闇夜の潮風
とあるバーからフード付きコートを目深に被った集団がゾロゾロと出ていく…それぞれが己の得物で布を押し上げ、歩くたびに裾を揺らす
その集団は町外れの森へと入り合図の信号弾を打ち上げる…闇夜に一筋の閃光を描いたそれは上空で小さくパンと鳴いて煌々と輝き、それから一拍置いて町に鐘の音と重く鋭い笛の音が鳴り響く…するとあちこちの営みがすぐに目を覚まし明かりが灯っていく
「ユトウの者は海底火山による被害から身を守るため、非常時の訓練を欠かさないデス
それは時に災害であり、時に人災であり、そしてそれらを含めたどれにおいても危機であり…住民は町の外にある各地区対応のシェルターを目指して逃亡を始めます…」
目を覚ました営み達からワラワラと人が溢れて一点を目指す…足取りは淀みなく、前世ではどこか非日常でワクワクしていた避難訓練を思い出しつつもこれは本当の避難なのだと思うとぼんやりとあやふやな本能的不安感に少しだけ襲われて手足がソワソワとしてくる
「この避難警鐘と訓練を義務付けたのは今より何世代も昔の海神教信なのだそうデス…悪く言えば宗教を利用して危機感に対する認識を強くし、その信仰が世代交代で薄れても海底火山による被害という現実が親から子へ受け継がれ続け、信仰を手放さない者は海神様の怒りという話を信じ続けて危機感を持つ…」
「なるほど〜どの思想に流れても結果として危機感を風化させず避難訓練を怠らないようにしてるんだねぇ」
リンカの言葉にエチゴヤは頷き、バサリと地図を広げる…そこへ全員が集まりルートの最終確認を行う
まず冒険者ギルドから伸びる大通りをエチゴヤは指でなぞった
「冒険者ギルドからは守りに特化した職員を中心に海神教信を目指す手筈になってるデス」
「裏切り者が紛れていた場合の対処にあたるわけだね」
エヴェリーナ先輩の言葉に短く「えぇ」と肯定と頷きを返すと次に森の中にあるバツ印をトントンと叩き、そのまま森に沿ってルートをなぞる
「そして本隊である私様達は森からの奇襲を行うデス。そしてこの中に敵の間者が混じっていた場合、それが誰であっても対処を躊躇するのを禁じます。」
確かな覚悟のこもった声だった…だからこそ誰も裏切らないでほしいとも思う。まだ彼らとは他人だけどそれでも彼らの仲の良さや付き合いの長さは見てて何となく伝わってくる…そんな彼らが相手を裏切り、そして殺し合わなければならない事態になったら気分が悪い
「私様と受付嬢達はヨシムネを護衛につけて後方支援を行うデス、他は全員先行して手筈通りに側面から殴り込みを。」
エチゴヤの指示に対して今度は全員が頷き…ついに『ユトウ夜戦』が始まってしまった
森の中を進みながらチラリと町の方を見れば営みの灯りとは違う明らかな火の光とわずかな喧騒が聞こえてくる。あの場に裏切り者がいればきっと…という思考が重くのしかかってきて、思わず顔をしかめずにはいられなかった
「早く終わらせればいい、こっちの身内争いだ、アンタがゴチャゴチャ考えてくれる必要はねぇさ」
洞窟前で戦ったあの男がポンと肩を叩いてくれた、言い方はどこか突き放したような言い方だがそこには思いやりが感じられて…同時に彼が裏切り者だったら倒さないといけないという不安が顔を覗かせる
正気のまま疑心暗鬼にならざるを得ない集団の中に放り込まれる事の不安を今回で初めて味わっている…今まではどこか正気じゃないまま、精神に干渉を受けたままそういう状況に居たからこその恐怖が拭えない
「……来たぞ、雑兵だが気をつけろ」
誰かがそう言った瞬間、反射的に体が勝手に動いて手に握ったショートソードを前に振るった
金属の刃がカン!と礫か何かを叩き落とし、それを皮切りに次々と礫と火属性魔法が飛んでくる
「魔法の明かりに惑わされるな!礫が視認しにくいぞッ!」
火属性魔法の明るさのせいでただの石である礫が闇に紛れる、何人かモロにくらってしまったのか背後で鈍い音がした
俺は急いで前進すると同時に『肉体操作(魔)』でフェンリルモードに体を変化させ、敵の前衛に斬り込む…礫も火魔法もモロに受けるが怯みもしない俺に敵は驚き隙を晒す
「少年は情報にあった異質な転生者だ!殺しても死なん!殺さず四肢を落とせ!!」
「それも効かねえバケモンだってのっ!」
声を張り上げた男へと飛びかかり殴り倒す…何故なら
「こういう時に真っ先に声出してる奴は大体偉いか司令塔だろ!」
目に見えて隊列の動きが乱れた
