嫌な予感と私
「どうして教えなかった?どうせ君は知っていただろ?」
私の願いも虚しく、ずっと黙っていた公爵であるローゼアが口を開いた。
「もしかして私に言ってます?」
「私が態々話し掛けてやるのは君だけだが」
「友達いないんですか?」
「必要ない」
ローゼアは私が12歳の時に婚約した人だ。お姉様に惚れてはいるが、口下手なのか何なのか、お姉様と話しているところを見たことがない。まぁ私が知らないところで話してるんだろうけど。
「それで?何故黙っていた?」
「お姉様の好きな人のお話しですか?残念ですが、私は知りませんでした。お兄様は知ってました?」
「さぁ?聞いた事がなかったな。姉上はいつも鏡の話しばかりするし」
「本当に?」
「私達が嘘を吐く理由がありません」
勿論兄も私も大嘘吐きである。ホントの事はお墓に持って行かないといけないし。
「君は嘘を吐く時目を伏せる。今目を伏せたのは気のせいか?」
「気のせいでは」
「嘘に嘘を重ねる時、君は顎を触る。今触っているな」
「な、何故そんな事がわかるんですか…」
「わかって当然だ。君はミファナの妹だからな」
「は、はぁ…」
意味不明過ぎる。まぁ別に問題ないけど。
「仕方ありませんね。お姉様は確かに好きな人がいます。ただ誰を好きかは申し上げられません。私が口を閉ざすのはお姉様のためです。そこのところご理解ください」
「そんな…いったいそいつはどんな奴なんだ?聖女に相応しいのは次期皇帝である私だけのはず…いや、私が求婚すれば気持ちも変わるだろう」
ヘタレが何かブツブツ言ってるけど、姉の気持ちが変わるとは思えない。またしてもあーだこーだ騒ぎ出した元婚約者達に呆れていると、メイドが私のもとにやって来た。
「お嬢様、そろそろ湯浴みのお時間ですが…」
「やっとそんな時間になってくれたのね。じゃあ今度こそ私は失礼します」
「ああ。早めに済ませてこいよ」
「…何故ですか?」
やっとこの地獄から解放されると意気揚々と立ち上がった私に、ロベルがおかしな事を言ってきた。なんだか凄く嫌な予感がする。
「ミファナが帰るのは明日なんだろ?なら今日は泊まっていく」
「そんな勝手な事を言われましても…」
「ミファナの許可は取ってある」
「いつの間に…」
「俺も知らなかったんだけど…」
兄がガックリと肩を落とすのを横目で見ながら、私はさっさと食堂を出ることにした。嫌な予感はまだ続いているのだ。