兄を辞めたい俺2
「ミィニャが何をしているかは直ぐにわかるよ。まぁ、大凡の見当はついているけど…」
鈍いフィリエ殿下と違い、ノール殿下はミィが部屋に籠もって何をしているか気付いているようだ。
「ジェルミー、君もしかして偽の皇女を仕立てあげるつもりじゃないよね?」
「よくわかりましたね。既に準備は整っているので、いつでもあちらが望む皇女を差し出せますよ」
「…僕も考えなかったわけじゃないけど…バレたりしないんだよね?」
「勿論です」
ノール殿下とジェルミーの会話に目を見開く。偽の皇女?そんなの上手くいくわけがない。シュノアートの奴等だって馬鹿じゃない。あちらの皇族との親子鑑定くらいする筈だ。
「鑑定されたとしても問題ありません。僕と同じ様に呪いをかけたので。勿論、本人のたっての希望で」
「…呪い?どんな?」
「そうですね…以前、ミィニャ嬢を羨む女性がいたんです。ですから、姉上の呪術でミィニャ嬢に成り代わる事が出来ると彼女に教えてあげたんです。それで彼女、呪術によって血液も魔力もミィニャ嬢によく似た人間に生まれ変わったんですよ」
「……………」
邪悪な笑みを浮かべるジェルミーに、俺たちは押し黙る。その女がどうなろうが興味はないが、ジェルミーの姉であるあの女は要注意だ。姉上の魅了を無効化出来るなんて、存在自体が邪魔だ。もしフィリエ殿下たちがジェルミーのように姉上の魅了を無効化してしまったら、今以上に厄介になってしまう。
「…本人が望んだ事なら、僕は何も言わない。でも万が一嘘が露見した場合、責任は君に取ってもらうからね」
「かしこまりました」
ジェルミーはバレない自信があるようだが、いっそバレて処刑されてしまえと願う。じっとりとした目でジェルミーを睨んでいると、メイドが慌ててオレの元へとやって来た。嫌な予感しかしない。
「エンブレー小侯爵様がお見えになりました」
「追い返せ!」
思わず声を荒げてしまう。どいつもこいつも、毎日朝昼晩と連絡もなく我が家に来やがって。そろそろ頭の血管が切れそうだ。
「酷くね〜?未来の義妹を心配して、忙しい合間を縫って来てやってんのにさ〜」
「勝手に入ってくんな!!さっさと出ていけ!!」
ソファーから勢いよく立ち上がりミザリオに叫ぶ俺の声と、フィリエ殿下たちの「あっ」という声が重なる。そして、足元から聞こえた、ゴン、という鈍い音…。そして…
「いっ…たぁ……」
ミィの呻き声に、一瞬で全身から血の気が引いていく。そうだ、俺、ミィを膝に乗せていたんだった。
「ごめん!!大丈夫か!?」
急いでミィを抱き上げ身体を確認する。痛そうに額を押さえるミィに、慌てて治癒魔法をかける。
「ごめんな、ホントにごめん」
「うん…大丈夫…お兄ちゃん、私空飛んだの…そしたら落ちちゃった…高いとこ怖くって…もう、あの雲食べない…」
「え?あ、うん。そうだな…」
いつもと雰囲気の違うミィに困惑する。一瞬、頭を打ったせいかと焦るが、眠たそうに目を擦っているから、寝ぼけているのかもしれない。
「ん〜………ん?………誰か今、私の事殴りました…?」
「違う違う!!俺がミィを床に落としたんだ!あ、いや、わざとじゃないから!!ホントごめん!!」
「……そうなんですか」
疑わしげに見てくるミィに、必死で首を振る。
「…というか、なんか増えてますね。早く帰ってくださいよ…ジェルミー様以外…」
「なんだと!?なんでジェルミーだけ贔屓するんだよ!!ジェルミーが居ていいなら僕も居ていいだろ!!」
「駄目に決まってるじゃないですか…」
ミィはふぁ、と小さく欠伸をしながら、メイドが持ってきた水を飲み、俺の隣に腰掛ける。
「で、ミザリオ様は何しに来たんですか?」
「最近引き籠もりになった義妹の様子見〜」
「はぁ…私を義妹にしたいなら、まずお姉様に会いに行ってくださいよ…」
「俺、神殿って苦手なんだよねぇ…」
「お姉様への愛が足りないんじゃないですか?」
「そんなわけないじゃ~ん」
「ならさっさと神殿に行ってくださいよ」
「やぁ〜だぁ~」
舐め腐った態度を取るミザリオに、ミィは溜め息を吐きながら俺を見る。
「お兄様、警備を呼んで皆を追い出してもらいましょう。勿論、ジェルミー様以外」
「そうだな」
俺はミィに頷いて、部屋に待機しているメイドに合図を送る。するとメイドは警備を呼ぶ為部屋から出て行く。
「ちょっと、俺今来たばっかなんだけど〜。俺、ニャ〜ちゃんを心配して来たんだよ?ちょっとは歓迎してよ〜」
「いらっしゃいの後はさようならですよ。さぁ、お帰りください」
「やだ〜」
入って来た警備を軽々避け、ミザリオはミィの隣に座るとミィの身体に抱き着いた。
「お前、巫山戯んなよ!!」
「巫山戯てなんかないってぇ〜。可愛い義妹に1週間も会えなかったんだから、このくらい許してくれたっていいじゃ~ん」
「駄目に決まってんだろ!!」
必死にミザリオをミィから引き剥がそうとするが、中々離れないミザリオに苛立ちが募る。
「わかったわかった。羨ましいなら、ルーディスもニャ〜ちゃんに抱き着けばいいじゃん。ほら、ニャ〜ちゃん嫌がってないしぃ〜」
「はぁ!?」
ミィは嫌がってないんじゃなくて、もう悟りを開いた様に諦めの境地にいるだけだ。




