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死ねないポチのおさんぽ日記  作者: 大爆裂エアーコンディショナー
3章 神の理において、君は万物を繋ぐ哀れな博愛主義者となる
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唱えよ

 闇夜の中での三つ巴の戦いは汚水が弾けて地面を叩く音と刃がぶつかり合う音…そして断末魔と怒号に包まれていた

森の奥から謎のゾンビが次々と乱入しているようで少しずつだが数で負けるギルド側が押され始めているのを感じる…


「くそっ…!全然前に進めねえ…!」


 ゾンビも教徒も何人倒したか分からない、目標は海神教信の根城であるあの老人ホームもどきだというのに謎勢力のゾンビも教徒どもも放置して突っ切るには数が多いうえにしっかり厄介だ。咬ミ鳴リの刃も既に電撃を放つ機構が壊れたのかただの双剣…いや刃が欠けて斬れ味も落ちていて半ば棍棒に近い

 突然背中へと衝撃と熱が駆け巡る、どうやら不意打ちに火球を撃ち込まれたようだ…後ろを振り返ればわらわらと森の奥から新手の教徒の集団が出てくるところだった


「チッ…!戦力の逐次投入は下策だなんだとアニメやら漫画やらでよく聞いてたんだけどな…実際やられる側になると本気でウザってぇじゃねえか…ッ!」


 新手のやつに向かってボロボロになってしまった咬ミ鳴リを投げつけ、魔法攻撃も礫もノーガードでくらいながら強引に集団の中へと飛び込んで教徒を殴り倒し、ついでに何匹かのゾンビの腹を『肉体操作(魔)』で鋭くした爪で引き裂く

 その時だった…


————♪


 森の反対側、ギルド陣営がいる方向からこの乱戦に似つかわしくない歌声が響いてきた…そしてフラッシュバックするのはフィレントが使った歌の魔法——問答無用で恐怖心を与えたり“死”という端的な一撃必殺を与えるあの理不尽な魔法が頭をよぎって一気に怖気立つ

 歌声が明らかにフィレントのものではないのもわかっている、あの魂を乱雑に掴まれるような不快感も感じない…それでも初見殺しというものがあり得るのが『魔法』や『スキル』というものだと散々痛感させられてきた頭が俺に“今すぐみんなに合流しろ”という判断を叩きつけ、俺もそれに飛びついた

 前に前にと進んでしまっていた身体は仲間のもとからかなり離れてしまっていたようでなかなか合流に至れない…早く早くと急く意識が足をもつれさせようと警鐘をぶち叩く


「——は?」


 そんな俺を突然夜空に舞い上がった信号弾のようなものが見下ろした

 ぱっぱっと何度か弾けるように瞬いたそれは高く高く舞い上がり、そしてなんとなく直感で予想できていた通り…ぱぁっ!っと弾けて何かを撒き散らし——


「…は——」


 なんか知らんが俺は意識が飛んだ。




「ギルマスらと魔法メインのやつは下がれ!どうやら水入りだ炎は効かん!」

「海神教信側の増援じゃないわよ!奴らも驚いてる!」


 ギルド職員らがゾンビを斬り倒しながら叫ぶ目の前で海神教信の教徒が背後から噛みつかれて悲鳴を上げた…

 場面は変わってポチの意識が謎の光で吹っ飛ぶ十数分前に戻る、実は彼より後方で戦っていたギルド陣営はポチがゾンビと遭遇するよりも早くゾンビの群れに乱入されていた


「【浄化】系はできるやついないよねえ?!」

「んな敬虔な奴がいるかようちの脳筋ギルドに!」


 見るからに悍ましい見た目をしたゾンビに怯む事なくギルド陣営は冷静に対処しており危なげはない…しかしアンデッド系の魔物は亡者であるが故に驚異的なタフネスがある魔物である。魂を浄化するか物理的に再起不能になる程の過剰ダメージを与えて倒すまでは何度でも起き上がる可能性がある油断のならない難敵にギルド陣営は無理に進むことも出来ず攻めあぐねていた


