陸でなしと私
キーワードに歳の差を追加しました。歳の差苦手な方がいたら申し訳ありません…。
まぁ、前世よりも可愛い顔なのは確かだ。元婚約者たちも、いつも私を可愛いと言ってくれてたし。
「…それで、皇帝陛下は結局何が仰りたいんですか?」
「つまり、我が国には新たな聖女が必要だ」
「欲張ると天罰が下りますよ」
「国の為だ。愚息たちが聖女に惚れたせいで世継ぎ作りは絶望的だ。このままじゃアンガー家どころか皇族の血も絶える。それは何としても阻止せねばならん。そこでシュノアートの聖女だ」
「はぁ?」
馬鹿な事を言う皇帝を睨みながら、私は心を落ち着ける。また魔力が暴走して皆を傷付けたら、次はそう簡単には牢屋から出してもらえないだろうし。
「シュノアートの聖女は昔から魔力が高い。国を結界で包み込み、魔物の襲撃を防ぐ程だ」
「そうなんですか?」
「ああ。だが欠点もある。シュノアートの聖女は滅多に生まれないうえ、生まれても皆夭逝だ。成人する前に皆死んでいる」
「…………」
どうして、と理由を聞こうとしたがやめた。シュノアート帝国は小さな国ではない。その国に結界を張るとなると、膨大な魔力が必要だ。成人前からそんなに魔力を使っていたら、身体が耐え切れず壊れてしまう。
「知ってはいましたが、シュノアート帝国の皇族は昔から陸でなしばかりだったんでしょうね」
国に結界を張るなら、皇族が関わっている筈だ。成人前の子供にそれ程の無理をさせるなんて、陸でなし以外の何物でもない。
「攫われた皇女様はラッキーでしたね。家族に酷使されずに済んで」
「……そうだな」
本音を言えば、皇女は聖女として国の為に身を粉にして働けと言いたいけど。今までの聖女が味わった苦しみを、皇女も味わうべきだ。
「……皇帝陛下はシュノアート帝国の皇女様をどうするおつもりですか?皇女様の居場所をご存知なんですよね?シュノアート帝国に皇女様を渡さないのは、皇女様の力を利用したいからですか?」
湧き上がる怒りを抑えつつ、皇帝に問いかける。私の中で皇女は敵だ。皇帝たちが姉より皇女を選んだ事は一生赦すつもりはない。
「そうだなぁ…このままじゃ孫は望めそうにないし、もう何人か俺の子を作るべきかもな。なら、我が妻として迎え入れるか」
「…つまり、この国の皇后陛下にするって事ですか?」
「そうなるな」
ちょっと待って。皇女って14年前に産まれたんだよね。つまり今14歳って事で、皇帝は38歳だ。皇帝の見た目は二十代に見える程若々しいけど、実年齢は38歳。この国の成人年齢は18歳で、結婚は13歳から出来るけど、成人するまで当たり前だけど手を出すのはタブーだ。まさか皇帝が未成年に手を出すとは思わないけど、子作り前提で結婚するのは普通に気持ち悪いんじゃ…と私が脳内パニックに陥っている中、皇太子たちがなんか騒ぎ出した。
「父上!!馬鹿な事言わないでください!!ミィナは母上ではなく、私の義妹になるんですよ!!」
「そうです、年下の母親なんて気持ちが悪いです。ご自分のお歳を考えてください。24歳差は流石に引きます」
「ミィを変態にやるつもりはありません!世継ぎが心配なら、最悪姉上とフィリエ殿下に薬を盛って何とか子を作らせますからご心配なく!!」
「そ、そうだな!私とミファナが結ばれればなんの問題もない。子も………ちょっと待て。ちょっと待ってくれ。私はミファナと結婚出来ればそれでいい。だから、ミファナと子を作るのは無理だ」
「は?」
「はい?」
騒がしかった場が、皇太子の言葉で静まり返る。皇帝も兄も、鳩が豆鉄砲食ったような顔して皇太子を見ていた。
「…何言ってんだお前?結婚を望むくせに、子は望まないだと?…まさか、不能なのか?」
「ち、違います!!私はミファナを愛しているからこそ、彼女を穢すような行為は出来ないのです」
「……………」
皇帝は暫く黙って皇太子を見つめていたが、視線をノールたちに向けると口を開いた。
「お前たちはどうだ?ミファナ・アンガーと子を作りたいか?」
「まさか。そのような事、考えた事もありません」
「…………嘘だろ?」
ノールの言葉で、皇帝は心底理解出来ないというように眉間にシワを寄せる。私は以前から話を聞いていたから驚きはないけど、不思議ではある。私と婚約していた時は、子供は沢山欲しいと言っていたから、てっきり皆子供好きなんだと思っていた。でも姉とは結婚出来るだけで満足だから、子供は必要ないと言われた時は内心酷く驚いたものだ。
「意味がわからん。愛しているから穢す行為が出来ない?寧ろ逆だろ?いや、まぁ、本能的なものか?心は魅了出来ても、身体までは無理だったのか?」
「恐らく…心も完全に魅了されたわけではなさそうですし…」
「うむ…難儀な奴等だ」
「…………面倒だな」
皇帝と兄が会話している中、ジェルミーがポツリと呟いた言葉に首を傾げる。
「ジェルミー様、どうされました?あ、もしかして、何かご予定でも?」
「いや、何もないよ。ミィニャ嬢は大丈夫?疲れてない?」
「私も大丈夫です。あの人たち、いつも無駄話ばかりだから慣れちゃいました」
「へぇ、そうなんだ?」
「はい。でも、このままじゃジェルミー様の大事なお時間を無駄にしてしまいますよね…」
せっかくジェルミーにプロポーズしてもらったのに、このままじゃ皇帝の許可が出ないと婚約も結婚も出来なくなる。やっぱり皆の記憶を消すしかないのかな。全然警戒してない皇帝たちは問題無いとして、問題は宰相だ。ずっと私を警戒して睨んでいるから、魔法を弾かれかねない。どうしたもんか。
「あ、お姉様…」
魔法で皆の記憶を消すより、姉に頼んでみたらどうだろうか?宰相も元婚約者たち同様姉にベタ惚れだし、皇帝は姉に好意を抱いているかはわからないけど、聖女は国の宝だと言っていたから、姉のお願いくらい聞いてくれるだろう。そして姉は私のお願いはなんでも聞いてくれる。よし、この作戦でいこう。記憶を消すより簡単で安全だし。




