罪人の私
国の頂点である皇帝や皇族、そして高位貴族に害をなした者がどうなるかご存知でしょうか。
そうです。今の私みたいに牢屋にぶち込まれます。
「………嘘でしょ…」
天と地の差があり過ぎて目眩がしそう。さっきまで豪華な部屋に居たのに、今は冷たい牢屋の中だ。
あの時、私は怒りのあまりやり過ぎた。力を抑えられず皇帝達を攻撃してしまったのだ。直ぐに異変を察した皇帝の護衛達が部屋に突入して来て、倒れたまま動かない皇帝達と、一人突っ立っていた私を見て、何があったかを察した護衛達に取り押さえられ、牢屋に入れられたのである。まぁそれは仕方ない、攻撃したのは私だし、反省はしてる。でも、護衛に連行される私をジェルミーに見られてしまった。部屋の惨状も見られたし、もう最悪だ。治療魔法を使う前に護衛に捕まってしまったから、当分は誰も目を覚まさないだろうし、このままじゃ私は大逆罪とかで処刑されるかもしれない。転移魔法で逃げたくても、何かに阻害されて魔法が全然使えないし、もう終わりだ。ジェルミーも、牢屋に入れられた犯罪者なんて相手にしてくれないだろうし、私の11回目の恋は私のせいで終わってしまった。
このまま処刑されたらどうしよう。誰かが目を覚ましてくれたら、助けてくれるだろうか?あんな事してしまったし、見捨てられるかもしれない。自業自得だけどさ…。
冷たい床にぺたりと倒れ込み、私は暫く泣き続けた。そうして1日、2日、3日、1週間、一カ月、半年、いや1年か10年か100年か、もしかしたら5億年は経ったかもしれないそんな時、カツカツと誰かの足音が聞こえてきた。
「ミィニャ嬢!」
「…え?」
ボヤける視界で、私の名を呼ぶ誰かを見る為顔を上げる。まさか、この声はジェルミー?そんなまさかと思いながら、目を擦りもう一度誰かを見ると、鉄格子にしがみついて私を見つめるジェルミーが居た。
「ジェ、ルミー様…?」
「そうだよ!可哀想に…どうしてこんな所に…」
「わ、私が、皇帝陛下達を攻撃してしまって…」
「そんな理由で君をこんな場所に閉じ込めるなんてあり得ない!直ぐに出してあげるから待っていて」
「ジェルミー様…」
なんて優しい人なんだ。ポロポロ流れる涙をそのままに、私は牢屋の鍵を短剣でぶった斬るジェルミーの勇姿を、瞬きもせずに見つめ続けた。
「ミィニャ嬢、もう大丈夫だよ。立てる?」
「はい…でも私、ここから出て行ってもいいんでしょうか?」
「いいに決まってるだろ?君をこんな場所に閉じ込めた奴等の顔は覚えているから、心配する必要はないよ」
「そ、そうですか。ジェルミー様、助けに来てくれてありがとうございます」
ものの数秒で壊された鍵を取り、牢屋の中に入って来たジェルミーに手を差し出された私は、その手を取って立ち上がる。
「ジェルミー様、私が牢屋に入れられて何日くらい経ったんでしょうか?皆はもう目を覚ましましたか?」
「え?いや、まだ10分も経っていないよ。陛下達は直ぐ治療されていたから、そろそろ目を覚ましているんじゃないかな?」
「えっ」
10分も経ってないだって?そんな馬鹿な。5億年は言い過ぎたけど、数日は居た筈なのに。
「あ…そうか、帝国の牢屋は時間感覚を狂わせる魔道具が設置されているから…そのせいで数日閉じ込められていたと感じたんだろう。…ごめん、もっと早く来るべきだった」
「ええっ!!あっ、いえ!ジェルミー様が来てくれてなかったら、もっと長い間閉じ込められていた筈なので!本当にありがとうございます!」
私はジェルミーの手を両手で握り込み、精一杯の感謝を伝える。するとジェルミーはにこりと笑い、軽々と私を抱き上げて牢屋から出た。
あれ?私はもしかしたら重罪人ではなく、囚われのお姫様だったのかもしれない。そんな風に思えるくらい、ジェルミーが白馬の王子様みたいで、今本当に11回目の恋が始まった気がした。




