カン盗リーロード
ボス部屋奥のアイテムバッグを手に入れた部屋を調べたら何やら怪しい魔法陣があった、普通ならば警戒するところだが現代人な俺はこれが何か理解している
「はぁーっ!なんか外に出たの久しぶりって感じがすんなぁーっ!!」
ぐいーっと伸びをしながら太陽の光を浴びる
あの怪しい魔法陣は予想通り…いやむしろテンプレ通り入口へのワープゲートだった
思えばそんなに長い時間ダンジョンの中に居たわけじゃないが、気分的なもので言えばもはや老け込んだレベルで濃密な時間を過ごしたと思う…多分
「その様子からして、ダンジョンで得るものはあったようだな」
「おう!なんかバケモノになった気分だぜ、親父」
「そいつはいい!名実ともにお前は魔物の…俺の息子だな!はっはっは!!」
そう言って豪快に笑う目の前の“ハイウルフ”
俺は一応は人間で、こいつの本当の子供の腹を食い破って生き残ったエサで、そして人間なのに魔物用のスキルを身につけたゲテモノだ
息子という関係もお互いにそう思っているだけで血の繋がりも無ければ種族すら違う、いつもなら親父の豪快な笑い声に何かしらリアクションをしていた…でもダンジョンで改めて自身がこの世界にとっての異物であると自覚した今、俺はただ愛想笑いを浮かべることしかできなかった
「…なんて顔してんだ、胸を張りな」
前世の親を思い出してしまうほどに優しい声だった、だからこそ今はそんな親父の声を聞きたくなかった。四足歩行でこちらへと歩み寄り二足歩行の俺の顔を覗き込むハイウルフの巨体が親父と俺はどこまでも違う生物なんだぞと見せつけているようで不愉快だった
俺のことを慰めるために頬を舐めるその行為が、人間と獣の差であると感じてしまう自分自身が不快で仕方ない
「お前が色々考えてるのは何となくわかってたよ…俺のことを親だとは思ってない事もな」
「……すまない」
「謝ることじゃないさ、ただ悲しくはある」
本当に悲しそうな声だった
当たり前だ、餌ではなく息子と思いこの歳まで育てあげ、独り立ちの餞別としてダンジョンという経験も与え、そして無事に帰って来たと思えばこんな態度なのだから
「お前は人間で、俺はハイウルフだ…種族が違うしもちろん血も繋がっていない。普通ならお前は俺の餌で、俺はお前の獲物だ」
「…あぁ」
「でもな、家族ってもんにそんな事は関係ないと俺は思っている」
訳がわからなかった、そこに親父の言葉の真意が映っているような気がして俺は親父の目を見つめた
「親と子なんてもんはな…偶然血が繋がってて、偶然種族が一緒で、偶然家族って関係がそこにあるだけなんだ」
「…………」
「全部“偶然”でしかないのなら、仮に血が繋がってなかったり種族が違くても…誰かのことを家族だって心から思えるなら誰だって誰とだって家族にはなれるんだと俺は考えている…」
滅茶苦茶な話だと思った、親父の言っていることは精神論ですらないただの個人的な持論だ
だが親父はしっかりと俺の目を見つめて…でもすごく優しい視線で、決して目を逸らしはしなかった
「俺はお前を心から息子だと想ってる、だから俺にとってお前は家族なんだ……だから、とても悲しい…」
別に前世で親と不仲だった訳じゃない
別に前世で誰かとの関係に飢えていた訳じゃない
別に前世でとびきり不幸だった訳じゃない
それでも親父の言葉に自然と涙が溢れた
「ごめん…ごめん親父……!俺、今からでも親父のことを“親父”っておもってもいいかなぁ…!!」
「はっはっは!…何言ってんだ、ここでダメだって言うならお前の親父やってねぇさ」
森から出ようと思ったのは、正直なところ人が恋しかったからだ
ハイウルフの事を親と思い込む人間っていう状況に、自分の中の価値観とのズレを感じていたからだ
そして何より、親父の愛情を感じるほどに自己嫌悪に苛まれていたからだった
親父の首へ抱きついて声を出して泣いた、転生前と合わせりゃおっさんもいいところな俺が泣くのはみっともないかもしれないが…それでも溢れてくる感情を抑え込めなかった
「ごめん親父…ッ!俺、俺それでも森から出たいんだ!」
「あぁ、わかってるさ」
「親父と一緒にいるの、今はもう嫌なわけじゃないんだ!」
「おいおいおい、前は俺と居るのが嫌だったのか?……なんて、旅立つ息子にしょうもない意地悪言ってちゃダメだよな」
感情を思うがままに、押し寄せて来るままに吐き出した…これは前世では誰にも、両親にすらもやった事がなかった