「ギルマスッ!このままじゃジリ貧です!」

「わかってるデスよ!しかしまだ()()()()()デスっ!」

「耐えるしかねえんですねえこんちくしょうッ!」


 エチゴヤの返答を聞いたギルド職員はゾンビを蹴り倒して素早く足を切り離しながら味方全員に向かって声を張り上げる


「テメェらぁ!バテたやつはメシ抜きだっ!!」


 周囲で戦うギルド陣営がそれの声に雄叫びで答え、まだまだ終わりの見えない戦いに萎えはじめようとしていた闘志を奮い立たせて己の武器を振り上げる


「3人1組で動けぇ!一人は教徒!一人はアンデッド!残り一人で他二人のフォローに回れ!」

「こっち二人しかいねえ!フォローきてくれ!」

「ヨシムネさんは協力者2名とギルマスらの護衛!護衛される側は前線から下がって後方の警戒!」

「だあぁぁくそっ!次から次へと鬱陶しいなこの火と礫!」

「文句言う余裕あんなら盾でぶん殴って来いよフォローしてやっから!」


 森のあちこちからおよそギルド側の職員とは思えない粗野な言葉が飛び交う、スタミナが尽きで戦線に復帰できないエヴェリーナとリンカはギルドの受付嬢らに連れられて後方に下がっていた


「もどかしいね…啖呵を切った割に戦況が逆戻りからさらに悪化したタイミングで何も出来ないだなんて…」

「もとより民間協力者に強く期待はしてないデスよ」

「言い方はともかく助かるね〜…ホントバテバテだよ…」


 その時だ、エチゴヤがぴくりと反応して森の奥を見やり…舌打ちしながら「また古風なものを…!」と嫌そうな顔で吐き捨てすぐに声を張り上げた


()()確認!警戒態勢ぇぇぇぇ!!」


 エチゴヤの言葉にギルド陣営が動揺にざわつく…“詠唱”とはその名称の通り、魔法などを行使するために詠唱行為を伴うかなり昔に廃れてしまった魔法方式だ

——それ故にそれそのものが敵の動揺を誘うに値する


「我ら海神に己と誇りを捧げし哀れな信徒!どうか我らの不躾な願いを聞き届け、不遜なる我らが怨敵へと業火の裁きを願い乞う!放たれるは豪炎の唸り、【ボルケーノボール】ッ!!!」


 森の奥からゴウ!と空気を焼きながら巨大な火球が放たれる…数メートル先からも強烈な熱波を巻き起こし、夜の空を昼のように照らした獄炎の前へと素早くヨシムネが躍り出た

 その屈強な腕に嵌めたガントレットを一度強く打ちつけると装甲の隙間から黄金の光が輝き、そしてヨシムネはそのまま拳を地面へと叩きつける


「オォォォラァッッ!!!」


 地面が爆ぜて魔力で呼び起こされた黒色の大岩が豪炎を受け止め爆音と共に弾ける…周囲の木々は瞬く間に燃え上がり真っ暗だった森が恐怖を煽るような煌々とした炎に包まれバチバチと爆ぜ始めた

 エチゴヤの警戒を促す声とヨシムネの防御のおかげで人的な被害はゼロだったが森に飛び散った炎は大規模な森林火災を巻き起こしており、さらに豪炎に炙られた地面は黒く焼け焦げマグマのように赤熱してグツグツと泡立っている…こんなもの人体に当たればどう考えても致命傷という言葉すら文字通り生温いだろう


「なんだありゃ?!どんな大魔導師様がついてんだよあっちは!?」

「当たったら骨も残るか怪しいぞこんなもん!」

「狼狽えてんじゃあねえ!!」


 ヨシムネの一喝が響き渡り全員がそちらを見る…ガントレットを地面から引き抜き、灼熱となった地面をグシャリと踏み締めるヨシムネもその額から冷や汗を垂らしながら冷静になろうと努めている


