憐れむ私
「愛する旦那様は無理でも、愛するお義兄様が出来るんだしいいじゃ〜ん。ルーディスよりも可愛がってあげるからさ~」
「はぁ!?俺よりミィを可愛がれる奴がいるわけないだろ!」
「ここにいま〜す」
ミザリオと兄の会話を聞いて、一瞬ルーディスって誰だと思ってしまった事を反省する。ルーディスは兄の名前だ。お兄様としか呼ばないせいですっかり忘れてた。
「夢見る男は憐れですね。私には一生お義兄様は出来ませんから。出来てもお義姉様ですかね?」
姉は結婚しないだろうけど、兄はまだ可能性が無いわけじゃない。結婚する気が無いとしても、貴族だからいつかは政略結婚しなければいけなくなるかもしれないし。
「お、お義姉様?いや、俺は…」
「こんなシスコン男と結婚したがる令嬢いるわけないじゃ~ん!ニャ〜ちゃんと婚約してた時、こいつがどんだけ邪魔してきたことか…」
「邪魔?」
兄は確かに重度のシスコンだけど、邪魔なんてしてたっけ?いや、ジェルミーからの手紙を隠したり、私がジェルミーに連絡しようとする度邪魔してきたな。
「お兄様…」
「ご、ごめん!でもほら、邪魔して正解だっただろ?こいつ等全員姉上に惚れたんだし!俺はただミィを護ろうとしただけだ!」
「護るより応援してください。お兄様が味方に付けば、きっと今度こそうまくいきますから!」
「いや、兄は妹を護らないといけないし…」
「兄は妹の味方になるべきです!」
「勿論俺はミィの味方だけど…俺以外の男がミィに近づくのは容認出来ないから…」
自傷気味に笑い私から目を逸らす兄に軽く引きながら、私は重い溜息を吐いた。
「わかりました。お兄様の応援も、皆さんからの応援もいりません。私一人で頑張ります」
元々そんなに期待していたわけじゃない。元婚約者達なんて自分の恋すらどうにも出来ず、私に恋愛相談してくるくらいだ。兄に至っては今まで一度も恋人が出来たことないし。
「なんて憐れな」
「何度も人を憐れむのやめてくれない?」
「可哀想に」
「一緒だよ?」
頬を引き攣らせるミザリオを無視し、メイドが用意してくれていたケーキを食べる。
「もう話すこともないんで、皆さん帰ってくれます?」
私と同じように、各々お茶やデザートを飲み食いしだした野郎共を睨み付けるが、誰も私の話など聞きやしないで澄まし顔をしている。
「お兄様?」
「俺は今休憩中だから」
兄も兄で元婚約者達に何も言ってくれず、居座る気満々だ。いつもは私と一緒に、何とか追い出そうとしてくれるのに。
「皆さんホント暇なんですね。私のところに来るより、お姉様に会いに行ったらどうですか?」
「神殿は遠いしな」
「オグリ様のお家から神殿まではそんなに離れてないでしょう。寧ろ我が家の方が遠いですよね」
「いやいや、ミファナに会うってなると、かなり遠く感じるんだって」
「ヘタレって大変なんですね」
皇太子が一番ヘタレだと思っていたけど、どんぐりの背比べだったみたいだ。皆大差ない。
「あ、皇太子といえば、来月お誕生日ですよね」
「急にどうした?」
確かに急だけど関係無い。皇太子の誕生日は毎年お城で盛大なパーティーを開く。つまり、ジェルミーとの仲を深めるチャンスということだ。
「招待状は来てました?」
「来てたけど…行くのか?」
「はい。私はヘタレではないので、愚かでヘタレな皇太子殿下をうまく利用してやります」
「え?どういう事?」
元婚約者の中で、一番長い付き合いの皇太子には一番苦労させられたのだ。少しくらい利用させてもらおう。