流石に同士討ちまでは行かないが、それでも明らかに礫と魔法を織り交ぜた弾幕攻撃の統制が無くなって自己判断が弱い空気読みに近いものに変化する
「オラオラァ!後ろか俺かハッキリしねえと荒らしまくんぞォ!!」
近場で狼狽えていたやつを殴り倒しつつ後方にいる先輩達の方に放り投げる、とりあえず昏倒させて投げとけばいいようにするだろう
宗教を悪く言うつもりはないが所謂信者というものは“導かれ待ち”な状態に慣れてしまっている。当然だ、信者がどいつもこいつも導く側のマインドじゃ空中分解するし、事今回においては導かれる側じゃないマインドのやつは明確に敵なんだから手加減も必要無いし、どうしても前のめりで悪目立ちする
「後輩クン!」
その時先輩の声がした、あーだこーだと言ったが俺も今回は導かれる側…つまりは指示があれば従うスタンスだ
素直にみんなの元へ戻ってみれば先輩とリンカ先輩が仲良く手を繋いでいた
「…えっこの状況で何イチャイチャしてんスか先輩」
「ジョークを言っている場合じゃないよ後輩クン、真面目にしたまえ」
「エヴェリーナ、別に手を繋ぐ必要無いのに繋いでおこうって言ったのエヴェリーナだよ?」
「ツッコミ待ちじゃねえか。」
「ジョークをひとつまみ添えたところで本題だ、アイテムバッグを貸してくれるかい?」
「えっ?まぁ、いいっスけど…」
アイテムバッグを先輩に投げ渡すと先輩は中から地下で回収したあの大掛かりな魔道具を取り出す、その重みでガゴン!と鈍い音を響かせながら地面にそびえ立ったそれをこんな状況下で何に使うのか検討もつかない…
「今までイマイチ僕とリンカのスゴさって伝わっていなかったと思うんだがね…そろそろ見せつけようかなと思ったんだ」
「あたしはやっとリハビリも終えてエンジンかかってきたからね、そろそろ活躍時かなって!」
「さてリンカ、まずは小手調べだ」
「了解っ!『エンチャント』、エヴェリーナに『錬金術師』を付与!」
先輩の手の甲に丸いマークが光り輝き、次の瞬間周囲の木や俺が出した先輩の魔道具がバラバラに分解されて2人の周囲をぐるぐる回りながら大きなバリスタを3門生み出す
「頑張って避けてくれたまえ、当たればただ痛いだけじゃ済まないよ…!」
先輩が腕を引くと1人でにバリスタ達はギリリ…と唸りを上げて弓弦を巻き上げ、丸い木の球がセットされた
「ドン。」
次の瞬間、目で追えない速度で発射された3発の木の球が闇夜の森へと撃ち込まれ、暗闇の向こう側から大量の悲鳴と木の球が砕け散る着弾音があがった
礫と魔法の合わせ技による弾幕が量と質とするならば、これはただ質特化で雑にした暴力と呼べるだろう
「さらにここからが理不尽だ、リンカ?」
「はいはいっ!『エンチャント:触れたものが増える魔法の手』っ!」
「はぁ?!それアリ!?」
「もちろんっ!だってここはゲームじゃない、好きに書いていいんだったら好き勝手書かなきゃ損じゃない?」
そのあまりにも雑極まりないエンチャント内容に思わず声を荒げる俺にそう言ってウインクするリンカ先輩、そして“触れたものが増える魔法”とかいう雑なエンチャントを付与された先輩が俺とリンカ先輩のやり取りに楽しげに笑いながら3機のバリスタへ触れるとエンチャントの効果通りにバリスタが増えて6門になった
マジで内容通りに発動してやがる…
「魔道具の材料集めから加工組み立てを短縮する『錬金術』で組み立てたバリスタを文章でそのまま効果を指定する事で無理やり増やす…まぁなかなかに世界中のいろんな分野の専門家を敵に回すやり方だね
まぁ一応バリスタの設計は頭の中で行なっているし、材料も完全に好き勝手できる訳ではないから許してもらおう」
そして6門に増えたバリスタからまた木の球が発射されて木々を抉りながら森の奥に広がる暗闇に潜んでいる者たちを問答無用で薙ぎ倒す…
そしてクールタイムが終わったのかまた先輩がバリスタに触れて6門から12門へ…
また球を発射してクールタイムが終わり24門へ…
量も質も雑にしたなんてもんじゃない、量を加速度的に増やしながら質を維持して一方的に蹂躙するつもりだ
「バカスカ撃ちやがってぇ!」
しかしそれは弾幕という訳ではない、発射間隔もそこそこにあり弾道の把握も容易なのだからこうやって抜けてくる者が当然出てくる…しかし頼りになりすぎる2人の先輩は止まらない
「『絶対併合』を発動、『エンチャント:錬金術師』と『エンチャント:触れたものが増える魔法の手』を統合っ!
