禁断の恋と私
部屋に戻り、ゆっくりじっくり湯浴みをした後、とっとと寝るためベッドに潜り込んだ。今日は精神的に酷く疲れていたのか、目を閉じると直ぐに眠気がやってきた。さっきメイドに明日は昼まで起こさないよう伝えておいたので、寝て起きたら元婚約者達も家に帰っているだろう。湯浴みをゆっくりし過ぎてすっかり存在を忘れてしまっていたが、起きたら魔法の鏡を使ってみよう。遠くで聞こえるコンコンという音を子守唄にしながら、私は深い眠りに落ちた。
翌日のお昼過ぎ。私はメイドに起こされ目を覚ました。特技というには何の役にも立たないが、私は寝付きがよくいくらでも眠ることが出来た。メイドに確認を取ると、姉も元婚約者達ももう家には居ないとのことなので、私は朝食兼昼食を食べに食堂へと向かった。
「あ、お兄様。おはようございます」
「おはよう。昨夜はよく寝てたな。昨日フィリエ殿下達がミィの部屋のドア何度も叩いてたんだけど、全然起きなかったな」
「子守唄代わりに聞いてました」
食堂に向かう道すがら兄と出会い、一緒に食堂に向かいながら嫌な話を聞かされた。早く寝て大正解だった。ホントに迷惑な人達だな。
「そうか。アイツ等しぶとくさっきまでいたんだけど、流石に邪魔だから追い返した。まぁあの分じゃ誰かは明日家に来そうだけど」
「暫く旅行にでも行ってこようかな」
「それはやめてくれ。仕事が溜まってるからついて行けない」
仕事がなければ当然のようについてくるつもりの兄に苦笑いが浮かぶ。
「旅行くらい一人で行けますよ」
姉も私よりも幼い時から一人で旅行をよくしていたと言っていた。その旅行中、両親に捨てられ途方に暮れていた私を見つけてくれたのだ。名前の無かった私に、ミィニャという名前をくれ、家族までくれた大切な姉。まぁ、名前の由来が『猫を飼ったら付けたかった名前』っていう事には、若干思うところはあるけど…。
「一人でなんて絶対駄目だ。心配過ぎて仕事なんて手につかなくなるし、ミィが家にいないなんて一日たりとも耐えられない」
「お兄様は私が大好きですもんね」
「ああ。愛してるよ」
重度のシスコンを拗らせた兄は、私の手を取ると手のひらと手首にキスをし、にこりと笑いかけてきた。
「今、禁断の恋に目覚めそうになりました」
「いいね」
「全然よくありませんよ」
危うく11回目の恋と失恋を同時にするところだった。自分の惚れっぽさに初めて危機感を抱く。流石に、血の繋がりは無いとはいえ、兄に恋するわけにはいかない。ドキドキする心臓を落ち着けようと、深呼吸を繰り返す。
「心配するな。俺は姉上に惑わされたりしないから、ミィが望むなら俺と結婚しよう。そうすれば、血の繋がった孫の顔を母上と父上に見せてやれるぞ。それに俺独占欲強いから、俺と結婚したら二度とあいつ等が家に来れないようにもしてやる」
「どうしよう…最高のプロポーズ過ぎて頷きたくなります」
「だろ?俺と結婚する?」
「す、……………ない。しません。お兄様。可愛い妹を惑わさないでくださいよ。流石お姉様の弟なだけありますね」
「姉上と同じ扱いは流石に業腹なんだけど」
「罪深さは一緒でしょ」
「どこが」
不満そうに顔を歪める兄の手を引き、私は食堂に早足で向かった。これ以上話していたら、本当に禁断の恋が始まってしまう気がして。