宰相と私
「陛下、流石に罪に問わないというのは…」
大大円で終わりそうな所に、水を差したのはこの国の宰相だ。余計な事言うなという思いを込めて宰相を睨むと、宰相に睨み返されてしまった。
「せめて牢獄に数日は入れるべきかと」
「言いたい事はわかるが今は黙っとけ。でなきゃお前の首を刎ねるぞ」
私を睨む宰相を皇帝が睨んでくれたお陰で、宰相の刺すような視線が消えホッと息を吐く。
「陛下は彼女に甘過ぎます!あんな小娘の攻撃魔法で気を失うなんて、陛下らしくありません!皇子殿下達もそうです!どうして防御しなかったんですか!」
「別にいいだろ。誰も彼も警戒すんのは疲れるんだよ」
「誰も彼も警戒しなければいけないお立場でしょうが!!」
宰相がなんだか喚いているけど、私にだって言いたい事はあるので口を挟む。
「宰相様、ここは情報伝達が遅いですね。私は既に牢屋に入りましたけど?」
「は!?」
「皆さんがぐーすか眠っている間、私は暗くて寒くて寂しい牢屋の中に閉じ込められていたんです。ここの牢屋は時間感覚を狂わせる魔道具が設置されているそうですね?お陰で皆さんには10分程度の時間が、私には5億年程の長い時間に感じましたよ」
「5億年!?」
実際には数日だけど、ちょっと盛るのは女の嗜みってやつだ。
「5億年は言い過ぎでしょう。せいぜい1分が1日に感じる程度ですよ」
「ちょっと待った。それならミィは10日も牢屋に入ってたって事か!?」
「まぁ、そうですかね?実際の時間で10日は入るべきですが」
兄の悲痛な表情と、宰相の不満そうな表情を見ながら、やっぱり皆の記憶を消すべきか悩む。
「皇帝陛下、ホントに私は無罪なんですよね?」
「ああ。寧ろ悪かったな、牢になんて入れて。お前を牢に入れた奴等は全員永久に投獄してやるからな」
「いえ、大丈夫です。お陰でジェルミー様に助けてもらえたし、婚約も出来ましたから」
左手の薬指を輝かせる指輪を撫でながらにこりと笑うと、休憩所の空気がピシリと凍った気がした。
「は?え…?ジェルミーと婚約…?」
「はい。お兄様、私今度こそ幸せになりますから」
「…………」
兄を安心させようと自信満々に宣言するも、何故か兄は顔を青褪めさせ黙り込んでしまった。まぁ、今までが散々だったから、心配してくれてるんだろうな。