ひとしきり泣いて満足した、少し気恥ずかしいところはあった
だが精神は肉体に引っ張られるものらしいから、これもある意味では年相応と言えるのかもしれない
いろんな感情がぐるんぐるんと渦巻いて鼻を鳴らす俺を親父は前足の片方を上げて抱きしめてくれた
そして親父との最後の夜を過ごして…翌朝、俺は巣を出発する
「もう行くのか、まぁせいぜい大活躍して俺の自慢の息子は本当の本当に凄いヤツなんだって森の奴らに自慢させてくれ」
「おいおい親父、自慢って2回言ってんぞ?というか俺の大活躍って多分魔物からしたら大惨事だろ?」
「お?それもそうか!まぁそんくらい自慢の息子ってこった!」
アッハッハ!と豪快に笑う親父の目の端で何かがキラリと太陽を反射するのが見える、しかし今わざわざそれに触れるほど俺は野暮でも鈍感でもない
俺も親父と一緒に豪快に笑って、お互いに旅立つ覚悟と送り出す覚悟が決まって笑うのをやめる
「…行ってきな、ポチ」
「おう!行ってきますっ!!」
親父みたいに豪快な笑顔を浮かべて返事をする、そして俺は街を目指して駆け出した
森の木々の隙間を縫うように走り抜け、10分ほど一直線に進んでいると草が刈られて整備された恐らく街道を見つけた
当たり前だがアスファルトで舗装されてるわけもなく、本当にファンタジーなゲームやアニメで見る雑草が生えにくいようにしっかりと土が固められた質素な道だった
「どっちがどこに繋がってんのかわかんねえけど…人が居る場所には繋がってるよな、これ」
森育ちだから言い切ってしまうが魔物や獣は道をこんな風に整備する必要なんかない、何せ森林生まれ森林育ち悪路の場所はだいたい友達なんだからな
つまりこの道は人間が整備して、そして馬車か徒歩かはわからんが交通のために使っている道路で確定だろう
そして俺は道に沿って村か街を目指して……行こうとは思わない、というか無理だ
「いくらファンタジーな世界といえど、流石に魔物が着てたのを剥ぎ取った布を繋ぎ合わせただけの激クサ継ぎ接ぎ蛮族ファッションはヤバいよなぁ…」
そう、ここまで黙っていたがファンタジー世界でターザン生活をしてた俺はまともな服を持っていない
流石にナニとは言わないがぶらんぶらんさせながら森を駆け回れるほど無邪気ではなかった俺は倒した魔物から毛皮や鱗を剥ぎ取り木の蔓や魔物の吐く糸で繋ぎ合わせて着ていたのだ、もちろん服飾スキルも無ければ狩人でもない、知識もゼロな俺の作った服は何度洗っても血生臭いし何よりみすぼらしい
マントとかファンタジーで奴隷が着てるようなボロ布服でも作れよって?はっはっはご冗談を、森で取れる布がどんなのか知ってるかい?
「仕方ねえじゃん!オークの腰布とかヤダよ!オーク様のご立派ァ!な“アレ”が真後ろでぶらんぶらんしてた布なんて現代日本人の感覚じゃ無理だって!!それならまだ血生臭い生皮とか鱗の方がマシだったわ!!!」
生まれてから一度も風呂に入ってない他人の脱ぎたてトランクスを頭から被れるか?無理だろ?!そういうことだよッ!!!!
いや世の中にはいろんな趣味趣向の方々が…いやいやいや少なくとも俺は無理、無理寄りの無理とかじゃない。無理ど真ん中の無理、無理の中の無理、無理オブ無理
ゴブリンキングから色々と剥ぎ取ったがもちろん服のサイズが合うわけもない、今にして思えば加工すれば良かったとか『肉体操作(魔)』で合う体格になれよとか色々思ったけど今更遅い
「しゃーない、引き返すかぁ…」
ガックリと肩を落として森へと帰っていく悲しげな蛮族の背中は、映画ならきっと全米がちょっとウケるくらいには悲壮感が漂ってたと思う
「…………ぁぁ!助けてぇぇぇ……!」
そんな俺の耳に遠くから女の子の悲鳴が届いて思わず道路を振り返る、テンプレ通りに考えるなら馬車が盗賊的な奴らに襲われてる系をイケメンで最強な主人公が颯爽と助けるイベントからの女の子が実はお姫様とか領主の娘で主人公に惚れちゃうみたいなパターンのやつだ
「…いやまぁ、助けんけど。」
そう、俺は助けない
テンプレを避けてるとかビビってるとかじゃない…いやビビってはいるごめん見栄張った
盗賊に勝てないからビビってるとかじゃない、てかダンジョンのゴブリンキングより強い盗賊がいたら多分ソイツは国のキチンとした機関が相手するやつだ。助けた相手がどんな立場であろうとも恐らくは村か街に連れて行ってくれるだろう…だがそこでもしもスキルを見る何かしらの設備、あるいは人物がいたらどうなるか?
