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嫌われ者の王女殿下は運命の恋を信じない  作者: 雪嶺さとり


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7.嫌われ者と運命の人

お待たせしました!ようやくヒーロー登場回です!


 それからはあっという間に嫁入りの準備が進められ、気が付けば私は船の中だった。


 陸路では時間がかかりすぎるということで船旅ということになったが、選ばれた侍女たちはどれも王妃殿下の差し金であろう者たちで、とても落ち着けそうになかった。


「ご自分のことはご自分でなさってください。幼子でもないのですから、それぐらいできますでしょう?」


 ツーンと顔を背けて言ったのは、かなり年若い侍女だった。


 とんでもない物言いだが、他に聞いている人間はいないからできるのだ。

 

 あまりに無礼ではないかと思うものの、私の侍女になったのは不本意だったのだろう。


 実際、彼女たちが私の陰口と共に聖女様の侍女だったら……とがっかりしていたのを何度も耳にした。

 

 持っていた服ではあまりにみっともないということで新しく衣服は支給されたものの、似合わない色やデザインのドレスに、サイズの合わない靴、ぎらぎらして派手なだけで品のない装飾品、と散々だった。


 そのうちすぐに侍女たちは私に見向きもしなくなり、私は慣れない環境でストレスを貯めながら船室に閉じこもるしかなかった。


(景色……見たかった……)


 外に出れば侍女たちと顔を合わせてしまう。


 それだけでなく、船酔いが酷くとても景色を楽しむ余裕はなかった。


 ベッドでうずくまり、早くエトルシアにつかないかと必死に祈る。


 船酔いは治癒魔法では治せず、酔い止めの薬も貰えるわけもないので耐えるしかない。


(エトルシアのレモンタルト……エトルシアのジェラート……エトルシアの……うぅ)


 エトルシアの美食の数々を思い浮かべてみるものの、全く気が紛れることはなかった。


 食べたこともなければ見たこともないが、エトルシアは美食の国でもあるというのでそれだけは気になっていた。


 なにせ、離宮では食事量は不自然なまでに減らされ、冷めたて油が固まったスープや硬くなったパンばかりの質素な食生活だったのだ。


 年老いた王に嫁がされるのだから、せめて一つぐらい楽しみがあったっていいじゃないか。


(追い出されて野垂れ死ぬ前に……美味しいものを食べてみたかった……)


 襲い来る吐き気と戦いながら、私は硬く目をつぶりやり過ごすしか無かった。





 そうして永遠にも感じるほどの時間を過ごし、ようやく船はエトルシアに到着した。


 そこからまたさらに馬車で移動し、なんとかエトルシア王城までたどり着いた。

 

 白亜の城、とでも言うのだろうか。


 汚れひとつない真っ白な城壁は青い空に良く似合う。

 気候も温暖だと聞いていた通り、暖かな陽気に包まれていて、時折吹き抜ける潮風が心地よかった。


 相変わらず侍女たちは聖女への憧ればかり語っていたが、私はエトルシアの街並みに夢中になっていた。



「ようこそお越しくださいました、イングリット様」


 エトルシア王城で真っ先に出迎えてくれたのは、第二王子殿下のヴィーラント殿下だった。


 ブロンドヘアで爽やかな笑顔が良く似合う素敵な貴公子だ。


「イングリット・フィルゼスタと申します。この度は我がフィルゼスタとの国交のため……」

「ごめんなさい、そういう形式張ったものは後でお願いします! とりあえず先に安全な場所にご案内しますね!」

「……え?」


 礼儀正しく挨拶しようとすれば、なぜかヴィーラント殿下は大急ぎで私たちを城の中へ案内する。


 侍女のうちの一人から王女殿下の礼儀がなっていないから怒らせた、と小声で怒られたがそうではないように思えた。


(なんだか、様子が変ね……?)