さらに『エンチャント:めちゃくちゃ硬いシールド』対象はあたしとエヴェリーナの周辺の空間」
次の瞬間2人を覆うように球形のバリアが発生、バリスタの攻撃を抜けてきた男の一撃はあっけなく弾かれてバリアに激突して昏倒する…
理不尽なんてものじゃない、下手すると神のスキルと同レベルのチート性能な代わりに効果付与の枠数が決まってる『エンチャント』に神のスキルである『絶対併合』で後からエンチャントを無理やり纏めて枠を空けるとか無法が過ぎる
「そろそろこれも味気が無くても飽きたね、『触れたものが増える魔法の手を持つ錬金術師』を発動……文章付与と統合のデメリットは発動のために呼ぶ名前が長ったらしくなってしまう事だね」
先輩の前に並んでいたバリスタが3門に戻りまた部品の姿にバラける…そしてパーツの配置や形状を変化させながら今度は1本の長剣へと姿を変え、リンカ先輩がそれを掴んでバリアの外へと出ていく
「いくよー?『エンチャント:ソードマスター』、対象はあたしっ!」
「『電撃剣:咬ミ鳴リ』を起動、変形シークエンス」
ジャキン!とリンカ先輩の握っていた長剣が真ん中からパカっと割れて、鮫の歯を思わせるギザギザの峰をした2本の双剣に分離した
それをくるくると手の中で数度玩びおもむろにブンと振るうと…刃から雷光が閃いて森の闇をジグザグに引き裂きながら何人もの教徒達を感電させて悲鳴をあげる暇もなく一瞬で戦闘不能にした
「思考共有うまく行ったね!エンチャントで脳内イメージを伝え合えばエヴェリーナが作ってくれるなんて、今後も繋げっぱなしにしたいくらいっ!」
「ボクからすれば振ると電撃が出てしかも分離すると双剣になる長剣なんて不思議でならないけどね。最初から2本の杖にすればいいじゃないか」
「まぁまぁ、こういうのはロマンだよロマンっ」
リンカ先輩が剣を振るうたびに雷光が閃き森が一瞬明るく照らされ、そして人間が感電したバチチ!という音がこだましてくる…
どうやらエンチャントを使って2人の思考を共有していたらしく、それを利用してあの電撃が出る剣をリンカ先輩がデザイン、そして錬金術師で先輩が形にすると…前世で思考共有サービスとかやったらさまざまなところから依頼が来て大儲けしそうだ
「挟み込め!どうせ電気を飛ばすだけだ、気力で耐えろッ!」
「おうッ!!」
暗闇から4人の男たちが飛び出してくる、どうやら全体の連携は捨て去り各々グループを作って動き始めたらしい…素早い動きで距離を詰めてくる男たちのナイフがリンカ先輩に迫る
だがすでにエンチャントでソードマスターが付与されている…一瞬で2人の男が感電させられて身動きできなくなり、1人は数度切り結んだところで剣を伝う電撃に耐えきれず気絶し…そして最後の1人はギザギザの剣の背に挟まれた
「咬み……鳴りッ!!」
サメの顎のように噛みついた2本の剣の間に紫電が爆裂して4人目の男は全身から黒い煙を上げながらぶっ倒れた…
「どうだい後輩クン?僕とリンカのタッグは」
「理不尽…それ以外言葉が出ないっスね、もしかしてリンカ先輩が起きてたらレニールの事件も2人で解決出来たんじゃ…?」
「かもねっ!いや〜失体失体っ」
「ただデメリット、というか難点もあってね…」
2人が急に崩れ落ちるように地面に座り込んだ、先輩はかなり疲労した様子で肩で息をしているしリンカ先輩なんて地面に寝転んでしまった
「もうヘトヘト〜…」
