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嫌われ者の王女殿下は運命の恋を信じない  作者: 雪嶺さとり


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4.嫌われ者と冤罪


 お姉様の婚約発表パーティを前にして、私が贈ったネックレスを身につけたいとお姉様が希望したため、一足先に開封したのだという。


 そうしたら、ネックレスの留め具部分に針が仕込まれていたのだ。


 針には毒が塗られており、もしお姉様が触れていたらどうなっていたことか。



 そうして私は、身に覚えのない罪で取り調べを受けていた。

 国王の前に引きずり出され、毒殺を認めろと尋問された。


 衛兵に取り押さえられ、まるで罪人のような扱いだった。

 


「私は断じてそのようなことはやっていません! お姉様の結婚をお祝いしたいという思いに嘘偽りなどありません!」


 涙ながらに訴えても、お父様は渋い顔をされるばかり。


 隣に並ぶ王妃殿下は、汚いものでも見るかのような侮蔑の視線を私に向けていた。


「そもそも、私は見本を見せていただいただけで実物には指一本触れていませんわ!」

「だが、宝石商にお前が指示したのではないか。奴らが断固として口を割らないのも、お前が命じたからではないかと皆疑っておる」

「ありえません! 私にそのような権力がないことなど、他でもないお父様がご存知でしょう!」


 こんな屈辱を受けたのは初めてだった。


 必死に反論すれば、王妃殿下が私を鼻で笑った。


「そうは言ってもねぇ……。あなた、カイル公子へ想いを寄せていたと聞いたわよ。嫉妬のあまりこんなことをするなんて、恐ろしいわ」

「っ……!?」

「さすが、あの女の娘というだけはあるわね」


 カイル様への片想いを、どうして王妃殿下が知っている。


 動揺のあまり、私は荒い呼吸をして汗を滲ませてしまう。


(まさかこれは……全て、王妃殿下が仕組んだことなの?)


 そもそも、お父様から宝飾品の購入許可が下りた時点で疑うべきだった。

 お父様はお姉様を大変に可愛がっていたからだとばかりに思っていたが、最初から王妃殿下が仕組んでいたとしたらどうだろう。


 私を嫌っている王妃殿下にとって、これは私を抹消するまたとない機会でしかないはずだ。


 この期に及んでようやく気がついた私は、血の気が失せる思いで王妃殿下を見る。


 王妃殿下はそれはもう嬉しそうに笑っていた。

 

「陛下。今すぐこの娘を処刑しましょう。聖女を暗殺しようだなんて、国賊に等しいですわ」

「だが、それではクリスティナが悲しむだろう」

「まあ、あの子ったら人殺しにまで情けをかける必要などないのに。なんと優しいのでしょう」


 お父様は私を処刑することに渋っているようだが、それは私への親子の情ではなくお姉様のためだという理由だった。


 この場に私の味方は誰一人としていない。


 トレイシーは私が衛兵に捕まった時、同時にどこかへ連れていかれてしまった。


 私は誰かを祝うことすら許されなかったのか。

 苦しくて、涙が一筋頬を伝う。



 だが、私が処刑されることはなかった。



「陛下! 宝石商が口を割りました。犯人は第二王女殿下ではありません」


 扉を開けて急ぎ足で駆け込んできたのは、カイル様だった。


 隣には王太子殿下もいる。

 

「なんと!」

「父上、詳細をお聞かせします」


 王太子殿下がお父様に話をしているが、私の耳には何も入ってこなかった。


 ただ、カイル様が助けてくれたという事実だけが嬉しくて、安堵の涙が止まらなかった。


 けれど、私がカイル様を見ていることに気づいた彼は、私のことを冷たく睨みつけた。


(え……)


 あの頃の優しい笑顔とは似ても似つかない冷めきった表情には、侮蔑と嫌悪が詰まっていた。


 王太子殿下の話を聞いたお父様は、大急ぎで臣下を引き連れどこかへ向かう。


 王妃殿下は悔しそうな顔だったがお父様について行った。


 私を取り押さえていた衛兵は、戸惑ったように解放してくれたが、王太子殿下もお父様も私に一瞥もくれなかった。


「立てますか」


 顔を上げれば、カイル様が手を差し伸べてくれていた。


 思わず喜んで手を取る。


 けれどカイル様は、私を強引に立たせてからため息をついた。


「第二王女殿下。はっきり言わせていただきますが、あなたの存在は迷惑です」


 あまりの衝撃に、彼の言葉が上手く飲み込めなかった。

 

「え……カ、カイル様……」

「今回の件は、あなたの犯行ではなかったとはいえ、元はと言えばあなたの浅慮な行動がきっかけではありませんか」

「そんな……」


 唖然とする私に、カイル様は怒鳴り声を上げて詰め寄る。

 

「聖女であるクリスティナを狙う勢力は数多くいるというのに、他でもない妹のあなたが彼らに付け入らせる隙を与えてどうすると!?」

「っ……ご、ごめんなさ……」


 びくっと身体を震わせて情けなく謝罪をするも、声はか細くなってしまった。


 あまりの気迫に、傍観していた衛兵も驚いている。


 お姉様のことを愛しているからこそここまで怒るのだろう。


 けれど、なぜそこまで言わけなければならないのかと、また泣きたくなってしまった。


「クリスティナがあなたのことを庇うから信じていたものの、やはり噂通りのどうしようもないお人だったようですね」


 軽蔑した、と視線が語っている。


「同じ王女であるというのに、なぜクリスティナのような聡明な振る舞いができないのですか?」


 君は君らしく生きれば良いと言ってくれた他でもない彼がそれを言うのは、私にとってあまりに残酷だった。


(私、馬鹿だった……)


 長年私を支えてくれた思い出が、音を立てて崩れ落ちていく。



『――――――他人の評価なんかに振り回されて、別の誰かになろうとなんてしなくていい。自分を貫いて生きていれば、いつか必ず、君を認めてくれる人は現れるだろう』



 カイル様は、私を認めてくれる人ではなかったようだ。


 お姉様のようになれない私は、不必要な存在だった。


 第二王女イングリットは国民もカイル様も望んでいない存在で、私は聖女クリスティナの劣化品にすらなれなかった。

 

「クリスティナのことを思うのなら、首飾りではなく王宮を出ていくべきでしたね。あなたのような浅はかな人が義妹になるなんて思いたくもない」


 カイル様は吐き捨てるように言う。

 私は何も言い返せなかった。

 

「二度とクリスティナの前に顔を出さないでください」


 カイル様はそれだけ言うと、私を置いて去っていった。

 立ち尽くしたままの私を、衛兵だけが困ったように見ていた。

 

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