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好敵手

 訓練場は、昼下がりの熱気に包まれていた。


 だが、その空気の中心だけは妙に張り詰めている。


 周囲の視線を集めているのは、白銀のショートヘアの少女――ジュリア・アークライトと、金髪の少年ジェラルドだった。


 本来なら、年齢も体格も近い。

 だが実際の光景は、模擬戦というより“指導”に近かった。


 バシィッ――!


 木剣が高く宙を舞う。


「……っ!」


 ジェラルドが反射的に飛び退く。


「甘いです。踏み込みが見え透いています」


 ジュリアは淡々と言い放つ。

 直後、再び踏み込む。


 バシィッ!


「まだ!」

「そこです」


 木剣同士が激突する。


 エドワードは腕を組み、その様子を複雑な表情で見つめていた。


(……なんでこんなに胸がざわつくんだ)


 理由は、自分でも分からない。

 ただ。ジュリアが剣を握っている時だけ、妙に遠くへ行ってしまう気がした。


 バシィッ!


「まだまだ!」

「悪くありません。でも、遅い」


 バシィッ!


「っはぁ……っ、はぁ……!」


 とうとうジェラルドが大の字に倒れ込む。


「少し休憩しましょうか、ジェド」

「あー……やっぱお前とやるの、楽しいな……」

 息も絶え絶えのまま、ジェラルドが笑う。


 ジュリアは呆れたように肩を竦めた。

「大の字で言われても説得力がありませんが」


 その時だった。


「失礼。僕とも手合わせしてもらえないか?」

「俺も!」

「ぜひ、お願いしたい!」


 気づけば、周囲には木剣を持った生徒達が集まり始めていた。

 各国の騎士家系、武門貴族、実力自慢の少年少女達。

 その視線は、完全にジュリアへ向けられている。


 ジュリアは一度だけ周囲を見渡し。


「構いませんよ。誰からでもどうぞ」


 と、平然と言った。


 ――その後。


 バシィッ!


「次」


 バシィッ!


「次」


 バシィッ!


「つ、次……!」


 木剣が飛ぶたび、訓練場のざわめきが大きくなっていく。


「何だあれ……」

「動きが実戦すぎるだろ……」

「本当に侯爵令嬢か?」


 誰かが呟いた。


 そして。


「……次、私」


 静かな声が響く。


 人垣の向こうから現れたのは、小柄な獣人の少女だった。

 猫のような耳。

 細い体。

 だが、その金色の瞳だけが妙に鋭い。


 ジュリアは少女を見た瞬間、僅かに目を細めた。

(……足音が薄い)


 少女は静かに木剣を構える。


 その瞬間。


 ジュリアの空気が変わった。

 先ほどまでとは違う。

 軽く流していた呼吸が、静かに沈む。


 まるで。本当に“敵”を前にしたような静けさ。


 エドワードは眉を寄せた。


(……なんだ、これ)

 自分の知らないジュリアを見た気がした。


 先に動いたのは獣人の少女だった。


 低い。


 一歩目が、異様に速い。


 ――カン!

 ――コン!

 ――カカン!


 木剣が連続してぶつかる。

 だがジュリアは、真正面から受けない。


 流す。逸らす。躱す。


 最小限。


(強い)


 エドワードの背筋に、ぞくりとした感覚が走る。


 そして。ジュリアの口元に、ほんの僅か笑みが浮かんだ。


 ――速い。


 純粋に、そう思った。


 その瞬間。

 獣人の少女の視界から、ジュリアが消えた。


「――え」


 気づけば。

 喉元へ木剣が突きつけられていた。


 観客席から間の抜けた声が漏れる。


「……へ?」


 静寂。


 ジュリアが木剣を下ろす。


「貴女、面白いですね」


 獣人の少女は呆然としたまま、ぽつりと呟いた。


「初めて……負けました」


 ジュリアが首を傾げる。


「私はジュリア。貴女は?」

「リィン、といいます」


 ジュリアは、ふっと笑みを浮かべた。


「よろしく、リィン」

 そう言って手を差し出す。


 リィンは一瞬だけ目を瞬かせ――自然と、その手を握り返していた。


 その光景を、ジェラルドは「すげぇなあ」と素直に見つめ。

 エドワードだけは、酷く胸の奥がざわつくのを感じていた。


-----------------------


 食堂。


 リィンは、完全に来る場所を間違えたと思っていた。


 長机の中央に座る白銀の少女。


 その周囲を囲むのは、各国でも名の知れた名家の子弟ばかりだ。


 ヴァランタン公爵家。

 ランカスター辺境伯家。

 アークライト侯爵家。

 ベルンシュタイン侯爵家。

 エルソン大商会。


(……なんで私ここにいるの)


「リィン。獣人です」


 必要最低限だけ名乗る。


 すると。


「僕はマクシミリアン・フォン・ベルンシュタイン」

「レオナード・エルソンだよ」

「僕はエドワードだ」

「ミシュリーヌよ」

「ジェラルドだ!」


 次々に自己紹介が返ってきた。


(重い重い重い)

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