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皇女と私

 パクパクデザートを食べながら考える。皇帝の態度はいつも通りだ。私が姉をシュノアート帝国に連れて行ってた事を知っているのに、とくに責めている雰囲気でもない。兄も知っていたのか、驚いた様子もなく心配そうに私を見てくるだけだ。


「お前はシュノアートにいる家族の事をどれだけ知ってる?」

「シュノアート帝国の家族ですか?…母と父がいて…貧乏だったくらいしか覚えてません」


 私がシュノアート帝国にいたのは4歳までだ。赤ん坊だった時の記憶は無いけど、3歳くらいで前世の記憶を思い出し、いつも貧しい暮らしをしていた事はよく覚えている。別に両親に虐待されてた訳ではない。周りを見ると、皆同じくらい貧しい暮らしをしていたし。私が捨てられたのだって、貧しくて子供を育てる余裕が無かったからだ。最後に見た両親は、骨と皮しかないような酷い姿だったから、恨んでもいない。まぁ治安が悪過ぎて一人でいるのは怖かったけど、直ぐに転移魔法でこの国に来て姉に拾われたから、本当に私は幸運だった。


「そうか…さっきは皆の手前ああ言ったが、シュノアートの望む聖女は、我が国の聖女ではない」

「どういう事ですか?」

「14年前、シュノアートに聖女が産まれた。薄桜色の髪に、水色の瞳をした、魔力が非常に高い聖女が」

「へぇ」


 私の中で聖女は姉の様な金髪青眼だから、水色の瞳はいいとしても、薄桜色の髪した聖女は違和感がある。


「…ニャーゴ、何か気付いた事はないか?」

「え?うーん……ああ、シュノアート帝国が求める聖女様がお姉様じゃないなら、私のせいで戦争が起きるわけじゃないんですね。よかった〜。私がお姉様をシュノアート帝国に連れて行った時に誰かがお姉様に恋して、皇太子殿下達みたいに恐ろしい執着心でお姉様の正体を突き止め、我が国に戦争を仕掛けてきたんじゃないかって心配だったんですけど、杞憂で済んでよかったです」


 心配事が無くなってほっとしていると、皇帝は腕を組み難しい顔をして私の顔をじっと見てくる。


「お前の髪は薄桜色で美しいな」

「よく言われます」

「瞳の色も透き通った水色で、見つめていると吸い込まれそうだ」

「お姉様と似た色で嬉しいです」

「………そうか」


 難しい顔をしたまま首を傾げる皇帝に釣られ、私も首を傾げた。何か言いたい事があるならはっきり言ってほしい。


「…その聖女はシュノアートの第一皇女だった。が、産まれて直ぐに連れ去られ行方不明になったきり、今現在も見つかっていない。表向きは」

「可哀想ですね」

「ああ、そうだな…」


 産まれて直ぐ誘拐されるなんて、警備ガバガバ過ぎない?シュノアート帝国って貧富の差があり過ぎて、皇族や貴族にはいい感情を抱けない。誘拐された皇女は可哀想だけど、あまり同情心は湧かないな。


「まぁ、なんだ。こちらとしては戦争は避けたい。だが、あちらの要求に応える事は絶対に出来ない」

「…皇帝陛下は、皇女様の居場所をご存知なんですか?」


 そうだ、シュノアート帝国が誘拐された皇女を我が国に要求してくるって事は、皇女がこの国にいるって事だ。え?もしかして皇女を誘拐したのって皇帝なの?


「知ってはいるが、別に俺達が誘拐したわけじゃないからな?皇女を誘拐したのは他国の人間だ」

「え?じゃあどうしてシュノアート帝国は我が国に皇女様を要求してくるんですか?」

「そりゃあ、シュノアートが探してる皇女はこの国にいるからな」


 どうして他国の人間が誘拐した皇女がこの国にいるの?いやそれより、皇女の居場所を知っているなら、シュノアート帝国に帰すべきでしょ。我が国には既に聖女はいるし、聖女は一つの国に二人は必要ないはず。


「皇女様の居場所をご存知なら、直ぐにシュノアート帝国に送り届けるべきです。何故そうしないんですか?」


 戦争をしたくないなら、さっさと皇女をシュノアート帝国に返せば済むことなのに。


「それは出来ない。…もしシュノアートが聖女だけを求めるなら、我が国の聖女を送る」

「は!?」


 私は驚きと怒りで席から立ち上がり、皇帝を睨みつける。だって我が国の聖女は姉だ。見知らぬ皇女のせいで、姉がシュノアート帝国に送られるなんて許せるわけがない。それは私だけでなく、この場にいる皆が思っている事だ。


「馬鹿な事を言わないでください!皇女様はシュノアート帝国の人間なんですから、家に帰すだけじゃないですか!!なのにどうしてお姉様が皇女様の代わりなんてしないといけないんですか!」


 バシン!とテーブルを叩き、全身で皇帝に抗議する。そんな私を、皇帝は冷ややかな目で見据え、ゆっくりと口を開いた。


「他に文句がある奴はいるか?」


 その言葉にハッとして私は周りを見渡す。皇帝と共に休憩所に来たのは私の元婚約者達だ。彼等は皆姉に好意を抱いているから、皇帝に反抗してくれるはず。そう思い、皇帝の後ろに控えていた皇太子を期待の籠もった目で見つめていると、皇太子は私を見た後、ゆっくりと首を振った。


「ありません」


 素っ気なく放たれた言葉に、一瞬目眩を覚える。周りを見ても、誰も口を開かない。兄も、姉の事なのに怒る素振りも見せてはくれない。皆、あんなに姉の事が好きだと言って、私との婚約を破棄してきたくせに、なんて薄情な奴等なんだろう。今まで散々私に恋愛相談して来たくせに、こんなにあっさり姉を見捨てるなんてあり得ない。


 溜まりに溜まった鬱憤が、手の平に集まり弾けた瞬間、バチバチという轟音が耳を劈いた。

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