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ミラノの鐘は愛を歌う  作者: Lucy M. Eden


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10/11

4月15日 ミラノに響く祝福

ミラノの春は、光の粒子が躍るように街を包み込み、冬の間凍てついていた石畳に柔らかな生命の吐息を吹き込んでいた。


新設された『ボルテッリ・サンタカテリーナ・アカデミー』の開校式。 新築の校舎は、ミラノらしい洗練されたモダンな幾何学美と、修道院の伝統的な石造りが見事に調和し、まるで過去と未来が固い握手を交わしているかのようだった。庭園には、あの吹雪の下で耐え忍んでいたゼラニウムが、誇らしげに真紅の花弁を広げている。


「クララ、本当によろしかったのですか?」


マザー・ベネデッタが、隣に立つ女性にそっと、慈しむような問いを投げかけた。 そこにいたのは、あの日、名もなき幼子としてこの門に託され、以来この石壁の内側だけを世界だと思って生きてきた、かつての孤独な修道女ではなかった。


クララは、柔らかなアイボリーのシルクドレスを纏っていた。 黄金色の髪を覆っていたベールは外され、春の陽光を浴びて絹糸のように輝いている。彼女は正式な手続きを経て修道女の誓いを卒業し、別の道を選んだ。だが、その瞳に宿る清廉な輝きと「隣人への愛」は、以前よりも強く、深い確信を持って放たれていた。


「はい、マザー。あの雪の夜、私は神様から一つの答えをいただいたのです。一人の男性を深く愛し、その人の傍らで共にこの世界を慈しんでいく……それもまた、血の通った尊い祈りの形なのだと」


クララが微笑んだその時、一台の漆黒の車が静かに校門へと滑り込んできた。 そこから降り立ったのは、イタリア屈指の億万長者、ステファノ・ボルテッリだ。


彼は大勢の報道陣や来賓には目もくれず、真っ直ぐにクララのもとへと歩み寄った。 かつては冷徹な「石の心」と称された彼だが、今日その瞳に宿っているのは、ミラノの春そのもののような穏やかな熱だった。


「待たせたな、クララ」


「いいえ、ちょうど今、鐘が鳴り響く最高の瞬間ですわ」


ステファノは、クララの細い指先を優しく取り、自らの腕に引き寄せた。彼から伝わる圧倒的な安心感と、一人の女性を生涯守り抜こうとする男の静かな決意が、クララの心を幸福な熱で満たしていく。


「君のいないタワーは、相変わらず無機質すぎて仕事にならない。……理事としての初仕事が終わったら、すぐに私のオフィスへ戻ってもらうぞ。今度は、秘書としてではない。私の『人生のパートナー』としてだ」


ステファノが彼女の耳元で、確かな重みを持って囁く。その言葉に、クララの頬が淡い薔薇色に染まった。


「……一生かかっても読み切れないほど長く、そして甘い契約になりますけれど、覚悟はよろしいですか?」


「ああ。修正も解約も、神に誓って一切認めない」


二人は手を取り合い、式典の壇上へと向かった。 最前列では、新しい制服に身を包んだ子供たちが、誇らしげに胸を張って二人を見上げている。あの雪の夜に自分たちを救ってくれたステファノを、彼らは今や自分たちの「ヒーロー」として、そして新しい家族として慕っていた。


その瞬間、ミラノ中の教会の鐘が一斉に、重層的な旋律となって鳴り響いた。


ドゥオーモの重厚な地響きのような音。サンタ・カテリーナの清らかな、透き通った音。 それらが幾重にも重なり合い、街全体を祝福のメロディ——最高のセレナーデで満たしていく。


「ステファノ、聞こえますか? 街全体が、歌っています」


「ああ、聞こえる。……我々の新しい門出を、世界が祝っているようだ」


ステファノは、ポケットから一つの中箱を取り出した。 中には、ルビー色の輝きを放つ、ザクロの実を模した繊細なリング。あの孤独な夜に差し出した「ルビーの休息」の記憶を、永遠に指先に留め、彼女を二度と離さないための誓い。


彼はクララの左手の薬指に、ゆっくりと、しかし永遠の重みを持ってその指輪を滑らせた。


「クララ。君を愛している。この命が尽きるまで、私の心と人生は、すべて君のものだ」


「私も、貴方を愛しています。神様がくださった、最高の奇跡を信じて」


大歓声と、降り注ぐ花吹雪の中で、二人は静かに唇を重ねた。 ミラノの鐘は、いつまでも、いつまでも響き渡る。 聖なる誓いと、世俗の情熱が一つに溶け合い、新しい愛の物語がここから、永遠に続いていくことを告げるために。

最後までありがとうございました。

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