俺のスキルの正体は訳わからないだろうが、少なくとも(魔)なんて付いたスキルを持ってるやつを俺は信用しない。というか下手すると捕まって研究資料行きだってありえる
ネット小説にある『目立ちたくない系主人公』は自己管理が甘過ぎる、てかむしろ目立ちたくないとか言いつつ大暴れするのなんでなん?まぁ悪いのは彼らじゃなくてそれは作者がそういう展開にしようと考えるからなんだが、俺からしたら今はネット小説やアニメじゃなくて文字通りの死活問題だ
「………でも色々欲しいから現場には行く。」
こういうのって漁夫の利って言うんだったか?俺も今更生物の死を見てナイーブになるほど初心じゃないし、それがたとえ人間の死であろうともそれは変わらない。というか襲われてる側でも盗賊側でもどっちでもいいから生き残った方を襲って服とか金銭とか装備を横取りするつもりだ
モラルも良心も森で生きてあちこちで死んでるうちに失くした、恩義が無いなら等しく餌だと思わねば野生は生きられないのだ
「うわエッグぅ……」
森に隠れながら現場に行ってみれば、そこは何とも地獄絵図だった
負けたのは馬車組のようで何人かの死体が転がり、盗賊に積荷を荒らされ…そしてなんとも下衆なことに人質が面白半分に痛めつけられている最中だった
盗賊のお頭っぽいやつが茶髪の女の子の髪の毛を掴んでゲラゲラと笑う、近くにいる同じく茶髪のおじさんが悔しさと恐怖の入り混じった表情で女の子へと手を伸ばしている
「娼婦か娘か知らねえが可愛い嬢ちゃんを連れてんじゃねえか!」
「イヤッ!やめてください!離してぇ!!」
「娘を離してくれ!私のことはどうしてくれてもいい!だからどうか娘だけは!!」
「それで許すヤツは盗賊なんざやってねぇよ!!」
その言葉に他の盗賊たちはゲラゲラと笑った、正直俺もそりゃそうだと内心頷いてしまった。権利も生命も脅かすのが目的で動いてる相手に命乞いとかお願いとかしてそれで止まってくれるならそもそも盗賊稼業なんかするわけがない
正直馬車組の方々とか殺されて転がってる護衛か従者の方々はめちゃくちゃ可哀想だなと思うところはある…だがそれはそれ、これはこれだ
そして俺は静かに『肉体操作(魔)』を発動して盗賊たちを仕留める準備を始めた
「じゃあそろそろ野郎連中はこの世とおさらば、女子供は人としての生活からおさらばの時間と行こうか?」
「お頭ァ!上手い事言えてねぇっすよ!」
「うるせえ!オメエが先に首と胴体おさらばしてえかぁ〜?!ガハハハハハ!!!」
何が愉快なのか豪快に笑い合う盗賊たち…同じ豪快な笑いでもこんなにも印象の違いがあるもんなのかともはや逆に感心してしまった
淡々と準備しながら様子を伺う、普通の主人公様たちみたいに一般人まで助けるとなると大変そうだが、そんなの気にしない程度には倫理観のぶっ壊れた俺は多分結構ラクなほうだ
「……仕込みは完了、あとは動作確認だな」
やったことは簡単で、ダンジョンの魔物から剥ぎ取ったナイフにアイテムバッグから出した肉塊を巻き付けただけだ
肉が俺の体から離れていてもスキルの判定的にOKなら動くのを見てこれを思いついた、『飛行』と『身軽』も一応発動してナイフに集中しながら『肉体操作(魔)』を発動すると…想定通りナイフはふわりと浮かび上がって自在に空中を滑った
「よし…狩りの時間だ」




