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ミラノの鐘は愛を歌う  作者: Lucy M. Eden


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8/11

12月24日 銀世界の洗礼

その年のミラノの冬は、観測史上稀に見る大寒波という爪痕を街に刻みつけていた。聖なる夜を祝うはずの空は、厚く重い鉛色に閉ざされ、数日間降り続いた雪は、古びたサンタ・カテリーナ修道院の屋根を無慈悲に押し潰さんばかりの勢いで積もっていた。


「……急いで!子供たちを食堂へ。一刻も早く、寄宿舎の毛布をすべて運び出して!」


クララの凛とした指示が、猛吹雪の咆哮を切り裂いた。かつての、ただ神に祈りを捧げるだけの弱々しい修道女は、そこにはいなかった。ボルテッリ・タワーズという戦場のような硝子の城で、ステファノの峻烈な指導を血肉に変えてきた彼女は、今、冷静な判断力と迅速な決断をもって危機に立ち向かっていた。


しかし、状況は絶望の淵にあった。修道院の設備は限界を迎え、吹き荒れる吹雪の中でついにボイラーが沈黙したのだ。子供たちは唇を紫色に震わせ、身を寄せ合って凍えている。


「神様、どうか……この子たちに、命を繋ぐ温もりを」


祈りの言葉さえ、吐き出した瞬間に白く凍りつき、虚空へ消えていく。クララは自分の指先が、感覚を失い石のように冷たくなっていることに気づいた。その瞬間、彼女の脳裏を支配したのは、あの深夜のオフィスで、自分の足首を、あるいは頬を包み込んだ、ステファノの掌の暴力的なまでの熱だった。


(もし、彼がここにいたなら。……いいえ、願ってはだめ。彼は、自分の世界に戻ったのだから)


そう自分に言い聞かせ、絶望を振り払おうとしたその時だった。修道院の重厚な石門の向こう側から、雪のカーテンを乱暴に引き裂くような、鋭利なヘッドライトの光が差し込んだ。数台の大型車が、地響きと共に雪を蹴散らし、中庭へと滑り込んでくる。


先頭の車から降り立ったのは、厚手のカシミアコートを翻し、誰よりも見慣れた、そして誰よりも渇望していたシルエットだった。


「ステファノ様……!?」


クララは足元の覚束ない雪を突き破り、無我夢中で駆け寄った。雪煙の中に立つステファノは、氷の彫刻のように冷徹で美しく、そして怒りに燃える獣のような気迫を纏っていた。


「……私の建設予定地の隣で、不名誉な事故が起きるなど、ビジネス上の損失でしかない」


彼はいつもの傲慢な口調で言い放った。だが、その声は微かに震え、呼吸は激しく乱れている。ミラノの中心部から、除雪も進まぬこの死の雪道を、彼は自らハンドルを握り、狂気じみた速度で駆け抜けてきたのだ。


「作業員と、超大型の移動式暖房車を連れてきた。一時間以内に、この腐りかけた建物の温度を春に変えさせてみせる」


「どうして、ここが……こんな危険な雪の中を、どうして……」


「……君の『祈り』が、私の執務室まで響いてきてうるさくてかなわなかったんだ。眠りを妨げられた対価を払ってもらうぞ」


ステファノはそう吐き捨てると、凍えて白磁のようになったクララの頬を、手袋を脱いだ生の手で乱暴に、けれど壊れやすい奇跡に触れるような繊細さで包み込んだ。


その瞬間、吹雪の冷気を一気に消し去るような、彼の圧倒的な体温がクララの芯まで突き抜けた。香りに頼らずとも、彼という男が放つ強い存在感と、剥き出しの独占欲が、彼女の麻痺していた五感を強烈に覚醒させる。


「馬鹿な女だ。なぜ私を頼らない。契約が終われば、君が凍えようが死のうが、私に関係ないとでも思ったのか」


「……ステファノ様。私、私はただ、貴方の邪魔をしたくなくて……」


「黙れ。話は後だ。今は私の腕の中にいろ」


ステファノはクララを自分の厚いコートの中へ強引に引き寄せ、その火照るような肉体の熱で彼女を完全に包み込んだ。二人の吐息が激しく重なり、雪の静寂の中に、互いの心臓が奏でる狂おしい鼓動の音だけが共鳴する。


それは「助けに来たヒーロー」という美辞麗句を超えた、愛する者を失う恐怖に耐えきれなかった一人の男の、理性をかなぐり捨てた執着の証明だった。


作業員たちの喧騒を遠くに聞きながら、クララは確信した。この雪が溶け去る頃には、もう自分たちは以前の二人には戻れない。神への誓いも、立場という名の境界線も、この圧倒的な熱量の前では、もはや無意味な枷に過ぎないのだと。

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