「噂に聞いちゃいたがこんな事になってるとはな…“裏詠唱式”!!」

「裏…詠唱式…?」

「イメージ式の台頭により廃れた詠唱式…かつてその技術の移ろいを恐れた魔法研究者達によって詠唱式の発展型として詠唱そのものに魔法的意味を持たせる研究が盛んだった時期があったのデス」

「それが…裏詠唱式…?」


 前線へと上がってきたエチゴヤはギルド職員の言葉に頷く、彼女の後ろには赤熱した地面に怯えながらもギルドの受付嬢達とエヴェリーナとリンカの二人がいた


「イメージ式と比べて自由度もスピードも劣る詠唱式が廃れた最たる理由、それは“詠唱”そのもの…何をやるにも一手遅れ、手を晒し、痒いところに手が届かないと揶揄されるほどに詠唱式からイメージ式への魔法方式の移ろいは残酷だったのデス…」


 正式名称『詠唱式魔法方式』…それは出力こそ現行の魔法方式よりやや高いが“魔法”という技術の原点であるが故に利点らしい利点はその出力と詠唱を覚えれば適正や魔力量を問わず誰でも魔法を使えるという点以外は特になく、ただ面倒な手順の割に得られる結果に融通も効かず基本手の内を晒すというデメリットがあった

 その点、現行の魔法方式であるイメージ式の魔法はイメージさえ出来れば結果も形も出力もある程度は自由自在、魔力を動かす行為そのものがブラフとして成立しながらもブラフと実行をギリギリまで選択可能である

 結果として残酷な事にイメージ式の技術が生まれてから一年もかからずただ純粋なメリットデメリット利便性というシンプルな観点から詠唱式は廃れた


「しかしその“詠唱”という行為そのものに意味を持たせた魔法方式…それが“裏詠唱式”…!

 ただ詠唱するのではなく“詠唱を聞かれる”というデメリットそのものを魔法の出力や効果を変質させるための小さな儀式とする技法…イメージ式の爆発的な流行によって結局それも廃れたと言われていたデスが…なるほど宗教家にとっては随分と都合の良い…!」


 森の奥から再び、しかし今度はハッキリと低く唸るような詠唱の声が這うように響いてくる…ギルド陣営全員がついさっき目の当たりにした豪炎の威力を思い出し緊張の面持ちで身構えた


「だがしかし迂闊!詠唱とはデメリットを超えれば現行魔法よりも強力…それ故に!撒き散らす魔力の残滓も大量なのデスよっ!!」


 エチゴヤは高らかに声を上げその手を夜空に掲げる…その手にはタクト型の魔道具が握られていて、続いてエチゴヤの後ろに待機していたピリカとアルディナ(2人のギルド受付嬢)がエチゴヤを含め三角形を描くように位置取り、向かい合って両手を広げ祈るように歌い出す

 讃美歌のような歌声が森に響くと同時にピリカとアルディナの間に煌々と輝く魔法陣が展開される


「「見よ!!我らが魂に刻まれし女神の威光を!何者にも縛られず高らかに歌うその御影を!

 今この瞬間、『歌唱増幅式:最終魔道歌姫 タオヤメ』…御光来であるッ!!」」


 ピリカとアルディナが紡ぐのもまた詠唱式の魔法だった、高らかに吠えるその詠唱に呼び起こされるようにしてズルリと魔法陣から何かの頭が覗いた


「「【アドベント】ッ!!」」

 

 魔法陣から現れ出でるは3メートル以上はある白磁の女神像であった。全体を血のような紅い鎖で縛られたそれはごぼりと血の涙を流し、伝った血の涙は虚空へと溶けるように消える


