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平民の両親と私

「何故…どうしてなんだ…?」


 ポツリと呟かれた言葉に、私は捕らえられている貴族たちを見た。


「この国には既に聖女がいるじゃないか。我々の国とは違い、豊かで平和な国だろう。なのに何故我等の希望を奪うんだ…このままでは、我等の国は滅んでしまう。お前たちも、知らない訳がないだろう」


 切実さの籠もった声に、私は唇を噛んだ。


「自業自得だろ」


 皇帝の突き放す言葉に、貴族たちは皇帝を睨むが、言い返す言葉がないのか悔しげに押し黙る。皇女の世話係だったと言っていた貴族だけは、私に縋るような目を向け口を開く。


「皇女殿下、私たちをお救いください。皇帝陛下も、皇后陛下も、ずっと皇女殿下の帰りを待っているのです」


 とうとう唇を噛み切ってしまい、口の中で血の味がする。


「貴方たちの国に、私を待ってる人はもういません」

「そんな事はありません!!私たちはずっと皇女殿下の帰りを待っておりました!!」

「そうですか。じゃあ早くその皇女殿下を見つけてさっさと帰ってください。私は関係ありませんから」

「どうか一度だけ、皇帝陛下たちに会ってください!会えば必ず、貴方様が我が国の皇女殿下だとわかっていただけますから!!」

「……………」


 やっぱりこの貴族しつこ過ぎる。


「先程も言いましたが、私は皇女様ではありません。私には平民の両親がちゃんといたんです」

「その者たちが我々から皇女殿下を奪ったのです!」

「……は?」


 何を言ってるんだ、この大馬鹿者は。怒りで身体からバチバチと静電気が発生する。いや流石に、他国の人間を攻撃するのはマズイ。理性ではちゃんとわかっているが、この世には言っていい事と悪い事がある。そして今の言葉は、絶対に言っちゃいけない言葉だった。


「私が幼少期どんな生活をしていたか、貴方はご存知なんですか?私の両親がどうやって亡くなったか、貴方は知っているんですか?」

「え?い、いえ…」


 困惑している貴族に、私は思わず舌打ちする。隣にいた兄が驚いているが、そんな事今はどうでもいい。


「毎日餓死者が出るような場所で、赤の他人を育てられると思いますか?私の両親は餓死して死んだんです。あの場所で私が生きていられたのは、両親が自分たちの食べ物を私に与えてくれたからです。私は他人の為にそんな事出来ません。そんな事が出来る人間が、この世にいるとも思えません」


 私の両親は、私を捨てた翌日に亡くなっていた。転移魔法を使えるとわかって、私は姉に頼んで食べ物を持って両親の元へと向かった。でも2人はボロボロの家の中で、皮と骨しかないような酷い姿で、既に冷たくなっていたのだ。私は今世でも、両親に親孝行が出来なかった。前世も、15歳で死んでしまったから親孝行なんて出来なかったのに。


「皇帝陛下の仰る通り、皇女様がいなくなったのも、国が滅びかけているのも、全部貴方たちの自業自得なんですよ。平民が飢えて死んでいる中、貴方たち貴族は贅沢三昧だったでしょう?だから、貴方たちに同情の余地なんてない。救いを求めるなんて、烏滸がましいんですよ」

「…………」


 俯く貴族たちを一蹴し、私は馬車に乗り込む。このままここにいたら、あの貴族たちに攻撃してしまいそうだし。

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