うそ…俺の人生ちゅらすぎ…!?
ある日俺はトラックに轢かれそうになっている女の子を助けようとして撥ねられた先で知らない女性を刺そうとしていた通り魔のナイフに背中からズブリと音を立てて着地したあと、突然心臓発作を起こして苦しみ悶えているところを突如現れた魔法陣に照らされながら死んだ…
そしてふわふわと浮かんでいるような不思議な感覚に目を覚ますと…上下左右の感覚が狂うほど真っ白な空間で、ヘラヘラと笑う優しそうなお爺さんと見つめ合っていた
「いやぁすまんのぉ手違いじゃ〜!」
「何をどうミスったら転生モノのテンプレを網羅しながら人を殺せるんだよこのジジイ!」
「お主には詫びとして何でも好きなスキルを与えよう」
「そこもテンプレかよ!ってか話聞けよ!!」
「そうじゃのう…オススメは不老不死じゃ!」
「会話をしてくれよ!てか不老不死なんてだいたい碌な事にならねえじゃねえか!寿命が来るまで死なないとかにしてくれよ!!」
ニヤリ、とお爺さんが笑った気がした
今思えばテンプレ通りあのお爺さんはきっと神様とかそういうすごい存在で…おそらく俺はテンプレ通りそういう上位存在の暇つぶしのために転生させられ…
そして多分、元からこのスキルを授けられる予定だったんだ
「良かろう、ではお主のスキルは『絶対天命』…100年の時を過ごすまで不老不死じゃ」
「話聞こえてるなら会話を……」
「んじゃ!達者での〜」
足元に突如穴が開いて俺は落下した…
どこまでもテンプレを強引に詰め込んだような俺の転生モノは、ずいぶん強引にスタートした
「せい!はぁっ!おりゃぁ!!」
なんだかんだと赤ん坊としてこのテンプレな異世界へと転生してから15年…俺は1人、ゴブリンから盗んだボロボロの剣を森で振っている
「まさか『絶対天命』があんなマヌケな形でバレて、しかも気味悪がられて捨てられるとはなぁ…」
俺は良く言えば自由の身、悪く言えば捨てられてしまった
というのもある日こちらの母親が赤ん坊の俺を抱き上げた時、うっかり手を滑らせて頭から落としたことが原因だ
てっきり俺は天命…つまりは俺の人生においての運命的な死が来るまではなんだかんだ死なない的なスキルだと思っていたのだが、びっくりな事にあっさりと頭から落ちてある日俺は死んだのだ…
…だがそこからが我ながらヤバい
「な、何よこれ…どうなってるの…?!」
「ォ…ォゲ…グギャゲォ……コカッ……!」
スキル『絶対天命』は100年間生かされる運命にあるスキルではない…100年経つまでは何があっても死なせてもらえない呪いのスキルだったのだ
おかしな方向に身体が折れ曲がった赤ちゃんが目の前で異音を口から発しながらずるりずるりと元通りに復元されて蘇る…そんな光景見たら誰だってバケモノだと思うだろうしビビり散らかす、俺だってビビるしチビるし実際夢に見た日はちょっと出た
そんなこんなで森に捨てられた俺はこうして
時に魔物に食われて腹を突き破りながら復元され…
時に雨ざらしの末に病死し…
時に魔物に食われて腹を食い破りながら復元され…
そして時に魔物に拾われて生き延びてきた
「おいポチ、帰るぞ」
「親父!」
木々の隙間から現れた大きなオオカミ…もとい『親父』ことハイウルフが現れた、ハイエルフみたいでややこしい響きだがどうやら高位のウルフ種ということらしい
「それだけ鍛錬に励んでも剣士のスキルが出ないあたり、ポチはよっぽど適性が無かったようだな」
「うぐっ…気にしてんだから言うなよ、てか頑張り続けたらいつか解放されるかもだろ!」
「はっはっは!ウルフ種が死ぬほど頑張ってもバード種の『飛行』は得られないだろうよ、スキルとはそういうものだ」
彼が俺を拾ったのは我が子のエサとしてだった
まぁ全員俺が体内から食ったわけだが…食い破った腹の外でこちらを凝視していたハイウルフと目があった時は死ねもしないのに死を覚悟したもんだ
だが意外な事にそんな俺をハイウルフさんはたいそう気に入ったらしく、俺の息子になれと言われて生き残るためにも二つ返事でハイウルフの息子となり…そして俺はこの世でポチという名前をもらった