「百年以上も昔の話…支援魔法を扱う者はまだ少なく、彼らの戦闘と生存への貢献は軽視され、そして不当に追放される事件は数え切れなかった時代がある…」


 エチゴヤの握るタクト型魔道具がヒュンと唸り、それと共に女神像の周囲に無数の魔法陣が展開されて中から手のひらサイズまで小型化された楽器達が姿を現し踊るように宙を舞う


「そして支援魔法の恩恵に無関心である者から死亡あるいは重傷を負い、そこでやっと己の無知を恥じるのデス」


 ヴァイオリン、フルート、コントラバスにトランペット…挙げればキリがないほど大量の楽器群は美しくも悍ましさを湛える女神像の周囲で舞い遊ぶ妖精達のように淡く輝いていた


「そして時は流れ今…魔法は詠唱を捨て、汎用性を手に入れ、攻防支援全てを担う者が主流…故に何かに特化する魔法使いとは詠唱式魔法以上の絶滅危惧種であり異端…」


 ぽつぽつと光が現れ天へと昇る…魔法発動のために集められ、そしてその役目を終えて大気に霧散し地に“満ちた”魔力たちがエチゴヤのタクトに従い再び光を取り戻す


「ただがむしゃらに支援魔法のみを突き詰めた先にある…」


 エチゴヤはその赤く長い髪を湧き上がる魔力に柔らかく揺らされながら笑みを浮かべて指揮棒を正面に掲げる…

 するとただの彫刻に過ぎないはずのタオヤメが己を縛る紅い鎖を引きちぎりながらまるで生き物のように動いて胸の前で祈るように手を組んだ

 エチゴヤがタクトをゆっくりと掲げていくと呼応するようにタオヤメは高らかな歌声を響かせ…


♪——————……………


 瞬間、音が消える


「——本物の支援魔法師の力を見るがいいデス」


 腹の底から揺さぶられるような壮大な音の波が巻き起こる、戦場とは思えぬその音の洪水に海神教信だけでなく心持たぬはずのゾンビさえもが動きを止めてタオヤメを見た

 その美しい歌声と演奏は耳を伝い、臓物を伝い、心を伝い、そして魂を握り込んで揺さぶるような狂喜の音を轟かせる

 緩やかに舞い歌う白磁の女神像(タオヤメ)を従え無数の楽器を光の海の中で操るエチゴヤの姿はその幼い容姿も相まって神秘的であり、まるで絵に描いた幻想のようだ


「身体が軽いぞ?!なんだこれは!」

「な、何だ?!何が起きている!!」


 狼狽えた声が森から響き始める…タオヤメで増幅されたエチゴヤの歌による詠唱式の魔法が海神教信の教徒たちに降り注ぎ、その手足を重く重く重く重く重く重く…ただひたすらに重くさせる。どうやらゾンビも同じ状態なようでその場でぎこちなく蠢いてはたたらを踏んでいる


「今だ!攻め込め!」


 ギルド陣営がエチゴヤとタオヤメの歌声を背に受けながら攻め込むとあっけなく教徒もゾンビも殴り倒される…その衝撃で地面に倒れ込むと体の制御が効かず悉くが浜に打ち上げられた魚のように地面の上でのたうち回り、まともな抵抗も反撃も無く拘束あるいは討伐されていった…


「な、んァ…ッ?!」


 まともに口も動かせず、ただ困惑の中で教徒たちは目を白黒させながらのたうつ…

 エチゴヤが使ったのは攻撃するための魔法でもデバフを与える魔法でもない、全てが“補助魔法”だ。しかし薬も過ぎれば毒であるように補助魔法も過ぎれば強化が身体を暴走させる激毒になる…【筋力強化】から始まり【回復力増強】、【スタミナブースト】、【持続回復】に【フィジカルブースト】…30種類以上のバフ系統魔法を15回は重ねがけされており、もはやそれは用法容量どころの話では無い

