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死ねないポチのおさんぽ日記  作者: 大爆裂エアーコンディショナー
3章 神の理において、君は万物を繋ぐ哀れな博愛主義者となる
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後に喰らえど愛せよ乙姫

静かな波が揺蕩い、浅く砂を濡らしてはその表面を愛で撫でるようにして帰っていく…そんな砂浜で2人の男女は向かい合って言の葉を紡いでいる

とか詩的に表現するような高尚な状況とはとてもじゃないけど言えない。


「そもそも乙女に向かってキショいだなんて失礼でしょう!?」

「うるッせえ!乙女は80年前をついこの前とは形容しねえんだよ!!」

「亜人差別じゃないのそんなの!失礼しちゃうわ!!」

「お前俺が転生者だって知ってんだろアァン?!じゃあ亜人の寿命がどうとかデリカシーがどうとか分かんねえのくらい分かるだろバァーーーーカ!!」

「前世がどうだかなんて知らないし!それにデリカシーはどこで生まれても持っている子は持ってるわよ!!」

「うーーっせ!うっせバーーカ!正論ぶつけやがってこっちは魂喰われた被害者だぞバァーーーーーーーカ!!!」

「バカしかレパートリーが無いのかしら?それじゃあ女の子は口説けないわよボクぅ〜??」

「ねぇよ……口説く予定も、相手も…ねぇよ………ねぇよ。」

「あの、なんか…その、ごめんなさいね…?」

「謝るなよ…!そこに関しては謝るなよォォ…ッ!!」


やばい魂喰われてた瞬間より萎えた…

俺の俺による俺だけを標的とした自己嫌悪オブザ俺ーが開催されて立ち直れない、泣きたい気持ちを堪えながらしゃがみ込む俺を女がガチで申し訳なさそうに慰めてくるがお前も多分デリカシーあんま無いよって言いたい…


「失礼ね、私は相手に合わせてるだけよ?」

「だとしたら距離感の詰め方ど下手くそだよお前、恋愛どころじゃ無いコミュニケーションに難ある」

「全ての恋はコミュニケーションに通じるのよ?」

「お前のは横道逸れて別ルート乗っかってんだよ、文字通り“クう”なよ皿とベッドをイコールで結ぶな」

「私ったら肉食系なの♪」

「肉じゃなくて魂じゃねえか主食」

「細かいところ気にしないで頂戴」

「気にしろよ、恋愛においても命においても細かいところは気にしろよ。何なら恋愛なら一番大事だろ細やかな気遣いは」

「もっと気遣いが欲しいなんて初めて言われたわ」

「そりゃ死人に口はねえだろうよ」


追撃に言い負けてやんのバーカとでも煽ってやりたいところだが会話が出来る相手だとわかったし『絶対天命』でどうにかなるのならこれ以上争う必要もないだろう、それにもうお互いそういう気分でも無さそうだ

アイテムバッグからアーポを取り出して投げ渡す、それをキャッチした女は不思議そうな顔をしてこちらを見たが俺は黙って砂浜からちょっと離れたところにある土手に背を預けて座った


「これを食べてもお腹は膨らまないんだけど?」

「今し方俺の魂食ったもんな?…てか察してんだろ恋愛強者さんよ、こういう時は黙って隣来いよ」

「ふふっ…はいはい、貴方のお話聴かせてほしいの、で合ってるかしら」

「うっせ」


女は俺のすぐ真隣に座った、くっつくくらい近くに来て一瞬驚くがさっさと幅を開けて座り直すとイタズラが上手くいってご満悦といった様子で女はまたクスクスと妖艶に笑った


「あのさぁ…その無駄に色気振り撒くのやめてくんね?シンプルに話しづらい」

「あら色気を感じてくれてたの?嬉しい」

「あぁーもう話しづれぇーーーッ!!」

「貴方そういう反応するなら他の子にも揶揄われてるんじゃない?」

「うるせえよ!!揶揄われてねえよ!!