 白の中は閑散としていて、歩いていても使用人とすれ違わない。


 美しい調度品は並んでいるものの、どことなく数が少なく、配置も不自然だ。


 それに、遠くから怒号のようなものと剣戟に似た音が聞こえてくる。


 騎士たちの訓練場が近くにあるのだろうか。


「あの、ヴィーラント殿下」


 恐る恐る話しかけてみるも、彼は立ち止まらず早足で歩く。

 

「説明は後でします。とにかく、今はどこかに隠れてもらって……」


 そう言いかけて、突然彼の足が止まる。


 急に立ち止まれず彼の背にぶつかりそうになって、なんとか堪える。

 靴が小さくてそろそろ足が痛くなってきた。



「おや……僕のお嫁さんはもう来てしまったのかい」



 ヴィーラント殿下の向こうから、誰かの声が聞こえてくる。


「あ、兄上……!」


 彼の肩越しに覗き込んで、すぐに後悔した。


 血みどろの男が剣を携えて立っていたからだ。


 大礼服と思しき黒を基調とした衣装からは赤黒いものが滴っており、頬には血液がこびりついて乾いてしまっている。


 濃紺の髪は綺麗だけれど、一部の色が濃いのもきっと血を被ったからだろう。


 剣にはべっとりと血がついていて、全体的に鉄臭さを放っていた。


「きゃぁぁぁっ!」

「誰かっ! 賊ですわ!」


 侍女たちが甲高い悲鳴を上げて逃げ惑う。


 私も叶うなら悲鳴を出したかったが、あまりの衝撃に声すら出なかった。


「兄上! だから一度湯浴みをしてから来てくださいとあれほど……!」

「ごめんね、本当は綺麗にしたかったんだけど、連中を始末するうちに気づいたらこうなっちゃって」

「そろそろ洗濯係の気持ちにもなってください!」


 ヴィーラント殿下は目の前の血みどろの男を叱っている。


 へらへらと笑っているところを見るに、彼の怪我ではなく返り血の類のようだ。


「あ、あ、あの……」


 今、彼は『兄上』と口にした。


 であれば必然的に、目の前の男は賊ではなく第一王子オルクス殿下ということになる。


「こうなるから会わせたくなかったのにっ!」


 ヴィーラント殿下は頭を抱えてしまったが、それはこっちも同じ気持ちだ。


「そちらの殿方は……」

「君は……」


 血まみれの男と視線が合う。


 思わず一歩後ずさる。


 すると、彼はカランと音を立てて剣を落とした。


 目を見開いて私を食い入るように見つめ、じりじりと距離を詰めてくる。


 慌ててヴィーラント殿下の影に隠れようとすると、彼は弾かれたかのように飛び退いてしまった。


 なぜ、と思うまもなく、血みどろが迫ってくる。


「あぁ、やっと会えた……! 君は、僕の運命の人だ!」

「……え?」


 聞き間違いだろうか。


 この人は、今、私に運命の人だなんてことを口走った。


 そして血まみれの白手袋を脱ぎ捨てると、私に迫ってくる。


 目を見開いて私を食い入るように見つめ、じりじりと距離を詰めてきたのだ。

 

 慌ててヴィーラント殿下の影に隠れようとすると、彼は弾かれたかのように飛び退いてしまった。


 なぜ、と思うまもなく、血みどろが迫ってくる。


 ――――――え? 私、ここで死ぬの?


 殺される……そう思った矢先。


 彼は剣を捨て置き私の手を握りしめた。


 かしゃん、という金属がぶつかる音が響く。

 

「僕はオルクス。僕こそが、エトルシア王だ。ようこそ、僕の花嫁さん」


 きらきらと瞳を輝かせ、うっとりと彼はそう言った。


「僕はオルクス。僕こそが、エトルシア王だ。ようこそ、僕の花嫁さん」


 きらきらと瞳を輝かせ、うっとりと彼はそう言った。


(運命? 王? では、年老いた国王はどこへ……?)


 見つめられても何も出せない。


 思わず仰け反りそうになりながら、ヴィーラント殿下に助けを求めるように顔を向ける。

 

「我が兄上は、つい先日先代国王の死去に伴い即位されました。やはり、船の中までは情報が伝わっていなかったのですね……」

「ええと、つまり……この方が、私の夫ということで……?」


 ヴィーラント殿下は勢い良く頷いた。


 後方では腰を抜かした侍女がしきりに悲鳴をあげている。


 むせ返るような血なまぐさい匂いと、不釣り合いなまでに爛々と期待に満ちた輝く瞳。

 

 どうやら、自分が船酔いしている間に嫁ぎ先は大変なことになっていたらしい。



(あ、もうダメ……)



 私はそれだけ理解すると、船旅の疲れと血まみれのショックで、視界が真っ暗になっていった。


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