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黒歴史と私

「おい、ニャーゴ。お前先日婚約解消したばっかじゃなかったか?」

「皇帝陛下、馬鹿言わないでください。婚約解消じゃなくて婚約破棄です。皇帝陛下の2人の馬鹿息子さんたちと同じで、一方的に婚約破棄をされたんです私は」


 聞き捨てならない言葉に、私はピシャリと言い返す。婚約破棄と婚約解消は全くの別物だ。せめて婚約解消だったら、世間の目ももう少し私に優しかった筈なのに、馬鹿野郎共が毎回毎回婚約破棄を宣言してくるから、私は世間から冷たい目を向けられる。まぁその冷たい目の持ち主は、元婚約者たち狙いのご令嬢だけど。


「ああ、そうだったな。愚息たちが悪かったな」

「謝罪は結構なんでその愚息さんたちの再教育をお願いします。後馬鹿息子さんたちの恋愛相談役を雇ってください。私はもう馬鹿の相手をする暇ないんで」

「こ、皇族に対してなんと無礼な…」


 わなわな震えながら私を睨んでくる宰相に、私は溜め息を吐く。


「無礼な事をしてるのはその皇族なんですけど。ねぇ、お兄様」

「あ、ああ…そう、だったな…」


 朝の出来事を兄に抗議してもらおうと思ったのに、馬車の中では頼もしかった兄が、今は焦点が合わずなんか頼りなくふらふらしている。


「お兄様?大丈夫ですか?」

「…ご、ごめん…えっと…、なんだっけ…?」


 全然大丈夫ではなさそうな兄に、仕方なく私が直接皇帝に文句を言う事にした。


「…皇帝陛下、今朝皇太子殿下が我が家に来た事はご存知ですか?」

「いや?」

「そうですか。毎回ですが、なんの連絡もなく皇太子殿下やノール殿下たちが我が家に来て、大変迷惑しているんです」


 チラリと皇太子を見ると、皇太子は詫びれた様子もなく、寧ろ何故か不満そうな目を私に向けてきた。


「迷惑なんてかけてないだろ。今日だって、ミィナには分不相応なドレスをプレゼントしてやると言いに行っただけだ。あのドレスは本来、私の妃になる者しか着れないんだぞ」


 皇太子の言葉に、ストレスが私の胃を痛め付けてくる。こんなにも愚かな人間が、いずれこの国の皇帝になるなんて信じたくない。


「皇帝陛下、今の皇太子殿下のお言葉聞きました?人の気持ちを理解出来ず、迷惑の押し売りをしてくる人が皇帝になったら、この国は終わりますよ」

「ニャーゴは信じられんだろうが、こいつは一応有能なんだよ。ニャーゴの前ではとんでもなく無能に成り下がってるけどな」

「親の欲目ですか?現実を見てください。兎に角、私は心底迷惑しているんです。今朝なんて、私のメイドを脅して私の寝室に入って来てたんですよ。非常識過ぎるでしょうが」

「…なんだと?」


 眉間にシワを寄せる皇帝に、私は朝の出来事を事細かく話した。結果、皇太子以外は一応常識を持ち合わせていたようで、皇太子の非常識さを皆が批難してくれたので、やっと私の溜飲を下げる事が出来た。


「兄上がそんな非常識な人だったとは知りませんでした。女性が寝ている寝室に許可なく入るなんて…ミィニャに変な事してませんよね…?」

「ミィナと私は元とはいえ婚約していたんだぞ?一緒のベッドで抱き合って寝た事だってあるし、風呂にだって一緒に入った。それに、お互いのファーストキスを捧げる程愛し合っていたのに、今更寝室に入るくらいなんだっていうんだ」 

「……………」


 皇太子の阿呆過ぎる言葉に、私は思わず休憩所の扉に視線を向ける。こんな話、ジェルミーに聞かれたら大変だ。幸い、ジェルミーの気配は感じない。ほっと胸を撫で下ろしながら皇太子に視線を戻すと、兄が皇太子をぶん殴ろうと腕を振り下ろしている姿が目に飛び込んできた。


「お、お兄様!?」


 幸い、兄の拳は皇太子が張った結界にぶつかり事なきを得たが、兄は魔法で結界を壊そうと何度も皇太子に向け攻撃を繰り出している。


「お兄様、落ち着いてください!!いったいどうしたんですか!?それ一応皇太子ですよ!?」

「ありゃ当分止まりそうにないから放っておけ。ただでさえ不安定だったのに、フィリエのあれで暴走したな」

「皇帝陛下、お兄様止めてください!!」

「無理」


 自分の息子が攻撃されているのに、助けもせず静観する皇帝に戸惑っていると、私の肩がガシリと掴まれた。


「………裏切り者…」

「……はい?」


 私の両肩を思いっ切り掴み、恨めしそうに睨んでくるアーチェルドに小首を傾げる。


「あんな事、僕は聞いてない!!この、裏切り者!!僕とは一度も同じベッドで寝た事ないし、風呂だって一緒に入った事ないじゃないか!!初恋だって皇太子で、ファーストキスまで皇太子だなんて…出逢うのがたった1年遅れただけで、どうしてそんな差をつけるんだよ!!こんなの裏切りだろ!!」

「は、はぁ…」


 アーチェルドと婚約していたのは9歳の時だ。最初が皇太子で次がシヴィル、その次がアーチェルドだった。確かに考えてみれば一緒のベッドで寝たのも、お風呂に入ったのも、キスをしたのも皇太子だけだ。どうやら初恋に浮かれまくって、羞恥心が欠如していたらしい。


「私は僅か8歳で黒歴史を生み出していたんですね。でもまだ8歳だったし、私はセーフでしょ。真の黒歴史保持者は皇太子殿下ですよね?私が8歳の時、皇太子殿下は14歳だったんですから。冷静に考えると、8歳の私と一緒に寝たがったり、お風呂を強要した挙句キスしてきた皇太子殿下ってロリコ………いや、幼女趣味?いやいや…性犯罪者?まさか…変態…?」

「ちょっと待て!!どうしてそうなる!?私がそうならお前の兄はどうなる!?他の連中だって一緒だろ!!」


 兄と攻防を繰り広げながら反論してくる皇太子に、冷ややかな目を向けつつ首を振る。


「一時の気の迷いだったとしても普通に気持ち悪いんで、もう皇太子殿下はお姉様に近付かないでくださいね」

「だから、どうしてそうなるんだよ!!そもそもミファナは私より年上だぞ!!私が本当に幼い娘が好きなら、ミファナを好きになったりはしないはずだ!!」

「成る程…?」


 確かに、もしも皇太子が幼女趣味な人なら、姉を好きにはならないかもしれない。姉と幼女ではタイプが違い過ぎるし。


「それもそうですね。失礼しました変態子殿下」

「それは謝ってないだろ!!」


 なんかイラッとして、つい口が滑ってしまった。だって成長期が遅い私と違い、姉はあれだ。胸が重くて肩が凝るタイプだから。

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