ハァ〜…!…なぁお前、ってさ…人魚の噂?に出てくる人魚ってことで認識であってんのか…?」


このままじゃペースを乱され続けて本題に入れない、そう思った俺は逃げるように無理やり本題を切り出した


「どうかしら…きっと噂の一部は私だけれど、でもそれ以外は私と同じセイレーン達の事でもあると思うの」

「そりゃそうか、全部が全部お前の仕業な訳ないよな…」

「——どうして欲しい?」


女のその言葉に開きかけた口が閉じる


「愛した相手の事はね、なんとなくだけれど分かるの…きっと魂を食べてしまうせいね。だから貴方が私に何をしてほしいのか、何を求めて探していたのかは何となくだけど分かるのよ?」

「…………。」

「助けてほしい?」

「…本当に餌として見てるのを愛してるって言葉にすり替えてるわけじゃないんだな」

「えぇもちろん、今も心から貴方に惹かれているし、過去に愛してきた彼らの事だって心の奥底に(うず)めただけで今も愛しているし、時には彼等を思い出しすような日もあるわ

…私って意外と繊細なのよ?」」


意識的に逸らして海を眺めていた視線はいつの間にか自然と彼女の方を向いていて、俺の視線の先にはただこっちを食うためだけに精神干渉系の何かを仕掛けてきたとは思えない…少し憂いを帯びた笑みを浮かべた人魚がいた


「…名前、聞いてなかった」


俺の問いかけに彼女は小さく「え?」と疑問の声を漏らし、そして妖艶なものでも憂いを帯びたものでもないただの微笑みをたたえた


「フィレントよ、亜人種セイレーンのフィレント…貴方のお名前も教えてくれる?」

「は?いや名前わかるだろ…?さっきの魂食ったからどうたらってやつで」

「もちろん分かってる…でも貴方の口から聞くから価値があるの。貴方が私の中の思い出になって、会いたくても会えない…それなのに貴方の記憶が詰まったメッセージボトルに、ただ無機質なラベルが貼ってあるだけじゃ味気ないもの」


そう言ってまた彼女は寂しそうな表情をする、彼女は恋心を狩りとは認識していないみたいだけど迎える結果自体はセイレーン種の狩りと代わりはしない。むしろ本気で愛情を餌になる相手に向けてしまう彼女の方が辛いだろう…愛するために出会い、そして自分が生きるために愛を殺すのだから


「……ポチだよ、人間種…にしてはぐちゃ混ぜなただのポチだ」

「ふふっ、ありがとう…やっぱり私が惹かれる人なだけあるわ、ちゃんと私の心を満たしてくれる」

「たかが名前だろ…大袈裟な」

「愛の前には誰だって大袈裟で、臆病で、身勝手になるものなのよ?」

「……あぁーー!やりづらい!」


本当にやりづらい。いっそ殴って言う事聞かせるくらいの方がシンプルで良かった、その方が本当に…絶対ラクだ


「助けて、とは言いづらい?」

「どうにか出来んのかよ」

「分からないわ…奪うばかりで与えるやり方を知らないもの」

「…そういうとこがやりづれえんだよ」

「貴方のそういう所が私は好きよ?

複雑なのに真っ直ぐで、聡いのに少し抜けてて、優しくて…だけど自分を優しいと認めるのを嫌がってる…

——そんな貴方の魂の形に惹かれたの」

「買い被りすぎだ、そういう主人公な気質は持ち合わせてねえよ」


俺の言葉に「あら、そうかしら」と小さく笑う彼女に対する敵意はもう沸いてこない、『絶対天命』でリセットされてからは目を合わせるのを避けているおかげか精神干渉を受けている時の気持ち悪い独特な感覚もしない…まぁ目を合わせなきゃセーフなのかは知らないけど


「協力するわよ?愛する人が困っているんだもの」

「……あーもうわかったよ負けたよ!…俺には無理だったんだ、なんかこう…上手いこと頼むよ、フィレント」

「えぇ、任せてダーリン?」

「うわキショ、やっぱキショいわ!やめろやめろっ」

「照れ隠ししなくたっていいじゃない、貴方と私の仲でしょ?」

「食料と捕食者じゃねえか」

「ダーリンとハニーよ!失礼しちゃう」

「ダーリンじゃねえ!」


その時だ、ジャリ…と砂を踏む音が聞こえてそっちを向く、するとそこにはエヴェリーナ先輩が不機嫌そうな顔で俺を見ていた


「あっ先輩」

「…良い御身分だね後輩クン、ボクが追い出したとはいえ女を引っ掛けてるのかい?」

「あらダーリン、お知り合い?」

「あっバカお前ややこしくなるだろそれ…!」

「へぇ〜!“ダーリン”と来たかっ!なんともまぁ…仲を深めていらっしゃるようで結構…!」


ブチギレている…!あの割とクール寄りな性格ではあると思える程度にはクールな先輩が皮肉とかじゃなくあからさまに…!!

これはマズイ、何とか誤解を解かねば!!


