元婚約者達と私
買い物を満喫した私は、夕食の時間に帰宅した。出掛けたのは昼前なので、もう全ての問題が無くなっているだろうと、鼻歌を歌いながら食堂に向かった。
「ミーニャちゃん!おかえりなさい!」
食堂の扉を開けると、直ぐに気付いてくれた姉が笑顔で私を出迎えてくれた。私も笑顔で姉に返事をしようとしたが、浮かべた笑顔は固まり、取り敢えず開けた扉を閉め部屋に戻ろうとした。
「待て待て待て!俺を置いていくな!」
早足で部屋に帰ろうとする私を、食堂から飛び出してきた兄が必死に引き留めてきた。
「お兄様、地獄には一人でお戻りください」
「馬鹿言うな!あんな地獄戻りたいわけあるか!」
「仕方ありませんね…食事は部屋に運んでもらいましょう」
日頃兄にはお世話になっているから、見捨てるのも忍びない。近くにいた使用人に声をかけようとしたタイミングで、食堂の扉が勢いよく開いた。
「俺達を随分待たせた挙句逃げるなんて、いい度胸してるな」
「待たせた記憶も逃げた記憶もございませんが…」
「抜かせ」
食堂から出て来た男は私達の元まで来ると、私の手を掴み地獄に引き摺り込もうとしてくる。
「ちょ、離してください!お兄様!助けて!」
「おい、ロベル!やめろ!」
「何してるの?早く御食事にしましょ?」
兄が私を助けようとした時、ひょっこりと食堂から顔を出した姉が、ちょいちょいと私達を手招きした。
「ああ、今行く」
私の腕を引く力を強めた男、基ロベルは、無情にも私を地獄に突き落としてくれた。だが私には運命を共にする仲間がいる。
「お兄様、死なば諸共って言葉知ってます?」
「な、なんだそれは?」
「この手は決して離しませんからね」
「……………」
兄の腕を掴み、共に地獄の門を潜った私達を待っていたのは、姉と私の元婚約者達だ。そう、10人勢揃いだ。地獄過ぎる。




