第9話 それでも私は、彼を選ばなかった
好きだから、選ばない。
それが、私の答えだった。
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一日だけの恋は、
終わった。
終わらせたのは、
私だ。
それでも、
後悔はしていない。
少なくとも、
そう思えるように、
何度も自分に言い聞かせた。
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彼は、
何も聞かなかった。
あの日のことを、
なかったことにするように。
それが、
彼なりの優しさだと、
私は分かっている。
だからこそ、
私が言わなければならなかった。
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放課後、
いつもの場所。
私は、
彼の前に立った。
未来は、
はっきり見えている。
彼を選ぶ未来。
彼が壊れる未来。
逃げ道は、
ない。
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「私ね」
声が、
少し震える。
「これ以上、近づけない」
理由は、言わない。
未来の話もしない。
能力のことも。
彼は、
黙って聞いている。
「嫌いになったわけじゃない」
それだけは、
嘘じゃない。
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彼は、
しばらく沈黙してから、
言った。
「……そっか」
責める声じゃない。
引き止める言葉でもない。
ただ、
受け取る声。
その優しさが、
胸を、強く締めつける。
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「俺はさ」
彼は、
少しだけ笑った。
「楽しかったよ」
一日だけの恋を、
ちゃんと「恋」だと、
認めてくれた。
それで、
十分だった。
――そう思わなければ、
前に進めなかった。
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私は、
彼を選ばなかった。
それは、
逃げじゃない。
彼を守るため。
そして――
自分を壊さないため。
好きだから、
手放す。
それは、
弱さじゃない。
そう、
信じたかった。
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「じゃあ」
彼が、
先に言った。
「また、明日」
いつも通りの言葉。
未来に、
何も残さない言葉。
私は、
小さく頷く。
「うん」
それで、
終わった。
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背中を向けた瞬間、
胸の奥が、痛んだ。
それでも、
足は止めなかった。
私は、
正しい選択をした。
正しくて、
優しくて、
――どうしようもなく、
残酷な選択を。