「違うんスよ先輩!こいつ!こいつ人魚!オオツキリンカをどうにか出来る希望っ!ナンパじゃないです!」

「何?」

「人魚じゃなくてセイレーンよ、でもダーリンの言う通り…私達愛し合った仲ではあるけれどまだ彼は私を愛してくれてはいないのよ…」

「ほぉ〜〜〜???」

「お前のキショい“性癖”人に説明する時ガチで厄介なんだけど?!てかわざとやってるよなぁ?それなぁ!?」

「特殊なプレイでの行為に及んでおきながら責任から逃れようとする最低な後輩クンだとは思わなかったよさようなら」

「違う違う違う!特殊なプレイとかしてないし行為にも及んでない!一方的に好意押し付けられて普通に殺されたんだって!!」

「キミ…いくら神のスキルで死なないからってそれは……」

「引かないで?!1から8くらいまでは誤解なんだって先輩!!」

「それはまた…随分と濃密な“2”を過ごしたんだね、この短時間に。」

「2はそこを指した2じゃねえーーー!!!」


それからはツッコミ半分怒鳴り半分に説明をしてやっと納得してくれた…

先輩が俺に対して怒りを抱くのは仕方ないと思ってる、だけどこうして代案のために奔走した身としては誤解されたままなのは流石に不服だった


「というかただ殺されただけとはいえ俺もコイツの被害者なんですよ!?協力してくれるらしいし案外悪いやつでもなさそうだから一応和解しましたけど!!」

「落ち着け後輩クン、誤解したボクも悪かったが殺されてるのは“だけ”で済ませていい被害じゃないよ」


それはそう。

フィレントは俺の魂を食ったおかげで先輩のこともオオツキリンカのことも色々な事情も把握してるようで、俺と先輩を交互にチラチラと見つめては微笑みながら茶々を入れるタイミングを伺っているようだ

だがあんまり茶々を入れられても困る、オオツキリンカが手遅れになったらそれこそ元も子もない


「ともかく!フィレントに一度オオツキリンカを診てもらいましょう先輩」

「…いや、少し待ってくれ後輩クン」

「えっ?」


予想外の先輩からの待ったに驚く、そんな俺の驚きをよそに先輩はずんずんとフィレントに近づいて睨みつけた

身長差のせいで小柄な先輩がフィレントを見上げる形になっていて正直迫力はあまり無い、しかも相手がフィレントだから尚更ビビるわけがない


「単刀直入に聞く、キミはリンカを治せるのかい?」

「それはまだ分からないわ。彼の魂を覗いた限りでは力になれるかもしれないと思った…その程度に思って頂戴?」

「…では次の質問だ。町で資料を読んだ、セイレーン種は亜人差別の被害者なようだね…それを踏まえて失礼を承知で言わせてもらうがボクはキミを信用しきれないでいる、キミがリンカを助けるフリをして魂を狙う可能性だってあるからね」

「ええ、可能でしょうね。“食べるだけ”ならできる種族なのは否定しない、不味いから女の子の魂は食べないけれど」

「そこがキミを信用できない一番の懸念点なんだよ、キミは食べられないじゃなくて不味いから食べないとしか言わない…ボクはキミという生き物について無知であるが故にその“やろうと思えば出来る”を警戒せざるを得ないんだ」


考えが甘かったと痛感する、先輩の懸念ももっともな話だ

フィレントは話してみればそこまで悪いやつではなかった、だけど彼女は人の魂を食べてきた存在で今知っただけだが亜人差別とやらの被害を受けている立場らしい…

ぶっちゃけた話、俺だってまだ彼女の言う“愛する”というのに対しても胸を張って理解したとは言えないし、感情的な面を加味してもそれは狩りと何が違うのか?と思ってしまう部分はまだ残っている


「なぁセイレーン…!助けを乞う立場にありながら不躾で申し訳ないが、ボクの友達の魂を一欠片でも齧ってみろ…!必ずボクはキミという存在を調べ上げ、探究し、そしてどうあろうとキミだけは確実に嬲り殺す事が可能なキミのためだけの魔道具を作り出してやる…!!」


迫力は無い?そんなわけがなかった

ただ1人の親友のためだけに人生の決して短くはない期間を費やした人が本気で焦っているんだ…その鬼気迫る狂気にはそこらの刃物なんかよりも余程鋭く、そして血生臭い執念と友愛がドロドロと燃え盛っている


「…………。」


しかしフィレントは何も返さない…こちらを揶揄うような艶のある微笑みも、愛に溺れて飛沫をあげながらもこちらだけを見つめていた不気味な笑みも消し去ってしまったかのような無の表情で先輩の瞳の奥をじっと見つめていた


「何かのスキル…『魅了』あたりかな?かけたいのなら意味は無いよ。それ対策の魔道具は仕込んでいるし、仮にかけられたとしても強いショックでその手のスキルが解除出来るのもボクは知っているし対抗策がある」

