結婚と私
地面に叩きつけた紙を拾い、オグリに差し出す。
「私は婚約破棄されない限り、絶対にジェルミー様を嫌う事はありません」
「まだ婚約も何もしていないだろ」
「……………」
痛いとこを突かないでほしい。未だにジェルミーからの連絡は一切無く、私もそろそろ焦っているところなのに。マーシャに聞いても何も話してくれないし、ジェルミーと私は始まる前から終わってしまうのだろうか。
「うぅ…」
じわりと視界が滲む。そうだ。思えばジェルミーは私と婚約するとマーシャに言っただけで、私を好きだと言ったわけじゃない。なのに一人で浮かれた挙句傷付くなんて馬鹿過ぎる。
「私、このまま11回目の失恋をしてしまうんでしょうか…」
いや、今回は婚約もしてないし、傷は浅いはず。なのに涙が止め処なく流れてくるのは、余りにも自分が愚かだからだろうか。
「みっ、ミィ!!泣かないでくれ、俺が悪かったから!!ごめん、ジェルミーから何度も連絡は来てたんだ。でもどうせジェルミーも姉上に会ったら気が変わるだろうと思って、ミィには話さなかったんだ…なのにあいつ、未だに姉上に惚れなくて…もう何度も会わせてるのに…聖女の血を継いでない奴が魅了にかからないはずないのに…なんであいつは…」
後半はぶつぶつと小声で話し出し兄だが、前半はバッチリ聞こえた私は必死で兄にしがみついた。
「本当ですか!?ジェルミー様はなんて!?明日にでも結婚式は挙げられそうですか!?」
「えっ、あ、いや…その〜…式は流石に…婚約したい旨が書かれた手紙と、ミィに会いたいって手紙が届いてるよ。でもちょっと…ジェルミーに会うのはもう少し待ってほしい。ジェルミーが姉上に惚れるまでは…」
「婚約!!私もジェルミー様に今直ぐ会いたいです!会って直ぐ結婚式を挙げたいです!!」
「み、ミィ…落ち着いて…」
兄の服を握り締め、鬼気迫る勢いで兄に詰め寄る。ジェルミーからの手紙を隠されていた怒りはあるが、今は早くジェルミーに会って結婚したい気持ちが先走ってしまう。10回も婚約破棄された私には、もう後がないのだ。
「ミィニャ、落ち着けって!結婚式なんてそんな直ぐ挙げられないし、そもそもミィニャはジェルミーと何回か会っただけだろ?あいつの人となりをちゃんと見ないと」
「そんな時間私にはありません!無駄に時間をかけて、また失恋したらどうするんですか!会って5秒で結婚します!」
「ミィ、頼むから落ち着いてくれ!!」
その後暫く錯乱したように結婚結婚と騒いだ後、ようやく落ち着きを取り戻した私は、何事もなかったかのようにメイドが入れてくれたジュースを飲んだ。
「いつも皆さんの馬鹿みたいな話を聞いてあげてるんですから、恩を返してください」
「恩?」
「そうです。ジェルミー様と結婚出来るよう、協力してください!」
「断る」
私の頼みを速攻で切り捨てたロベルを睨む。
「断る権利なんてありません。皆さんに一方的に婚約破棄された私が、社交界でなんて言われてるかご存じないんですか?ジェルミー様を逃したら、もう一生結婚出来ないかもしれないんですよ!」
「お前が結婚しなくても、俺がミファナと結婚すれば問題ない」
「意味がわかりません。お姉様の結婚と、私の結婚は別問題なんですよ。私だって結婚したいですし」
「…俺とミファナが結婚すれば、お前は俺の家族になるんだ。それで充分だろ」
「意味がわかりません!義兄が出来たからって、なんの意味があるんですか!私には既にお兄様がいますし、兄はもう必要ありません!私に必要なのは、愛する旦那様です!」
私はテーブルをバシバシ叩いて抗議する。ジェルミーが私と本当に婚約する気があるとわかった以上、何としてでもジェルミーと結婚しなければ。