まぁ正直このネーミングにはかなり複雑な心境だが背に腹はかえられない…まぁ背も腹も食い破られるよりマシだ
「この世に生まれてから早くも15年かぁ…」
15年、平和な日本では当たり前のように過ごしたざっくり5500日くらいの年月はこの世界ではあっという間であり、そして当たり前のように死にまくった
ある日森の中、クマさんに出会い首をへし折られ
ある日森の中、オオカミさんに噛みつかれハラワタを放り出して文字通り出血大サービスをして
ある日空の上、怪鳥に連れ去られたあと投げ捨てられて大地でミンチになった
よく生きてたな俺、いやちゃんと毎回死んでるけど
「親父〜俺そろそろ人里に降りようと思うんだよね」
「おうそうか、気をつけてな」
「はいよ〜…ってもうちょい俺の存在惜しんでくれない?!仮にも息子なんだが?!」
「はっはっは!ならば餞別だ、人里に降りる前にこの森にあるダンジョンへ連れてってやるからついて来い」
ダンジョンか、この世界にはあると思っていたが本当にあるとは…
そして親父に連れられるまま、俺は森の中を進んでいき…不自然なまでに人工的な両開きの扉がある崖に連れてきてもらった
「おぉ…!なるほど、これはまさにダンジョンって感じだな…」
「なんだ、ダンジョンを見たことがあったのか?」
「あぁいや、見たことがあるというか…知ってたというか…?」
「うん?…まぁ何でもいいさ。どうする、挑戦してから行くか?危険な場所だからな、場所だけ覚えて後から来るのもいいだろう」
少し考えてみる、どうせ俺は死ねないんだからダンジョンの最大のリスクである死は関係ない…だが中で何を得られるのかは不明だ
もしかしたら何回か死んで宝箱を開けたら出てきたのは矢が5本なんてこともあり得る、むしろ下手すると宝箱は空っぽな可能性もあるのだ
「よし…ダンジョン、入るよ」
「おうそうか、気をつけてな」
「いやだから淡白なんだって!なんかこう…ちょっとは心配とかさぁ!?」
「何を言ってるんだ、このダンジョンに出るのはゴブリンかスケルトンだけだ、お前の実力ならば死ぬ方が難しい……というかお前は死なないだろう?」
「うん、そりゃね?そうなんだけど…なんだかなぁ〜…」
頭をぽりぽりとかきながら釈然としない気持ちのままダンジョンの扉を開ける、真っ暗かと思ったが壁には光る石が等間隔に設置されていて明るかった…前世のトンネルそのまんまって感じがして少し懐かしくなる
警戒しながらもさっさと前に進むと途中で分かれ道にぶつかった、そりゃそうだ一本道のダンジョンなんてつまらないどころの話じゃない
「さて…右からは気配が3つ待ち伏せしてるわけだが、石でも投げたら出てきてくれるか…?」
この世界には俺がもらった『絶対天命』以外のスキルももちろん存在している。スキルに適性がある生物が特定の条件を満たせばスキルが解放され、以降はそのスキルが成長する条件を満たせばそのスキルが進化していくシステムだ
通路の先の待ち伏せを察知したのは個人的には異世界転生モノでは御用達だと思うスキル、『気配察知』…開放条件は「敵意ある生物の気配を累計24時間察知する」こと、これにより生物の気配を捉えることが少し得意になる
さらに追加で「累計48時間察知する」ことで『気配察知2』へと成長してより明確に気配を察知できるようになり
さらに「その気配の正体を50回見抜く」ことで視界にぼんやりとシルエットが映りオンオフ機能が開放された『気配察知3』へと成長する
「シルエットからしてゴブリンだな…なら先手を仕掛けたほうが早い…!」
勢いよく走り出してスピードを乗せる、そして俺は軽くジャンプすると…重力を無視して壁を駆けた
これはハイウルフと共に過ごすうちに身につけたスキル『身軽』だ、開放条件は「スキル『身軽』を持っている生物と30日共にいる」ことだ…わかってる、『身軽』を得るために『身軽』を持ってる奴を探すなんて矛盾してるよな?