「魅了なんて…貴女へ使う必要性はないでしょう?」

「あぁそうかい、ではジロジロと瞳の奥底を観測するのをやめてボクの質問に答えてもらおうか?」

「せっかちでコワイ子ね…信じてほしい、と言ったら貴女は私を信じられる?」

「もちろん答えはふざけるな、だね」

「なら何を言っても同じこと。私はただ愛する彼のやりたい事に協力するのは構わないというだけだもの」

「随分と綺麗事を吐くじゃないか、挑発のつもりかい?」

「私はただやりたい事をやるだけよ、それが貴女の目に挑発として映るなら失礼したわ」


こっわ女の口喧嘩。野郎同士の罵り合いとは違ってなんかこう、心がキュッってなるわこれ…早く終わってくんねえかな

そう思って事を見守っていた俺に先輩は突然向き直ると…


「あっそうだ後輩クン先に言っておくゴメンね」


おもむろに俺の腹にスタンガンらしきものを押し当てて起動した


「ァバババッ?!っでぇッ!!何やってんだお前ぇ!?」

「いや魅了スキルかけられてたら困るなぁと、ふと思ってね」

「もっと他になんかなかった?!痛くないだけで痺れたりとかびっくりとかはするんだよアホ!!」

「アホとはなんだアホとは、キミよりボクの方が倍は賢い」

「その2倍賢い頭でもうちょい穏便なやり方思いつかんかったんかお前ェ???」


真剣な会話の途中で急に声をかけられ何事かと思ったら急にスタンガンみたいなので電撃を流される…こんなの誰だって口調を荒っぽくするだろう、だがそんな怒っている俺に対して先輩はすっとぼけた顔で当たり前のように言葉を返してくるのが余計に腹が立つ

だけど同時にさっきまでのドロドロと燃え上がるみたいな恐ろしい目をしていたのが嘘みたいにいつも通りの表情に戻ってくれた先輩を見て少しだけ安堵した


「ホンっっトに俺の周りの奴は賢くなればなるほど碌な奴がいねえ!」

「知能に差がありすぎると理解が出来なくなるらしいからね」

「バカにしてんのかテメェ!?」

「バカをバカにしたって意味がないだろう、ゴブリンにお前はゴブリンだってわざわざ言うのかい?」

「うがーーっ!!」


チヒロ…俺お前に会いたいよ…

会話にセクシーとか皮肉混ぜ込まないと喋れねえ奴しか今居ねえんだ。リラとかエーヤスも割とからかってくるタイプだし、お前みたいにただまっすぐニコニコお喋りしてくれる良い子が恋しい…


「とまぁ、さっきのはジョークだよフィレント」

「そう?ならよかった」

「あぁ、突然突っかかってしまってすまなかったね。リンカのところへ案内するよ、どうかよろしく頼む」


そう言ってくるりと反転して洞窟へと歩き出した先輩に俺とフィレントはついて行く…朝追い出された洞窟には出来るだけ早く帰れるように頑張ろうとは思っていたが、それにしたってまさかその日のうちに帰って来れるとは思ってなかった

洞窟の入り口を開く直前、先輩はこっちに振り返る事なく「あぁそうだ!」と不意に声を上げた


「フィレント、ボクはあれをジョークだと言ったね?」

「えぇそうね、安心したわ?」

「だがボクは嘘やハッタリは言っていない、少しでも変な動きを見せてみろ…冗談じゃ済まさないから。」


そう言いながら先輩はさっきのスタンガンみたいな魔道具を取り出してバチバチと電撃を散らした、明らかな脅しであるそれにフィレントは不思議そうな顔をしながら先輩の言葉を数度噛み砕く様に思考し、そして結局不思議そうな顔で口を開いた


「わかってるわよ…?そんな何度も確認しなくても変な事しないわ」

「だが食べることは出来るとキミが言ったんだよフィレント」

「ただ真実を提示しただけよ、ほんとうに女の子の魂は美味しくないもの…」


なんかもう収集付かねえなコレ

先輩はオオツキリンカを助けるために長い月日の中ですっかり人間?不審になってる上に自分も手段を選ばなかったせいで追い詰められた現状にあまりにも余裕がない、そのせいで頼みの綱であるフィレントを信用しきれないでいる

