培われている私
試着が終わったらさっさと帰るつもりだったのに、姉と皇帝が楽しげに話すものだから、早く帰りたいのを我慢して私は只管用意されていたお菓子を食べる。
「すまない、サイズが合わなかったみたいだな。直ぐに調整させるから待っていてくれ」
「ええ、ありがとうございます」
「ニャーゴ、お前は調整なんていらなかったろ?」
「はい?いえ、胸がかなり苦しかったです」
「噓付け。1ミリも変わってねーだろ」
「失礼な事を言わないでください。私はまだ成長期なんですから」
姉のようなナイスバディは望まないけど、せめて下を向いた時足の爪先が見えないくらいの大きさは欲しい。身長もこの世界では女性でも170センチ超えが普通だから、最低でも後20センチは伸びる筈だ。
「そうね。私もまだ成長が止まらないから、ミーニャちゃんもきっと大きくなるわ」
「あ、はい…」
やっぱりまだ成長してるんだ…と姉の胸を凝視してしまう。25歳の姉がまだ成長するなら、私もまだまだ成長するって事か。
「私は毎日胸をマッサージしてもらってるから、ミーニャちゃんもしてもらうといいわ」
「マッサージ…?」
私は裸を見られるのが恥ずかしいから、お風呂はいつも1人で入る。そんな私が、胸のマッサージなんて人にお願い出来るわけがない。
「か、考えておきます…」
「ええ」
一時の羞恥心を取るか、未来の自分の為に恥は捨てるか、悩みどころだ。揉むのはよくないと聞いた事があったけど、マッサージなら問題ないのか。よし、誰かにやり方を聞いて、自分で出来そうなら自分でしよう。羞恥心は大事だ。そして足の爪先が見えない人生も大切だ。
「取り敢えず、一度自分でやってみます!」
ドンと胸を叩いて姉にそう言うと、バシン、という変な音が聞こえ前を見る。前のソファーには皇太子とノールと宰相が座っていて、今は何故か皇太子とノールが両手で顔を覆っていた。
「どうしたんですか?」
「な、何でもない…」
「きゅ、急に眠気が来ただけだから…」
「はぁ…」
眠いのなら私たちはもう帰ろうと姉の方を見ると、姉の隣でニヤニヤ笑っている皇帝と目が合った。
「え、気持ち悪」
「おい、せめて格好いいって言え」
「せめて、の意味がわかりません。気持ち悪いです」
「俺の格好いい所見せてやろうか?見たら確実に俺に惚れるぞ?」
「それは困ります。私は惚れっぽいんですから」
流石に皇帝に恋するのは不味い。そもそも皇帝も姉に恋しているんだから、皇帝を好きになったら待っているのは失恋だ。失恋する事が確定な恋なんてしたくはない。
「別に惚れても良いぞ?つーか、お前に惚れられないと俺は死ぬからな」
「はい?」
突然意味不明な事を言う皇帝に首を傾げると、皇帝は大袈裟な溜め息を吐いた。
「大変だったんだぞ、ロッズオール家の長女と話すの。まぁ、苦労したお陰でこうして聖女と話しても何ともないが…だがもう二度とあの魔女と関わりたくはない」
「シェンディお姉様は魔女なんかじゃありませんよ。可愛い物好きの優しい人じゃないですか」
「お前ってつくづく見る目がねぇよな」
「はい、そうかもしれません。見る目がないから皇帝陛下の2人の息子さんを好きになったんだと思います。お陰様で今は見る目が培われ、とても素敵な方を愛せています。私の経験値を生み出してくださり、どうもありがとうございました」
「いや、ジェルミーを好きな時点でお前の目は培われてないだろ。寧ろどんどん悪化してんぞ」
失礼な。どう考えても培われているから。皇帝こそ、あんなに優しいシェンディお姉様を魔女扱いするなんて、見る目がなさ過ぎるでしょ。