 ただ意図せず動いてしまう筋肉の微細な動きすらも以上なほどに増強され本来したい動きの全てを暴走させる、一歩踏み出すどころか尻餅をつくことすらも無意識にバランスや受け身を取ろうとする体の反射が許しはしない、下手な拘束魔法よりもよほど厄介な自縛状態だ


「だけどギルマス!こいつら無駄に数が多い…こんな活きが良すぎるのを全員拘束してたら夜が明けてまた暮れちまうよ!」


 そう、海神教信もゾンビもわらわらと後から後から湧いて出たせいで数が多いのだ。しかしエチゴヤの歌の魔法はタオヤメによる増幅ありき、そのタオヤメの稼働はこの場に満ちた魔力の残滓をかき集めて行われているため保ってせいぜいあと2時間…どう考えても拘束が間に合わない


「問題なし!打ち合わせ済みデスから!総員、退避ぃーー!」


 エチゴヤの指示に従ってギルド陣営は素早く動いて拘束した者を蹴り転がし戦線を下げる…超多重補助魔法により動けない教徒たちは困惑しながらも不可解な敵の行動を黙って眺める他ない

 そんな彼らの前に出てきたのはエヴェリーナとリンカだった、すでにエチゴヤの補助魔法により全快した2人は再び手を繋いで思考を共有するとリンカの『エンチャント』が発動する


「行くよー!『エンチャント:サンダーマスター』!」


 エヴェリーナの手に複雑な形をした紋様が現れ、さらにエチゴヤがエヴェリーナに向かってタクトを振りながら高らかに歌い補助魔法を発動する

 そしてエヴェリーナが天に向かって紋様の刻まれた手を掲げ高らかに叫ぶ


「【ライトニングボルト】っ!!」

 

 天に掲げた手の先で僅かに雷光が瞬き,次の瞬間には10メートルを超える雷球へと膨れ上がった。雷球は海神教信たちが使った詠唱式魔法よりも大きく膨れ上がり、リンカは雷球へ手をかざす


「『エンチャント:圧縮化』っ!!」


 直径10メートル以上はあった巨大な雷球が圧縮されバチバチと漏れ出す閃光を瞬かせる小さな球体まで圧縮される…

 そしてエヴェリーナはとっておきの秘密兵器をガッコン!と構えた——


「超魔道炸裂式キャノン!名付けて『どっかんまっしぐらちゃんmark4』っ!!」


 エヴェリーナの身の丈ほどもある巨大な一本筒の砲身、超魔道炸裂うんたらのかんたら…まぁつまるところは


「この“打ち上げ花火”に!圧縮した雷球の魔法を『絶対併合』っ!!」

「違うよリンカ、どっかんまっしぐらちゃんmark4だ。」

「ハイハイ…まったく、エヴェリーナはネーミングセンスまで可愛いんだからもう」

「そこはかとなく馬鹿にしているよねそれは?」


 そんなやりとりをしながらも(どっかんまっしぐら)(ちゃんmark4)へと圧縮された雷球の魔法が強制的に融合させられ、オーバーフローした雷は黒く変色してバリバリと空気を焼き鳴く…

 地面に倒れ伏す海神教信の教徒たちは明らかに人体に打ち込んで良いわけがない圧倒的な雰囲気を放つそれに冷や汗をかきながら、どうか頼むから自分のところへ撃ち込まないでくれと内心で神に乞い願った

 だがそんな彼らの祈りは杞憂であった、エヴェリーナは(どっかんまっしぐら)(ちゃんmark4だよ)を正面ではなく小さく「よっこいしょ」と言いながら真上に向けてセットしたのだ。当然真上に放てば自分たちのところへ落下するというのに


