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蜃気楼と私

 神殿から皇城まで30分程で着くが、居心地の悪さから既に数時間経過している気がする。馬車の窓から皇城は見えているが、まるで蜃気楼のように全然近付けない。溜め息を吐きそうになるのを必死に堪え、只管窓の外を見る。どうしてよりによってこの面子なのか。大神官は真面目な性格で無駄話はしない人だし、元婚約者5人の内4人は昔から口数が少ない。唯一話す方のオグリも、あまり私の元婚約者たちと仲良くないから、さっきからずっと黙ったまま目を瞑っている。


「そう言えば、お兄様はまだ皇帝陛下たちと一緒にいるんですか?」


 あの重度のシスコン兄がこの場にいない事が不思議で、ついつい聞いてしまった。あの兄なら、いの一番に私の元へ駆け付けてきそうなものなのに。


「ああ、まだ一緒にいると思うぞ。神殿から連絡が来て、万一の為に戦闘が得意な俺たちが来たんだ」

「成る程」


 皆が戦闘している姿を見た事はないけど、確かに兄よりも喧嘩は強そうだ。 


「皇帝陛下は本当に皇女様をシュノアート帝国に返さないつもりなんでしょうか?」

「そう言ってただろ」

「でもあの貴族たち、何だか必死でした。…彼等はどうして神殿にいたんですか?」

「…皇女殿下を捜しに来ていました」

「そうですか…」


 シュノアート帝国の貴族はどうでもいい。でも、私が幼少期育ったあの場所に住む人たちを想うと、胸が苦しくなる。シュノアート帝国にも聖女がいれば、もう少しまともな国になる筈なのに。


「何をしてる!」

「えっ?」


 突然、前に座っているシヴィルに右手を掴まれ困惑する。


「な、なんですか?」

「指を噛んでいたよ。怪我をしたらどうするんだ」

「あ…すみません…」


 無意識に親指を噛んでいたようで、心配そうに指に傷が付いてないか確認してくれるシヴィルに胸がギュッとする。


「どうかしたのか?」


 ロベルが私の顔を覗き込んでくるので、慌てて俯く。近い近い。心臓が爆発しそうだからやめてほしい。


「…皆さんはシュノアート帝国に行った事がありますか?」

「ないな」


 そりゃそうか。まぁ、行った事があったとしても、私が育ったあの場所に行く事はないだろうけど。


「シュノアート帝国は、この国と違って飢えて死ぬ人が多いんです。それから魔物に襲われて死ぬ人も多いです。でも、聖女様がいれば魔物に襲われ命を落とす人はいなくなる。もしかしたら、飢えて死ぬ人もいなくなるかもしれないのに…」

「噛んでるぞ」


 ロベルの指が私の唇に触れ、またも無意識に唇を噛んでいた事に気付く。


「す、すみません…」


 熱くなった顔を急いで冷ます為、馬車の窓を慌てて開ける。扉がないから、窓を開けた事で風通しが良くなり、直ぐに熱は引いていく。


「…ミィニャさんが言いたい事はわかります。私の領地はシュノアート帝国と隣接しているので、あちらの国の者がよく亡命して来ますから。ですが、だからといって皇女殿下を引き渡そうとは思いません。今のシュノアート帝国に行った所で、使い潰されるのがオチです」

「でも…」

「その話は終わりだ。着いたぞ」


 いつの間にか皇城に到着していて、馬車がゆっくりと止まった。


「ミィ!!」


 馬車から降りると、待ち構えていたらしい兄が泣きそうな顔で抱き着いてきたので、私は兄の背中をポンポンと叩いた。


「お兄様、苦しいです」

「ごめん…」


 シュノアート帝国の貴族たちは既に到着しており、珍しく外に出ている皇帝と何かを話していた。 


「あの人たち、どうなるんですか?」

「記憶を消して牢に閉じ込めるそうだ」

「そんな事して大丈夫なんですか?」

「問題ないだろ。許可なく入国してた上、ミィをシュノアートに連れて行こうとしたんだし」

「はぁ…」


 私もよくシュノアート帝国に許可なく入国してるけど…なんならこの国に来た時も許可なんて取ってない。…まぁそれはいいとして、どうして記憶を消すのか疑問を抱く。牢屋に入れるなら、態々記憶を消す必要はないと思うけど。

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