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拾遺奇譚『よらばけ』  作者: 編纂天使モブリエル
『 雨』編

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2/5

『白 』


「無理」

「目ぇ冷めたわ」


 一周している。見ての通り、自明の理。


「なんなんだよこれ、駅に降りたのがまずかったのか?」


 別の駅だろうか? いや、こんな短距離で複数駅を設ける必要はない。サネノリは目がいいのだ。掘立小屋のほったて具合、タバコ広告の謳い文句、先ほど蹴っ飛ばした大きめの砂利。全て見たことがある。


「もっと前からだろうな」

「前からって、いつだよ」


 会話しながらも、エンは足を止める気はないようだ。ずんずんと掘立小屋駅が近づいてくる。


「俺が気がついたのはホタルが女学生に声をかけたあたりからだ」

「僕!? なんで?」





「サネノリも気にしてないようだったし、お前達も見えてるんだなと思ってな」





 ぽん。ぽん。ぽん。ちぃーん。





「おいうそだろ、ふざけんなよ!」

「えまって、あの子幽霊なの? 嘘でしょ!?」

「なに、幽霊というか……あぁ、ほら」


 エンが示す先、掘立駅から、陸導機内で出会った女学生が現れた。相手も気が付いたのか、こちらに向かって手を振っている。黒髪のマガレイトに矢がすりの小袖。袴に編み上げブーツといった格好はどこからどう見てもハイカラ(いまどき)な普通の女学生である。そう、つまりはかわいい。


「よかった合流できて。せっかくだから皆さんに、村を案内したくて」

「次の駅から歩いてきたの? この短時間で?」

「さぁ、こっちです! お祭りをやるんですよ」


 ホタルの質問はさらっと無視された。


「まさかお前ら、ついて行く気か?」

「うーん、女の子の誘いは断れないでしょ?」


 恐怖より女性が大事。それがホタル。いや、もしかしたら恐怖心が振り切れてしまったのかもしれない。どちらにせよ、ホタルの通常通りの行動に見える。


「アホか! 俺は絶対行かねぇ!」

「どうもこういうのは、ある程度進まないと帰り道が提示されない物だ。怖いなら一人で震えてろ、クズ」

「こここ怖くねぇし! あとクズって呼ぶな」

「ちょろ。チョロノリ」

「聞こえてんぞ! この軟派ホタル!」

「ノリくん、それは事実だよ。なんの攻撃にもならないよ……」

「ぐ……」


 こういう口喧嘩はいつもの事だ。なんだかんだと言いつつ何時も一緒に行動しているのだから、仲がいいのだろう。本人たちに言ったら否定しそうではあるが。青少年、年相応で宜しい。

 賑やかしい馴れ合いをしつつ、女学生の案内で村方面へと足を向ける三人であった。



  ◇  ◇  ◇



「あぁそうだ、改めて自己紹介させてください。私はナナミと言います。よろしくお願いしますね」


 女学生もとい、ナナミが道すがら声をかける。


「はーい! 僕はホタル! (ほたる) 三宇(みつのき)だよ。よろしくね♪」

「ふふっ、それはさっき聞いたよ」


 流石のホタル。正体不明の相手でも女性ならいけるらしい。


「それから、こっちの陰険眼鏡が、(おおとり) (えん)。んで、こっちの脳筋アホが、九頭龍寺(くずりゅうじ) 真実(さねのり)まぁこいつらの相手は適当でいいから」

「おい、どっから突っ込めばいいかわかんねぇよ!」

 

 サネノリは混乱した!

 

 ここはどうやら、四方を山に囲まれた盆地のようで、どこを向いても視界に緑が映る。夏前、植えられた稲はまだ穂のない状態で、さらさらと揺れる音が耳に心地いい。

 何処までも続くと思われた田園地帯だったが、ナナミの案内に続いていくと、少しずつ人家が増えてくる。それと同時に、砂利道の端々に提灯が立てられているのがわかった。どうやら祭りがあるのは本当のようだ。

 提灯には寄付者の名前とともに、2匹の蛇が螺旋を描きながら登っていく紋様が描かれている。主催の神社かどこかの紋だろうか。


「なぁ、他に人はいねぇのか?」

「みんなはお祭りの準備をしてるよ。さぁ早く、こっちが近道ですよ」

「近道って、何処に行くんだよ」

「こっち、さぁさぁ、大丈夫ですよ」


 サネノリの質問に答えるナナミ。笑顔を浮かべ先を促す。


 三人が連れられ訪れた場所は広場のようだった。

 確かに縁日の準備が進められているようで、作りかけの屋台がいくつか建ち、中央には建設途中の(やぐら)がある。地面は土が踏み固められており、定期的に人の集まりがある事が推測できる。屋台の数や櫓のサイズからして、そこそこ大きな催しのようだ。山に囲われているとはいえ、それなりの出入りが期待できそうだ。

 しかし。


「人っこ一人いねぇ」

「やっぱり、駅で待ってたほうがよかったかなぁ」


 ホタルとサネノリが広場の入り口で立ちすくむ中、エンは縁日を一周する事にしたようだ。ナナミもそれについて回っている。


「あ、きゅうりの一本漬け! あれ美味しいですよね。私好きなんですよ」

「酒が飲みたくなるな」

「いいですね!」


 こちらは概ね平和なようだ。


「なんだホタル、怖いのか」

「そりゃ怖いでしょ。ノリくんは怖くないの?」

「さっきまでは怖かったけど、今はそんなに。なんか襲ってくるわけでもねぇし」

「えぇ、脳筋かよ」


 こちらも概ね平和だったわ。


 そんなお互い平和な世界を展開しながら、エンとナナミは広場の入り口から、櫓を挟んだ反対側に辿り着いていた。

 広場を囲むように木々か茂っているが、この辺りだけ開けている。向こう側へ行けないように柵が立っているが、よく見ると錆が広がっており、崩れた隙間から向こう側へ行けるようだ。


 エンも好奇心溢れる少年である。咎める大人も近くにいないとなれば、やる事は一つ。そんなの見ちゃったら行くしかないよね。わかる。わくわく。


 錆に服を引っ掛けないよう、慎重に超えた。柵の向こうは崖のようだ。慎重に覗き込む。切り立った崖から二、三メートル程下がった所に川が流れているのが見える。そこそこに急流だ。柵が設けられたのも頷ける。ここに落ちたら川下まで流されるだろう。


「綺麗でしょう? 私の母です」


 咄嗟に振り返ると、真後ろにナナミが立っていた。ふんわりと笑顔を浮かべていた。


「母を、よろしくお願いします」

「は?」



 瞬間。

 


 エンは突き落とされた。崖下に。


 彼女の黒髪に結ばれた赤いリボンが目に映る。


 そのまま視界は宙へ向かい、広場でエンが最後に見た景色は、薄らと雲に覆われた空だった。



現代社会において、二十歳未満の飲酒は法律で禁止されています。真似しないでね

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