第5話 それでも、未来は変わらない
未来は変わらない。
変わったのは、私の覚悟だけだった。
⸻
あの日から、
私は何度も、彼の未来を見た。
意図的に。
逃げないために。
目を合わせる。
名前を呼ぶ。
ほんの少し、距離を縮める。
そのたびに、
未来は――戻ってくる。
揺れは、消えた。
あの空白は、
最初から存在しなかったみたいに。
彼を選ぶ未来では、
彼は壊れる。
やっぱり、そうだった。
⸻
以前より、
はっきりと見えるようになった。
壊れ方が、
具体的になった。
彼は、私の言葉を何度も思い出す。
何気なく放った一言。
軽く笑って流した冗談。
それらが、
後になって、
刃みたいに刺さる。
「あのとき、ああ言わなければ」
「もっと、ちゃんとできたんじゃないか」
そうやって、
自分を責め続ける。
私は、
彼を責めない。
彼は、
自分を壊す。
それが、
いちばん救いのない未来だった。
⸻
誰かを想う気持ちは、
人を強くもする。
でも同時に、
いちばん脆い場所を、
無防備にさらす。
彼は、
優しすぎる。
だから、
傷つくときも、
全部、自分で引き受けてしまう。
私は、その未来を、
知っている。
知っていて、
それでも選ぶなんて、
できない。
⸻
「最近、元気ない?」
彼が、そう聞いてきた。
昼休み。
いつもの場所。
私は、少しだけ迷ってから、
首を振る。
「大丈夫」
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
彼は、それ以上聞かない。
代わりに、
話題を変える。
その優しさが、
私の覚悟を、ほんの少し揺らす。
でも、
未来は揺れない。
⸻
あの一瞬の希望は、
きっと、勘違いだった。
未来視は、
感情に引っ張られる。
見たいものを、
見てしまうことがある。
だから私は、
冷静になる。
期待を、切り離す。
彼を、選ばない。
それを、
改めて、選び直す。
⸻
放課後、
一人で校門を出る。
彼は、
友達と話していた。
笑っている。
その未来に、
私はいない。
でも、
彼は壊れていない。
それでいい。
それがいい。
私は、
この選択を、後悔しない。
未来は変わらない。
変わったのは、
私の覚悟だけだった。
――少なくとも、
この時の私は、
そう信じていた。




