11回目の恋する私
グチグチと文句を言われながら食べる食事も普通に美味しく頂き、食後のお茶を一気に飲み干す。優雅に味わっている場合じゃない。
「話は聞いてあげますから、簡潔に話してください」
「わかった!あのねぇ、姉様にミファ様と結婚したいって言ってるのに、全然許可してくれなくて困ってるんだぁ~。ミファ様との結婚は駄目って言うくせに、ミィちゃんと結婚しろって煩いしぃ…僕はミファ様と結婚したいのに。ミファ様と結婚したらミィちゃんとも家族になれるし、姉様だって嬉しいはずなのに!」
「全然簡潔じゃないんですけど…」
「でも一番酷いのは兄様だよ!ミィちゃんと婚約するって言いだすんだから!!ミィちゃんは僕の婚約者だったんだから、兄様とは婚約しちゃ駄目だからね!」
「まさかの棚ぼたをありがとうございます。初めて恋愛相談聞いてあげてよかったって思いました。ジェルミー様は前から素敵な方だなって思っていたんです。今から11回目の恋を始めます」
「駄目だ!!」
「駄目ぇー!!」
「煩い」
私の両隣に座っていた兄とマーシャが同時に叫んだせいで耳が痛い。兄にもマーシャにも私の恋を邪魔する権利なんてない。今は高鳴る胸を押さえ、マーシャの兄であるジェルミーの事を考える。公爵家を1年前に継ぎ、仕事が出来て真面目な人だった。サイコパスと同じ血が流れているとは思えない程の良識人で、会う度いつも美味しいお菓子を振る舞ってくれていた。ジェルミーはマーシャの3つ上だから今21歳か。7つ上なんて全然問題ない。現に今までの婚約者の中にも7つ上はいたし。
「さっそく両家顔合わせをして、今月中に結婚しましょう」
「ミィ、落ち着け!ジェルミーはマーシャよりさらにサイコを極めたヤツだから!騙されちゃ駄目だ!」
「そうだよ!兄様僕より酷い性格だよ!姉様もだけど!僕の家族皆頭おかしいんだから!」
「へー」
兄が嘘を吐くとは思えないが、私の知るジェルミーは優しくていつも笑みを浮かべた私の理想そのものの人だ。好きな人が出来る度理想は変わるけど、今はジェルミーが私の理想だ。マーシャの家族は皆いい人だし、頭おかしいのはサイコパスなマーシャだけだ。
「頭おかしい義弟も大事にしてあげますからね」
「マーシャ!お前のせいだぞ!どうするんだよ!!ミィはこうなったら俺達の言葉を聞く耳持たなくなるし…ジェルミーに会うよう姉上に言わないと…」
「ミィちゃんのバカぁ〜!!ミィちゃんの恋より僕の恋の方が大事なんだから、兄様の事なんて好きになっちゃダメぇ〜!!」
親指の爪を噛みながらブツブツ言い出した兄と、またもヒスり出したマーシャを無視して、明るい未来に胸を躍らせる。幸い姉は1ヶ月前から神殿で暮らしていて滅多に家に帰ってこないから、時間をかけずにさっさと結婚してしまえば11回目の失恋を回避出来るかもしれない。希望的観測だとしても、恋する乙女は最強だっていうし、今は失恋する悲しみより恋する楽しさをエンジョイしたい。