——だけどこれ以上ゴタゴタされるのはもう面倒くさくなってきた


「あのさぁ…いい加減にしろよ…」


急に口を挟んだ俺に2人分の視線が突き刺さった、だがいい加減に話を進めるべきだろう


「先輩は今からフィレントに助けてもらう立場ですよね?失敗しちゃった俺が言うのは先輩的に不愉快かもしれませんけどハッキリ言ってオオツキリンカの容体を考えても魂に干渉する術を持ってるフィレントが最後の希望で、手段を選んでる暇が無いのは先輩が一番理解してるでしょう?」

「し、しかし!……信用ならないんだ、彼女がセイレーンだからじゃない…もう頭がぐちゃぐちゃなんだ…!」

「それはわかります、俺も失敗した立場ですからそこを強く責める気はありません。でも助けてくれるって相手に必要以上に攻撃的な態度を取って…それを理由に本当に敵対したらどうするんです?」

「それは!!…………そう、だね…すまなかった、フィレント…今度こそ謝罪させてもらうよ…」

「え、えぇ、私は最初から気にしていないわ?」


理詰めに屈した先輩を見てフィレントは少し引き気味ながらも謝罪を受け入れる…といっても最初から気にしていなかったの自体は本心だと思う


「…で、フィレント!」

「はい?」

「お前もお前でヘラヘラニヤニヤと胡散臭い感じ出したり何かしてやってもいいんだぜグヘヘみたいな雰囲気出すな!」

「そんな賊みたいな笑いかたしてないわ!」

「俺らにはそう映ってんだよ少なくとも!」

「えっ……?…そ、そんな…そんな事言われても…」

「え?……(なんか本気で困って…というか参ってきてるよなこれは…)」


そう言って本気で困った顔をするフィレントに俺は違和感を抱いて、そこでやっと自分が彼女を根本的に勘違いしているんじゃないかと思い至った

今まで俺はフィレントが愛してるって相手を食うのは愛情表現か何かだと解釈してた、でもコレは多分違うんだ

周囲からすればそれが滅茶苦茶にしか映らないというだけできっとロジックだとか脈絡みたいなものは本人の中では繋がっているのかもしれない


「その、ごめんなさい…?貴方達が怖がっていたり嫌がっているのは理解しているのよ?」


なんか知らんけど愛する奴の魂を食う、なんで?と聞かれてもそれが当たり前なんだから“なんでって何が?”としか返せない

『愛してるから食う、知らんけど』

意味があるからそうしてるんじゃない、何となくそうしてるだけで意味どころか理由も無くて、突き詰めてこじつけて行けば理由も意味もあるのかもしれないがそこまで深く考えてのことじゃあない

『なんとなくナイフとフォークのうちフォークから先に握る癖がある』そう考えるといちいち考えてやってる事じゃないんだから何故突っかかられるのか理解不能だろうし、逆にフィレントからすれば俺らはずっとたかがフォークを先に持った程度の事に「何故そうするのか?」「なんでそんなことしたの?」と鼻息荒く突っかかってくる変な奴らに映っていたのかもしれない

そう思うと途端に自分の勘違いが申し訳なくなってきた、そりゃ萎えてもくるだろうし精神的に疲れるだろう、ずっと笑っていたのも愛想笑いだった可能性まで出てきた


「…ご、ごめん」

「私としては謝られても困るのだけれど…」

「あぁ、そうだよな…うーん……」


でもこのズレはきっとそう簡単には解消できないだろう、他人の当たり前というものほど完璧な理解が難しいものはない、結局すべては『かもしれない』だらけのままだろう

俺はきっと“解釈しようと必死になり過ぎた”んだ、投げられたボールを素直にキャッチする…ただそのままを受け止めるという姿勢が足りていなかった

初めは愛してる人を食うのは愛情表現だと思ってた、でもその解釈は違っていて…というかそもそもがわざわざ解釈するようなもんじゃなかった


「よし!色々済んだらもう一回やるよ、俺の魂」

「え……?」

「あ!ダーリンにはならねえぞ!?ただもう一回くれてやるよ…完璧に理解とかはまだ無理そうだけど、とにかく受け止めるというか、まぁとりあえずやる!」


フィレントに害意が無いのは俺が勝手にそう受け止めた、だからこそ俺はただ誠意を示す


「いいの…?貴方にとっては…その、困る事?なんでしょう?」

「あぁ構わん、かかってこい。その代わり俺がここにいる間だけでいいから食うのは俺で我慢してくれ」

「わ、わかったわ…?」


100%の理解はまだ出来ていない、ただ害意が無いフィレントに対して俺の示せる精一杯の誠意はコレだと思ったんだ

…だけど問題は先輩がこのどうにもならないフィレント個人と俺らとのズレを理解ではなく受け止める事が出来るかだ

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