銀杏
この頃は日曜日はいつも虚しくなる反面、少しホッとしている自分もいた。
彼女への恋は辛いばかりで、前にも後ろにも、どこにも進むことができない八方ふさがりの今は、彼女が100%こないとわかりきっている休日は、どこか肩の力を抜くことのできる時間だった。
僕は日曜朝市と称したセールの客が一段落し、ちょっと気分転換に、と一歩外に出た。
店の前の街路樹の銀杏がすっかり色づき、風が冷たい。冬の気配を感じ、静かに深呼吸する。
今日は幼稚園の方も静かだ。そう、一息ついて自然に上げていた視線を降ろした。
彼女の姿を見たのは、そんな不意打ちの状態だった。
僕の心臓は鋭いやりで貫かれたような痛みを覚える。
道の反対側を歩く、彼女。
幸せそうで、僕には見せたことのない笑顔を浮かべていた。
そして、その隣には……
僕の知らない男がいた。
たぶん、彼女の夫という立場に居座る人間だ。
僕の心は凍った。
彼女がこちらを振り向きやしないかと、心のどこかで恐れ、どこかで期待していた。しかし、彼女はそんなそぶり一つ見せなかった。
まるで、ここに店がある事を、僕がいる事を知らない人であるかのように、一瞥も、しなかったのだ。
いつの間にか、僕の口から笑い声が漏れていた。
それほどまでに、旦那さんの事が好きってことか。
それほどまでに、僕は眼中にないって事か。
僕は自分の口を抑えると、店の方へ戻った。
これで良かったのかもしれない。あそこで振り向かれていたら、もっと辛かったかもしれない。
もしかしたら、本当に、僕の事を失念していたのかもしれない。でも、そんな事ってあり得るか?毎日、毎日通う場所の事を、簡単に、失念するものだろうか。
僕は独りよがりなこじつけをしはじめる。
彼女は僕を忘れていたんじゃない。こちらが見られなかったんだ。
旦那と一緒の所を、僕に見られて、辛かったんだ。だから、こっちを見向きもしなかったんだ。
あんな、幸せそうな顔をして……。
完全な自己欺瞞だってわかってた。
でも、そうでもしないと、僕の心はバラバラに崩れ落ちてしまいそうで……。
そしてその日、僕はある決心をして、明日を待つことにした。