「この通りさ、エンチャントで無理やりスキルもどきを付与するとかなり体力を消耗する…リンカなんて学園の授業でしか剣を握った事がないくせにソードマスターなんて過剰なものを付与するからこのザマだ…」
「だってかっこいい剣をかっこよく振り回したかったんだもん〜…!」
こんな緊迫した場面であのエヴェリーナ・ニンサルダリン先輩ともあろう方が後先考えずはしゃぐくらいにはリンカ先輩が目覚めて嬉しいんだと思うと、学園での後味悪い結末もユトウでのドタバタ騒ぎも報われる気分でなんだか笑ってしまいそうになる
「ポチ〜後よろしく〜…」
そう言いながらリンカ先輩はさっきの電撃が出る双剣…咬ミ鳴リだったかを投げ渡してくる、それをキャッチすると思ったよりズシリとした重さがあって病み上がりのうえに剣に不慣れな細腕の女性がコレを振り回すのは確かに疲れそうだとも納得した
そしてリンカ先輩の魔力かスタミナが完全に切れたのか『エンチャント』で作っていた理不尽バリアも砕け散っていく…
「さて…任せたよ、後輩クン?」
先輩は俺に向かってニヤリと笑いながら言う…思えば「任せろ」と言ったことは何度もあったが「任せた」と言われた事はあるのかないのか記憶があやふやなくらいには珍しい気がする
そんなの応えるしかないだろう?
体をほぐすようにトントンと数度跳んで…地面に指をつきクラウチングスタートの構えを取った
「——任せろッ!」
地面を蹴って一気に駆け出す…地面と木を蹴りながらフェンリルモードの脚力をフル活用してどんどん加速すると、咬ミ鳴リの放つ電撃が闇夜に電光の軌跡を描いて俺がそこにいた残滓を刻む
逃げ出そうとしていた教徒たちの前に回り込みそのギザギザの峰で腹を打つと咬ミ鳴リが吠えて電撃を放つ、ばたりと倒れる奴らを無視して次の獲物へと飛びかかる
「隠れてんじゃねえよッ!」
「ぎゃあッ?!」
「た、助けッ……」
教徒の悲鳴と共に暗闇に包まれた森へと電光の包囲網が描かれていき、海神教信陣営の人間が次々に夜の森に倒れ伏す…
…そんな中、1人の教徒は運良く包囲網の穴を見つけてみっともなく地を這いながら逃げ出していた。出来るだけ誰にもバレないようにと祈りながら行う不恰好で下手くそな匍匐前進は芋虫のような速さだが確実に戦闘区域から距離を離していた…
「クソッ…!クソッ…!こんなの、やってられるか…!そもそも俺は海神だの人魚だの知ったこっちゃ——」
「あらあら不信心者ねぇ、担ぎ上げておいて」
「ハッ?!おまッ」
パタリと男が地に伏せ、空を見上げたその顔は絶望に染まっている…数度口をパクパクと動かしたそれはすぐに動かなくなって脱力した
夜の闇に紛れて現れたのはスカイブルーの長髪を揺らす深いエメラルドグリーンのマーメイドドレスを着た女…ポチ達の前から姿をくらませていたフィレントだった
「楽しそうなことになったわねぇ、ダーリン…♪」
柘榴色の瞳を愉悦に歪ませ、心底嬉しそうな艶のある声が瞳と同じ柘榴色のリップに濡れた唇から漏れる
そんなフィレントの背後から数十人の男達がわらわらと現れ、彼らはゴボゴボと鳴きながらポチ達の戦場へと不気味で拙い牛歩の足取りで乱入していく
「でももっと楽しくしましょう?…だってその方が面白いもの」
そう言いながらフィレントは歩いていく男達を無視して海神教信の建物へと歩き出してまた夜の闇に消えて行った…残されたのはじゃぶじゃぶと音を立てながら蠢く男達の行進だけだ
