白い結婚と私
「成る程…そこまでされるとは思いもしませんでした。皇帝陛下程のお人が、自分の子供よりも幼い少女に執着するのは如何なものでしょうか?」
「うるせーな。お前が素直に話せば、ニャーゴとの結婚は認めてやるよ。勿論、白い結婚だぞ」
「白い結婚ですか…それは流石に酷過ぎるのでは?」
「ミィはまだ未成年なんだから当たり前だろ!!」
「じゃあミィニャ嬢が成人したら白い結婚はやめていいってこと?」
「殺すぞ!!」
今日の兄はなんだか攻撃的過ぎない?こんなに怒ってる兄は見た事ないから、ちょっと怖いんですけど。
「…お兄様、皇帝陛下、白い結婚は困ります。私はお父様とお母様に孫の顔を見せてあげたいんです。お兄様、知ってます?お母様、以前お友達から孫自慢されて落ち込んでいたんですよ。お父様なんて、アンガー家はお兄様の代で終わりだって、ご先祖様たちの肖像画の前で謝っていました。私はアンガー家と血の繋がりは無いけど、それでもお父様とお母様の娘なんです。お姉様もお兄様も結婚しないなら、せめて私だけでも結婚して、孫の顔を見せてあげないと」
「いや、父上と母上がそんなに繊細なわけな…」
「ですから!白い結婚じゃなく普通の結婚を許可してください皇帝陛下」
余計な事を言いかける兄の口を急いで塞ぐ。今は真実なんてどうでもいいから。
「…成る程な」
じっと皇帝の目を見つめていると、皇帝の目がスッと細まった。
「そういやシュノアートの聖女は魔力が高かったな」
「今それ関係あります?」
「あるぞ。知ってるか?国によって聖女の能力は変わるんだよ。我が国の聖女は、魔物を寄せ付けない能力を持って生まれるのは知ってるだろ?」
「はい」
勿論そんな事は知っている。この世界には魔物がいて、その魔物は人を襲う。でもこの国に生まれる聖女は魔物を寄せ付けない能力を持っていて、その能力のお陰で我が国は唯一魔物に襲われない平和な国なんだとか。私の中で、聖女といえば類稀なる治癒力を持つ人だと思っていたけど、実際はそうじゃない。姉は治癒力を使えないし。
「我が国はアンガー家のお陰で聖女が不在になった事はない。だがこのままじゃアンガー家は子孫を残せない」
「そうですね」
「アンガー家の聖女は我が国の宝だ。だがそんな宝にも欠点がある」
「欠点…?」
姉に欠点なんてあったっけ?まさか鏡が好き過ぎる事?それとも自分しか愛せない事?
「アンガー家の聖女は、男を惑わせるんだよ」
「…………………」
確かに、姉に惑わされた男性は数多くいる。元婚約者たちもそうだしね。でも惑わすより、虜にするっていう方が合ってる気がするけど。
「今までの聖女様も、お姉様みたいに綺麗な人たちだったんですね」
「まぁ、美人ではあったな。だが惑わすのに容姿は関係無い。アンガー家の聖女を一目見ただけで、男は心を奪われるんだ」
「へ、へぇ…」
深刻な話をしているようで、全然深刻じゃなかった。それってつまり、皆が聖女に一目惚れしただけじゃん。
「大袈裟ですね。それが本当なら、皇太子殿下たちもお姉様に一目惚れする筈では?」
「ああ、それな。俺も最初は驚いた。ミファナ・アンガーの魅了は強力過ぎて、本人まで影響を受ける程なのに、こいつ等最初は平然としてたからな」
「本人まで、って…え?お姉様が自分大好きなのは、お姉様が聖女様だからなんですか?」
「ん?あー…いや、聖女程の容姿に生まれたら、誰だって自分を好きになるだろ」
「……つまり、皇帝陛下もご自分が大好きなんですか?」
「当たり前だろ?」
「……………」
即答する皇帝にドン引きする。でも私も姉や皇帝くらい容姿が良かったら、自分に恋していたかもしれない。私も容姿はいい方だと思うけど、周りにいる人たちがケタ違い過ぎて、自分の顔が霞んでしか見えない。
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