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嫌われ者の王女殿下は運命の恋を信じない  作者: 雪嶺さとり


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2.嫌われ者の初恋


 カイル様との出会いは、十歳を過ぎた頃のことだった。


 高位貴族の子どもを集めたお茶会が王宮で開かれ、私も出席していた。


 招待された時は何も知らず喜んでいたが、お茶会の主催者は王妃殿下――――正妃。出席者も正妃の派閥の貴族ばかり。


 私は笑いものにされるために呼ばれたのだった。


「第一王女様に魔法を見せていただいたのですが、第二王女様はどのような魔法を使うのですか? ぜひ見せてください!」


 にやにや笑って私に言ったのは、どこの家の令嬢だったか。


 当時まだ魔法を上手く扱えなかった私を前に、わざと披露してみせろと場を煽ったのだ。


 仕方なしに断れば、途端にお茶会は私を嘲笑う雰囲気に包まれる。

 

「第二王女様は、第一王女様とまるで違うのね。年齢は同じくらいなのに」

「お母様が違いますものね。第二王女様にもきっと良いところはあるはずですわ。十年や二十年もかければ第一王女様に少しは追いつけるのではなくって」

「ふふ、その通りね。生まれた時から全てが違うんですもの。第二王女様はたくさん頑張らないといけませんわねぇ」


 直接的な罵りは出なかったものの、暗に私が第一王女とは比べ物にならない劣等生だと語っていた。


 くすくすした笑いと共に、皆が私を小馬鹿にしている。


 多数からの悪意にさらされ、私は堪らず逃げ出し、庭園の陰で涙を流してまった。



 カイル様が現れたのはその時だ。



 お茶会とは別件で、彼は王太子の友人として王宮を訪れていた。


 庭園を見学してから帰宅するつもりだったそうで、出会ったのは本当に偶然だった。


 最初、あまりのみっともなさに彼は私が第二王女のイングリットだと気づかなかったのだろう。


 何があったのかと聞かれ、素直にお茶会でのことを話せば、彼は驚く程に憤ってくれた。


「寄ってたかってこんなに小さな人をいじめるなんて、皆どうかしている!」


 彼はそう言いながら、ハンカチで私の涙を拭ってくれた。


「そんなもの、気にすることはない。君は君らしく生きればいいんだ」

「私らしく、ですか?」

「君の人生は君だけのものだ。他人の評価なんかに振り回されて、別の誰かになろうとなんてしなくていい。自分を貫いて生きていれば、いつか必ず、君を認めてくれる人は現れるだろう」


 彼にとってはただの慰めだったのかもしれない。


 けれど、当時の私にはあまりにも衝撃的だった。


 お姉様のような立派な王女にどうしてなれないのかと苦しんでいた私に、お姉様を目指す必要はないと言ってくれたのは彼が初めてだったからだ。


 今にして思えば、他人の評価に振り回される、というのは彼自身にも思い当たる節があったのだろう。


 彼も由緒正しい公爵家の生まれで、幼い頃から努力し続けなければならなかったはずだ。


 それもあって、カイル様は真摯に私を励ましてくれたのだろう。


 私はその日から、いつかカイル様に認めて貰えるような人になりたいと思うようになった。


 正妃は怖いし、国王陛下は助けてくれないどころか疎まれている。


 侍女たちからも意地悪をされて、量の少ない冷めた食事を、彼女たちが私の悪口で盛り上がっているのを聞きながらいつも黙って食べていた。


 だがそれでもこっそりと魔法の勉強を続け、教師を手配して貰えなくても語学や経済の勉強も本を揃えてなんとか続けていた。


 身分を問わずほとんどの人間に魔力が宿っているが、それを使いこなせる者は限られている。


 王族ならば幼い頃から優秀な教師の元で学び魔法の腕を磨くものだから、私は相当に遅れている状態だった。

 もちろん周りの侍女たちからは馬鹿にされる始末。


「無能な王女の努力なんて無意味だわ」

「国民の税金を使ってするほどの価値なんてないでしょうに」



 そうしているうちに新しく入ってきた侍女のトレイシーだけは私を認めてくれ、いわれのない誹謗中傷を信じず、私を大切にしてくれた。


「イングリット様が本当はとても優しい方だって、どうして皆分かってくれないんでしょう」


 男爵家の出だというトレイシーは、貴族令嬢ながら朗らかで明るい笑顔が良く似合う人で、いつも私を励ましてくれた。


 カイル様への密かな想いも、トレイシーは笑わずにしっかり聞いてくれた。


 あれからカイル様と出会うことはなく、公の行事にもほとんど出席しない私では、カイル様との接点は無に等しかった。

 それでも、自分に出来ることをしていれば、いつか神様は私にチャンスを与えてくれると信じていた。

 

 どうやら私には治癒魔法の才能があったようで、まずはそこを伸ばすことを考えた。


 きっかけはトレイシーのささいな怪我を治した時だったが、もっと高度な治療ができるようになれば、治療院を通して国民に貢献できるだろうと思ったのだ。


 やがて私はトレイシーの協力もあって、身分を隠しトレイシーの遠縁の貴族の娘として治療院を度々訪れ、治療に携われるようになった。


 その頃には私は、第二王女イングリットではなく治療院の若手治癒魔法師イングリットとしての人生を歩み始めていた。


 元々ありふれた名前だったことと、公式的に私は治癒魔法など使えないことになっているおかげで正体が知られたことはない。


 もっとも国民の抱いている第二王女のイメージは、第一王女クリスティナとは比べるのもおこがましいほど、王宮で贅沢三昧をする無能なお荷物というものだったというのが大きいだろう。


 魔毒の災害が起きてから、これまで以上に頻繁に城を抜け出し治療院に通いつめた。


 魔法薬の開発も独自に進め、放棄されていた古い裏庭の温室を手入れし環境も整えた。


 とにかく国民を救いたい一心だったが、周囲への警戒が疎かになってしまっていたのに、気づくのが遅かった。



「国の一大事であるというのに市井で遊び回り、温室で園芸に興じるなどとは何事か。国民を慮り自粛せよ!」


 どうやら私のやっていることは曲解されてお父様に伝わったようで、私は酷く叱られた。


 今まで無関心で視界にすら入れたくないほど嫌われていたので、面と向かって会話したのは何年振りだったのか。


 正妃の差し金だとは分かっていたが、事情を打ち上げ治療院に二度と行けなくなってしまうのは困る。


 それに、こんな父親に認めてもらいたいだなんて微塵も思えなかった。

 

 被災地の視察に行き国民の苦労を身をもって学べ、というお父様の命令には素直に従った。


 同行したのはよりにもよってお姉様だった。


「イングリット。あなたなら、国民がどれだけ苦しんでいるのか、きっとすぐ分かってくれると信じているわ」


 本気で私が国民に無関心で贅沢をしていると思っていたのだろう。


 お姉様は私の改心をお父様に願い出て、自ら妹を教育してみせると頼み込んだらしい。


 失望されて嫌うのではなく、改心する見込みがあると思って貰えていたのは嬉しかった。


 もしかすると、お姉様になら治癒魔法のことを打ち明けてもいいかもしれない。



 そう思った矢先の出来事だった。



 お姉様が聖女の力を発現させたのは。

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