電光瞬く夜の森に突然甘ったるくもあり磯臭くもある不快な臭いが漂ってきてポチは腕で鼻を塞ぐ…どんな増援だよと思いながらもエチゴヤから話が無かったのだから敵と見做していいだろう判断し、臭いを頼りに接近して刃を叩きつけた
「っ?!」
瞬間、帰ってきた手応えは本能的な嫌悪感としか言いようがなかった
ぐにゅりと刃がぶつかった箇所は深く沈むがめり込んだというよりは袋を上から押さえつけたような…かといって太っている人間の感触ではなくブヨブヨとふやけて膨らんだような…
そして咬ミ鳴リの電光が闇を照らして敵の姿を照らした時…
「ゴボボッ!ガボォ…」
目の前にいたのは口や目から海水をこぼしながら蠢く水死体だった
咄嗟に足で蹴って距離を離そうとしたが蹴り付けた腹はぐにゅりと気味の悪い感覚を足裏に伝え、次いでボゴッっと鈍い音を立てながらふやけた肉が破けて中から腐った臭いと色んなものが混ざって淀んだ海水が溢れた
「なんだコイツらァ!?」
「やめろ!離せ…ぎゃああああ!?」
「齧らないでぇっ!!イヤァッ!!」
森の中からギルドと海神教信の両陣営の悲鳴が上がる、どうやら不気味な海水入りゾンビはこの個体だけじゃない上に噛み付いてくるらしい
「ふざけんなここまで散々冒涜的なテーブルトークもどきだったくせにいきなりゾンビゲーかよ…!?」
そこでポチは足元に転がるゾンビが動いていないことに気付く、ゾンビのセオリーなら頭の破壊とかだが攻撃していない…なら他の弱点がある…?
「……海水ッ!中の水だー!腹を裂いて中の水を抜けぇーー!!出来れば電撃もくらわせろーッ!!」
一応叫んで共有する、確証は無いが少なくともゾンビに入れた攻撃の中でダメージになってそうなのは咬ミ鳴リの電撃か腹が裂けて水が抜けたことくらいだった
「(とりあえずはこれに賭けるしかない…!)…ッラァ!」
襲いかかってきた次のゾンビの腹に咬ミ鳴リで斬り傷をつけ思い切り蹴り飛ばす、蹴られた衝撃で傷から腹が大きく裂けて中の汚水がバシャバシャと零れ落ちてゾンビはうつ伏せに倒れ込み動かなくなる…そして汚水から放たれる悪臭に思わず顔を顰める
「くそっ…最悪だクッセェなぁッ…!」
汚水の臭いがフェンリルモードで強化された嗅覚を襲う…海水と肉の腐乱臭に頭がチカチカして吐き気がしそうなほどだ、仕方なく嗅覚だけは人間に戻すが『気配察知』と併用する事で高い索敵能力につながっていた嗅覚を潰されるのは地味に痛いし悪臭で集中力が散らされる
「ンだよコレ…フェンリルモード潰しみてえな…!」
海神教信にもフェンリルモードは見られた、だがゾンビは奴らにも襲いかかっていて奴ら自身ゾンビの存在に驚いているから別勢力…
他にフェンリルモードを知ってるのはリラ達くらいのものだが…そこまで思考して気づく。もう1人いる…フェンリルモードを知りながら今こちらと協力関係に無い存在…
「……ッ!!フィレント、テメェ…!」
洞窟前でギルドと海神教信の襲撃を受けた日、ポチはフェンリルモードを使って彼らを撃退した…そしてフィレントはポチがスキルで自由自在に姿や性質を変えられる事を最初に接触に至った砂浜での戦闘からも知っている
「くそ…!あのヘラヘラ人魚…話ややこしくすんなよな…?!」
ここにきて姿をくらませていたフィレントが出てきた理由はまだ分からないがともかく戦況はいきなりの三つ巴、海神教信の本丸に辿り着いても恐らくはフィレントとの戦闘だ
…腹いせに腹に傷をつけたゾンビを海神教信のやつに蹴ってぶつけてやった、悪臭に悶え苦しめチクショウ




