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清廉潔白と私

「これを見ろ」


 私が11回目の恋をして5日目。暇を持て余した元婚約者達が数人、我が家に押しかけてきた。


「なんですかこれ」


 目の前の机に置かれた分厚い紙の束を手に取ると、私が10歳の時に婚約していたオグリが、深刻な顔をして口を開いた。


「ジェルミーについて調べてみた。見てみろ」

「はぁ…」


 随分分厚い紙の束をペラペラ捲り内容を確認する。ふむふむ成る程。紙に書かれた内容は、まぁまぁな悪逆非道なことをしているジェルミーの事がぎっしりと書かれていた。


「言っとくけどこれはごく一部だからな?それはお前に見せられるギリギリのヤツだ」

「へー」

「へーって…ジェルミーのヤバさがわかんないのか?」

「ジェルミー様は貴族なんですから、綺麗事ばかりじゃやっていけないでしょう。逆に聞きますけど、皆さんは自分達が清廉潔白だと胸を張って言えるんですか?」

「……………」


 黙り込むオグリに溜め息を吐く。この国の皇族も貴族も、自分は清廉潔白だと言える人なんていないだろう。少なくとも私の元婚約者達は中々の悪だということを私は知っている。何故か新しい婚約者が出来る度、元婚約者達が新しい婚約者の粗探しに躍起になり私に知らせてくるから。そう、今みたいに。


「今までだってそうでしたけど、愛する人が何をしていようが関係ありません。結婚したら、その罪を共に背負う覚悟だってあります」


 私の愛を舐めないでほしい。惚れっぽくはあるけど、一つ一つの恋に私は全力だ。私の愛を四文字熟語にするならば、粉骨砕身、獅子奮迅、全身全霊、一心不乱だ。恋に盲目になり過ぎて、兄から何度も注意されたが知ったこっちゃない。誰かを愛するって、魂を燃やすようなものなんだから。


「ミィニャの気持ちは知ってる。でも本当にいいのか?ミィニャがジェルミーと結婚したら、アンガー家もロッズオール家と対立する貴族達から攻撃されるんだぞ?」


 オグリの言葉に、黙って話を聞いていた兄が大きく頷いた。


「それは非常に困る。アンガー家は代々聖女を輩出してきた誉れ高き家門だ。ロッズオール家の汚名を被るわけにはいかない」

「その通り。ミファナのためにも、今回は諦めた方がいい」


 兄とオグリの言葉に、私は『成る程ね』と頷いた。


「お兄様ったら。アンガー家は清廉潔白だって言うつもりですか?」

「そうだ。我が家に後ろ暗い事なんてない」

「ふーん」


 堂々と言い張る兄に疑心の目を向ける。確かにアンガー家は他の貴族よりも後ろ暗い事は少ないかもしれないけど、全く無いわけじゃない。両親は私に何でも話してくれるから、姉よりは遥かにアンガー家について詳しい自信がある。それに…


「じゃあお兄様は?」

「え?」

「次期当主のお兄様は、後ろ暗い事なんて一つもないんですか?」

「あ、あるわけないだろ」


 私から目を逸らす兄を鼻で笑いながら、私は核心を突いてやる。


「お兄様のお部屋の奥にある扉の先には、何があるんですか?」

「うぐっ!!」


 一瞬にして顔色を悪くする兄に、オグリ達が眉を寄せる。


「…何があるんだ?」

「いや、別に何も…」


 往生際悪くとぼける兄だが、私はやられたらやり返す質だ。だから見逃してやるつもりは更々ない。


「何もないなら今直ぐお兄様のお部屋に行きましょうか?」

「それはちょっと…」

「どうしてですか?後ろ暗い事なんてないんですよね?」

「その、……ちょっと待った。まさかミィ…あの部屋に入ったのか…?」

「さぁ…?」

「違うから!!誤解しないでくれ!!ただミィとの思い出を保管しているだけで、変な意味なんてないんだ!!」

「入ったことはありませんよ。でも今の言葉でだいたい把握しました」

「…………!!」


 墓穴を掘った兄は撃沈し地面に崩れ落ちたので放置し、オグリ達に渡された紙を地面に叩きつける。


「私は今度こそ結婚してみせます!ジェルミー様と私の仲を引き裂こうとするなら、もう二度と恋愛相談は聞いてあげませんからね!」

「お、落ち着けってミィニャ!俺達別にミィニャの結婚を邪魔したいわけじゃなくて…その…えっと…」

「いずれ義妹になるお前を心配しているだけだ。ミファナの義弟に、ジェルミーは相応しくないだろ」

「はぁ?」


 何を言ってるんだ、このどあほう達は。邪魔以外の何物でもないし、ロベル達の義妹になる事もない。そもそも姉とジェルミーを会わせるつもりはないから、相応しいか相応しくないかは関係無い。会わせたら最後、私は11回目の失恋をしてしまうに決まってる。

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