宇宙連邦の文化的な年賀状
二学期終わり。
「良いお年を」
「ぁ……はい」
静水羽音はペコリ。
バサッと被る前髪。
視力が低いのか瓶底眼鏡、布マスクで超無口、独りでモタモタ帰宅していく姿。俺だけは、清水さんの正体を知っている。
半年前。
掃除中に躓いて「キャ!」と澄んだ声、咄嗟に引っ張り起こして、見た。
ポッチャリした顔かたち、整った目鼻立ち、派手なインナーメッシュの蒼い髪、蒼い瞳、桃色の唇を「ども」とモゾモゾ一言、みるみる頬が紅潮する。
『 かっ カ ワ イ イ !! 』
ギャップ萌えだった。
どうにか距離を縮めようと奮闘。
目標だったクリスマスは、今日。
終 わ っ た ――
謹賀新年。
スマホに届くアケオメを受け流していたら、ポチ袋が足りないと母に頼まれて、コンビニへ行く準備。郵便受けに挟まる葉書に気付いた。
珍しい、年賀状が届いたらしい。
何気なく手に取り表書きを見る。
静 水 さ ん ?!
往復はがきで、年賀状。
静水さんらしい心遣い。
半年無駄じゃ無かった。
【 宇宙連邦へ加盟を希望しますか? 】
YES / NO
「は?」
新 年 の 挨 拶 ?
斜め上を行くセンスだ。
贔屓目なしにカワイイ。
YESに丸、返信側を投函してきた。
「あ?」
手元に残った自分の宛名。
静水さんの連絡先は、ポストの中に。
楽しい冬休みは、今。
終 わ っ た ――
餅を食べつつスマホを起動。
似たような新着ニュースが並んでいる。
【 宇宙連邦から加盟の打診 】
なになに?
加盟条件は『文化的な生活を送る惑星』、各国代表が次々希望し、最後の一人は今日返信があったらしい。
偶然、俺と同姓同名だ。しかし投函は小一時間前。事前に知ってて悪戯したなら静水さんのカワイイ指数爆上がりだが、さすがに単なる偶然か。
ピンポ~ン♪
「お!」
親戚が、お年玉目当てに訪問か?
ポチ袋は間に合った、良かった。
玄関に行き、鍵を開ける。
黒ずくめの、知らない男。
「誰?」
「死ね」
額に押し付けられた銃口。
次の瞬間。
男は両断され、何等分かに切り分けられて、炎上、消滅。
殺人犯を、殺人犯。
眼鏡やマスクはしていないが……
「静水さん?」
「ぁ……はい」
「なんで?」
「ビームサーベルで」
宇宙連邦調査員だった。
本日付けで任務が変更。
真顔で話している。
俺の平和は本日付けで。
終 わ っ た ――
宇宙連邦の加盟に希望、ボディーガードに静水さん。
その理由は、夜の記者会見で判明した。
【 加 盟 条 件 】
『 文 化 的 』 = 衣・食・住
地球人は全人類の衣食住を確保。
宇宙連邦委員会が、審議・判定。
登録まで続く、長い歴史が始まった ――――
「羽音ちゃん、お餅焼けたわよ?」
「頂戴します」
「武器セット? バズーカとか、ジャベリンの」
「置き配で頼んでしまって」
「初詣、やめておこうかな」
かわいくて物静かで一騎当千のうっかりさん。
静水さんは、人類代表の一人に、俺を選んだ。
理由は謎に包まれたままだ。
「まぁ、いいや。静水さんと一緒にいられるし」
「ぁ……はい」
桃色の唇でモゾモゾ、みるみる頬が紅潮した。




