今を生きる私
私はジェルミーに何か声をかけようと口をうっすら開けるも、何を言えばいいかわからず開いた口を閉じるしかない。
「君と結ばれなければ僕は死ぬ。でも、君に愛してもらえないなら、僕は死んでも構わない。それくらい、僕にとって君は特別なんだ。初めて会ったあの日からずっと、僕は君を愛してる」
「ジェルミー様…」
呪いだの、死んで生き返っただの、恐ろしい話ばかりだったけど、もうそんな事はどうでもいい。つまり私はジェルミーに愛されてるって事でしょ?命を捧げる程愛してもらえるなんて、私はなんて果報者なんだろう。
「私も、ジェルミー様を愛しています。今まで随分と遠回りしてしまいましたが、やっと本当の愛を知れたような気がします。思えば今までの恋は全てまやかし…私の勘違いだったみたいです。どうか私の初恋を貰ってください」
「喜んで受け取るよ」
「ちょっと待て!!」
私とジェルミーが良い雰囲気の中、邪魔する者が現れた。とんでもない愚か者だ。
「ミィナ!!お前はもっと自分の言葉に責任を持て!!私と会った時、なんて言ったか忘れたのか!?」
「さぁ…?はじめましてこんにちは、ですかね?」
「違う!!お前は私に出逢う為にこの世界に生まれてきたと言ったんだ!初めて人を愛する事を知ったと、あんなに熱弁していたじゃないか!!」
「そんな事覚えてません。過去の私が何を言おうが、今の私には関係ない事です。そもそも、純粋無垢な過去の私を捨てたのは皇太子殿下でしょう。捨てるなら記憶も全て捨て去ってください。捨てられた私も、態々捨てられたものを持ち歩いたりしてないんですから」
「なっ…!!」
皇太子は何故か酷く傷付いた顔をするが、加害者はそっちだと声を大にして言いたい。覚えていないわけがない。私は案外未練がましい性格をしているから。そして根に持つタイプでもある。
「今の私はジェルミー様を愛しているんです。愛する人と結婚して幸せになりたいという純粋な気持ちを、邪魔しないでください」
「……………」
俯いて歯を食いしばる皇太子を視界から外し、私は立ち上がりジェルミーの元へ向かう。
「彼が知ってる情報は話したのよね?なら、ミーニャちゃんと彼の結婚は許可されるのかしら?」
「………陛下…」
「あー…、そうだな…活用出来る情報じゃなかったから許可出来ない。悪いな」
「はっ。そうでしょうね」
話せば許可すると言っていたくせに、詫びれもせず反故にする皇帝に呆れてしまう。
「もういいです。皇帝陛下の許可なんて本来は必要ないんですから。ジェルミー様、お姉様、行きましょう。こんな所にいても時間の無駄です」
「そうだね」
私はジェルミーと姉を引き連れて部屋から出る。扉を閉める前に、一言言わなければならない事がある。
「これ以上人の幸せを邪魔するなら、私は大事な人たちを連れてこの国から出て行きますからね。この言葉を、どうかお忘れなきよう」
その言葉と共に、私は不敵な笑みを浮かべたまま部屋の扉を閉めた。




