第7話 未来なんて、嫌いだった
知らなければ、
恋はもっと簡単だった。
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未来が見えることを、
私はずっと「才能」だと思っていた。
少なくとも、
そう思わなければ、
やっていられなかった。
避けられる不幸がある。
守れる人がいる。
そうやって、
自分に言い聞かせてきた。
でも本当は――
ただ、
怖かっただけだ。
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彼が、
何も言わなくなった。
今までと、
態度が変わったわけじゃない。
話すし、
笑うし、
相変わらず優しい。
でも、
一歩分だけ、遠い。
それは、
私が望んだ距離。
なのに、
胸が痛む。
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未来を見る。
彼は、
このまま、何も言わない。
私に恋をしたことを、
なかったことにする。
それが、
彼なりの整理の仕方。
大人で、
優しくて、
残酷な選択。
壊れない。
でも、
救われもしない。
私は、
その未来を知っている。
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放課後、
一人で帰りながら、
空を見上げた。
未来が、
見えない空。
知らなければ、
もっと楽だった。
好きになって、
期待して、
傷ついて。
それでも、
前に進めた。
でも私は、
全部、分かってしまう。
結果を知ったまま、
感情だけを抱えて、
今を生きる。
そんなの、
不公平だ。
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「……嫌い」
誰もいない道で、
小さく呟いた。
未来なんて、
嫌いだった。
選択肢が、
ひとつしかない世界も。
正しい答えが、
最初から決まっていることも。
そして何より、
それを知ってしまう、
この力が。
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私は、
彼を守った。
それは、事実だ。
でも、
私自身は、
誰にも守られていない。
未来は、
教えてくれない。
「それでも大丈夫だよ」なんて。
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その夜、
眠れなかった。
目を閉じると、
彼の声が浮かぶ。
踏み込まなかった言葉。
飲み込まれた気持ち。
それらが、
全部、私のせいだと、
分かってしまう。
知らなければ、
恋はもっと簡単だった。
知らなければ、
こんなに苦しくなかった。
それでも――
知らないふりは、
もうできなかった。
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朝が来る。
また、
「正しい選択」を
続ける一日が始まる。
でも、
心の奥で、
何かが、ひび割れていた。




