミ入れられるくらいに回復こそしたけど、興奮は一切しない。
てか、出来るはずがない。今後AVで興奮出来るのか、今はそれだけが心配だ。
『実、私君のこと、本当に好きだったよ。でも、今はもう身も心も津太郎くんのモノなの♡ ごめんね実♡ 私、津太郎くんに寝取られちゃった♡』
(あー、だりー。身体使って稼ぐって楽じゃないな。あ、そうだいいこと思い付いた! 私じゃなくったっていいじゃん! 今は男同士の絡みも需要あるって言うし! 津太郎くんと実でAV撮影して私が監督すればいいんだよ! 私って天才!)
「えっ」
え、お前なに言ってんの。本当になに言ってんの!?
正気か!? いや、正気じゃないことは分かってるけど、気は確かか!?
悪魔みたいな発想しやがって!? 人の心ってものはないんかお前!?
『でもね、私ふたりには仲良くして欲しいんだ。だって私たち、あんなに仲が良かったじゃない。もう元の関係には戻れないかもしれないけど、それでも……いつか、また……』
(よーし、そうと決まれば早い方がいいよね。実の弱みもたくさん握ってるし、この動画が届いたら早速撮影を始めちゃおうかな。あ、勿論実にもちゃんとギャラは払うから安心してね♡ お金入ったら、三人で一緒に海外に旅行に行こう♡ 向こうのガチムチお兄さんたちと絡んだ第三弾のAV出せば、さらにお金入ってくるよね♡)
「………………」
『実! 実ぅっ!』
(助けて実! 親友の俺を助けてよおおおおお!)
『あっ♡ 実ぅ♡ 見てて、私が津太郎くんに堕ちるところを♡』
(お金♡ 海外旅行♡ バッグ♡ 私、最高♡)
『『うぅ、もうイク——』』
そこで俺は動画の再生を止めた。
そして椅子から立ち上がると、パソコンに刺していたUSBメモリを即座に抜き取る。
「……嫌だ」
適当にジャケットを羽織ると、部屋から出る。
路夏は俺が動画を見たら脅してくると言っていた。もう時間がない。尻の貞操が、俺の命が、さらに言えば人生そのものが危なかった。
「津太郎やガチムチのお兄さんたちに掘られるとか、絶対に嫌だあああああああああああ!!!」
絶叫とともに家を飛び出し、俺は路夏のおばさんに密告するべく、路夏の家へと突撃するのだった——。
ちなみに後日。
「なぁ実。路夏ちゃんが作った寝取られの同人AV、まだまだ作りが甘かったしパパが指導させてもらってもいいかな? これでも寝取られAVマエストロとしてその筋では有名なのがパパなんだよね」
「前は津太郎くんが相手だから失敗しちゃったけど、実なら大丈夫だと思うの。あ、パパさんとの絡みでも私は全然大丈夫だよ?」
「殺すぞ」
懲りずにまだ撮影をしようとする路夏と戯言を抜かす父親にブチギレることになるのは、また別の話である。




