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スパイと私

 私には姉しか知らない秘密がいくつかある。例えば私が産まれた国はシュノアート帝国だって事や、この世界で唯一転移魔法が使える事だったり。

 4歳の時、両親に捨てられた私は安全な場所を求め、無意識に力を使いこの国に転移して来た。その時転移した場所に姉がいて、私の事情を知った姉が私を家族に迎え入れてくれたのだ。

 魔法が当たり前にあるこの世界だけど、転移魔法なんてものは存在しないと姉に言われたので、姉と私だけの秘密にした。

 そして本題はここからだ。どうしてシュノアート帝国が聖女である姉を知っているのか。それはもしかしたら私が原因かもしれない。姉が聖女になる前、シュノアート帝国に行きたいと言い出したので、私は転移魔法を使い何度かシュノアート帝国に姉を連れて行った事があった。別になんのトラブルも起こすことなく、観光旅行を楽しんだ筈だ。でももしその時、誰かが姉を気に入って調べていたら…?


「聖女をシュノアートに差し出すわけにはいかない。我が国に間諜が居るのは確かだが、疑わしいのはローボル伯爵か?」

「いえ、父上。伯爵は以前徹底的に調べましたが、他国との繋がりは一切ありませんでした。そもそも伯爵はミファナ・アンガーと一度も接点を持った事がありません」

「そうか…」


 まずい。関係ない人が疑われてしまっている。ローボル伯爵は私の猫好き友達だ。以前お孫さんのお茶会に招待された時、たまたま伯爵が猫好きだと知り、あれこれ話すうちに仲良くなった。確かに伯爵は皇族をよく思っていないみたいで、たまに不満を口にしているけど、国を裏切るような人ではない。猫好きに悪い人がいるはずないし。まぁ、犬派の皇帝達には理解出来ないだろうけど。


「他に心当たりがある者はいるか?」


 皇帝は会議室を見渡し皆の意見を待っているが、誰も心当たりはないようだ。どこの国にも間諜、つまりスパイは潜んでいるだろうけど、我が国の皇族も貴族もそんな人間を見落とす程愚かじゃない。他国に自国の情報が流れる前に手を打つはずだ。


「ミィ?」


 兄が呼んでるけど、返事をする余裕がない。もしここで私が転移魔法で姉を他国に連れて行ったとバレたら、私はスパイ扱いされるんじゃ?私が姉をシュノアート帝国に連れて行ったのは、まだ姉が聖女になる前だったけど、聖女というのは国にとって重要な人間だ。いくらまだ聖女じゃなかったと言ったところで、取り合ってはくれないだろう。転移魔法が使えるのだって問題だ。これ程スパイ向きな力はないんだし、バレたら殺されるかもしれない。いやいや飛躍し過ぎだ。だって私はスパイじゃないし、この国を裏切るつもりもない。でももし戦争になったら?そのきっかけを作った私は大罪人じゃ…?いや、落ち着いて。まだ私が悪いと決まった訳じゃない。元々仲悪いって言ってたし!


「ミィ!」

「ひっ…!」


 ガシリと肩を掴まれ悲鳴をあげる。気付けば兄が真っ青な顔をして私を覗き込んでいた。


「大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「あ…」


 まずい、考えに没頭し過ぎたようだ。私は引きつり笑いを浮かべながら、何とか言い訳を考える。


「…ちょっと、私には刺激が強いお話だったみたいです…」

「そ、そうだよな、ごめん。帰ってゆっくり休もう」


 兄は会議中にもかかわらず席を立つと、私を抱き上げ会議室から出ようとする。


「お、お兄様、私は大丈夫ですから…」

「え?大丈夫なわけないだろ。さっきより顔色が悪くなってるのに」


 私達が座っていたのは後ろの方だったからあまり目立ってはいないが、何人かは気付いてこちらを見ていた。


「どうした?」


 一番気付いてほしくなかった皇帝が私達に声を掛けた事により、皆が私達に注目してしまった。最悪だ。


「申し訳ございません。妹の体調が悪くなってしまったので退席いたします」

「何故妹がここにいるんだ?」

「兄恋しさのあまり私に付いてきてしまったのです。私が出掛けると言ったら、私に抱き着いてきて一緒に行きたいと駄々を捏ねまして…」


 おいこら嘘を吐くな。私そんなキャラじゃないから。


「ほー。相変わらず兄妹仲がいいな。隣の部屋が休憩所になっているから、そこを使うといい。妹には後で聞きたい事がある」

「……かしこまりました」


 一瞬、皇帝が私を見てなんだか意味深に笑った気がするけど、気の所為だよね? 

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