「それじゃあ仕上げと行こうリンカ、後輩クンに直接見せられないのは少し残念だが…まぁ今からやる事を考えればどうにか見る事だけなら出来るだろう」

「だね!きっと驚くよ〜?たまやーって聞こえてきたら多分ポチだね」

「たまや?…あぁキミたちの元いた世界の言葉か」


 気の抜けたやり取りの裏(どっ)(かんまっしぐらちゃ)(んmark4だってば)から甲高い唸り声のような音があがり…ボン!と音を立てて雷光の砲弾が打ち上がる


「ねぇねぇエヴェリーナ、このままじゃ敵に当たらないよ?なんで真上に打ち上げたの?」

「あぁそうだね、このままじゃ当たるわけがないよ」


 わざとらしい芝居がかった声色でエヴェリーナとリンカがまた会話を投げ合う、楽しげにやりとりをしながらエヴェリーナは再度リンカからエンチャントしてもらった錬金術師(アルケミスト)を発動すると(どっかんまっしぐら)(ちゃんmark4っ!)を解体して4本の槍のような魔道具へと再構築する


「…というわけで今から『魔力追尾式自動マルチロックオンシステム型魔道具』について解説していこうと思うよ」

「えっ何それ名前長っ……」


 エヴェリーナの発した長々とした名称に倒れ伏した教徒たちは一瞬ポカンとして、次に脳に放り込まれた長々とした名称を数度咀嚼し…やっとその言葉をざっくりと理解した


「逃げちゃうペットの首輪や遭難対策のブレスレット、あらゆる場面で使える“目印の魔道具”。それは特定の魔力に反応して位置を知らせる物なのさ」

「え〜?でもそれってあらかじめその魔道具を持ってないと目印として機能しないよねぇ?」

「それはそうだね、そこで今回使うのはその目印の魔道具を最大限簡略化した技術…“魔力追尾式”さ」


 雷球の砲弾はパッパッと何度か白く瞬き破裂しながら空を駆け上り、エヴェリーナとリンカはそれを見上げながらなおもわざとらしい口調を崩さない


「それってどういう物なのー?」

「簡単さ、一定値以上の魔力に反応してそこへ()()()()()というだけだよ」


 芝居がかった2人の声を遮るように4本の槍のような魔道具がフォンフォンと唸りながらギルド陣営の周囲を高速で回転し始めた


「それがマルチロックオン…つまりは追尾の判定に引っかかった人を複数ロックして狙うわけだ〜!」

「そうその通り、サクッと構想構築設計してみたけれど…ハッキリ言ってまだまだ荒削りだね、敵味方の区別もつかないんじゃ無差別に撒き散らすのと変わらない」

「じゃあ今回のエヴェリーナ先生からの解説はここまで!」

「おやもう締めてしまうのかい?ここから“目印の魔道具”についての話をしたかったのに」

「だからだよ、絶対そこ話し始めたら止まらないでしょー?」


 少し残念そうなエヴェリーナに対してリンカは小さく笑いながら返し、そんな2人のはるか頭上で雷球の砲弾は目標の高さまで登り切った


「それじゃあ皆さんおやすみなさい…たーまやー!」


 パァッ!っと砲弾が弾けると同時に音速を超えた雷鳴の弾丸が降り注いだ

 戦場に倒れ伏す一定値以上の魔力を持つ存在全てに等しく降り注いだそれは一瞬にして高圧の電撃により教徒の意識を刈り取り、そして水死体ゾンビ達の中にあった海水がその高い導電率によりふやけた腐肉ごと魔法による支配を焼き焦がして沈黙させた




「——という事があったんだ、ちなみにボク達はこの魔道式電磁誘導避雷針こと『ビリビリぐっばい4兄弟くん壱号』におかげで魔法を地面へと受け流して無傷なのさ」

「くらってんのよ、俺が。」


 意識が飛んだあと派手に地面を転がり岩に激突したおかげで『絶対天命』が発動した俺はなんとかギルド陣営に駆け戻って来たというのにエヴェリーナ先輩からうっすらドヤ顔で情報共有されて思わずツッコミを入れながら、槍みたいな形をしたビリビリのなんたらのうち一本をカーンと蹴って八つ当たりした

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