理不尽と私
「……………」
のっそのっそとベッドから出る振りをする私を、じっと見てくる皇太子に困惑する。え?ここは紳士として帰るべきところでしょ?私今寝間着姿なんだよ?前世ならともかく、この世界では寝間着姿なんて異性にホイホイ見せるものではない。まぁ別に見られて困る寝間着じゃないけど、髪とかボサボサだし、一応皇太子は私の初恋の人なわけで、こんなちゃんとしてない姿を見られるのは恥ずかしい。そんな私の乙女心に気付かず、皇太子はゆっくりと口を開いた。
「君は自分が女性だということを忘れているのか?男の前で無防備に寝顔を晒し、寝間着姿まで見せるなんてどうかしてるだろ。私にはミファナがいるからよかったものの、他の男だったら何をされても文句は言えないぞ」
「……………」
グーかパーか、キックか飛び蹴りか。この愚か者に、どう切れ散らかしてやるべきか悩む。ねぇ私って責められるとこあった?安心安全な我が家のベッドで、ぐっすり寝てただけの私に、責められるとこある?どうして責められるべき人間に、全く非がない私が責められているの?わからない。もう何もわからないよ。
「はぁ、そうですか」
怒りも鎮まる程の難題に直面し、私はただ気の抜けた返事だけ返す。が、私のその返事に、皇太子はさらに憤慨しだした。
「そうですか、じゃない!君はミファナ程じゃないにしても、ミファナよりずっと可愛いんだぞ!!なんだこのふわふわした髪は!触りたくなるだろ!寝てる時どうして口を開けてるんだ!キスしろと言ってるようなもんだったぞ!!私を誘っておいて、なんでジェルミーの名を呼んだんだ!私を愛してると言ったその口で、他の男の名前なんて呼ぶな!不愉快だ!」
「………………」
支離滅裂な事を叫ぶ皇太子に、私の心は冷静さを取り戻していく。眠気も覚めたし、顔でも洗ってサッパリしよう。
「いつもより早いけど、朝食の準備をお願いしてきて」
「こ、皇太子殿下のご朝食はどうしましょう?」
「必要ないわ」
「話を聞け!」
喚く皇太子は無視して、朝の支度に取り掛かる。せっかくいい夢を見たのに、もう気分は最悪だ。
朝の支度を終え、食堂に行く私の後を付いてくる皇太子に呆れながら、結局皇太子と一緒に朝食を食べ、ずっと私は皇太子からグチグチと文句を言われ続けた。その文句は全部私からしたらとんでもない理不尽だったけど、私は黙って聞き流した。
「これからはもっと警戒心を持つように!ハァ…ミィナがこんなにも無防備だなんて…心配だ。これじゃ仕事が手につかないじゃないか。どうせ君は私の義妹になるんだ、今から一緒に城で暮らそう。そうすればミィナが寝ている時でも私が護ってやれるしな」
「仕事したくない理由に私を使わないでください」
まだアホな事を言ってる皇太子を、そろそろ本気で返さないとまずい。もう直ぐ兄が来てしまう。
「わかりました。今度お姉様を誘ってお城に遊びに行きますから、今日は帰ってください」
「ミ、ミファナと?……わかった。今回は見逃してやる。また明日確認に来るから、次はちゃんと警戒心を持つように!」
「絶対に来ないでください」
そのまま急かすように皇太子を見送り、一息吐く。取り敢えず、兄に頼んで皇家に抗議文を送ってもらおう。そうすれば皇太子の寝起きドッキリは回避出来るはずだ。後、我が家の使用人達の再教育もしなければ。