そんな矛盾を解決するためにうってつけの存在が『種族スキル』と呼ばれるものだ。これはこの世に存在する生物は必ずその種族特有のスキルを持って生まれてくるというもので、ウルフ種の種族スキルは『身軽』だったわけだ
ちなみに人間はランダム1つのスキルに変化する『才能』という種族スキルを持って生まれるらしい…ぶっちゃけガチャだ、人類は異世界でも業を背負ってる
「悪いな、不意打ちさせてもらう」
思考を先頭に戻そう、俺は『身軽』に壁を駆け抜けて待ち伏せしている奴らの上を取った。そこには『気配察知』の通りゴブリンが3匹…剣を持った2匹と杖を持ったゴブリンウィザードが1匹いた
これが『気配察知3』の欠点で、生物本体のシルエットしか映らないので持っている武器の種類まではわからないのだ…なのにちゃっかり服は透けない、ちょっと残念に思っちゃったがこれも業だ、許してほしい。
「1匹目…!」
「ゴキャガ?!」
人語を話すのは上位種かつ知能のステータスが高い者だけだ、だからこそ気兼ねなく倒せる
壁を蹴り直角に曲がった俺はゴブリンの1匹に飛びかかり頭を串刺しにする…そのまま武器を奪い
「2匹目ぇっ!」
ズバン、と首を跳ね飛ばした
ずるりと落ちていくゴブリンの頭越しにびっくりした顔で硬直しているゴブリンウィザードを見据え…そのままサッカーボールのように2匹目の頭をゴブリンウィザードへと蹴り飛ばした
飛んできた同族の頭に動揺したゴブリンウィザードは厄介な魔法を唱える暇もなく、晒した隙をつかれてその首を落とされた
「3匹目…っと、悪く思うなよ」
ゴブリンの持っていた盾と杖、防具を奪って身につけておく、これは単なる追い剥ぎ目的というだけではなく他のゴブリンに装備を再利用される対策にもなる親父のくれた知恵だ
それからも何度かゴブリンやスケルトンを倒しながら進んでいくとダンジョンの入り口と同じような両開きの扉に辿り着いた…しかしサイズはかなり大きくて6メートルくらいはあるだろうか、わかりやすくボス部屋な雰囲気だ
「まぁ行けばわかるさ…」
迷わずいけよということでボス部屋の扉を押す…6メートルもある扉を開けられるのか不安にもなったが、そこは都合よくできてるようであっさりと開いた
そして扉の向こうに広がるドーム状の広い部屋には…骨の鎧を見に纏った3メートルほどの巨大なゴブリン、ゴブリンキングが立っていた
『グォォォォォ!!』
「……帰ろうかな」
まだ部屋の中には入っていないからここで引き返せば初めてのダンジョン探検はおしまいだ
狭いダンジョン内で魔物と戦う経験は森ではできなかったし、何よりダンジョンという物を体験できたのは今後の人生でかなり大きい
……もう得るものは得た、あとはダンジョンクリアの報酬とかあるのかもしれないが無理して得るほどのものでもないだろう
「でもやっぱり…ダンジョンクリアは男のロマンでしょ!」
思いっきり駆け出してボス部屋へと飛び込む、背後でバタン!と扉が閉じる音が聞こえたが閉じ込められた程度気にする事じゃ……
「うそだろ?!ボス部屋って閉じ込められんの?!」
冷静に考えてみれば当たり前だ、ボス部屋を自由に出入り可能だったら境界線である扉を反復横跳びして安全にボスが攻略できてしまうじゃないか
「(マズイマズイマズイマズイ!!死ぬのは覚悟してたけど勝つのが無理そうなら這いずってでも出る予定だったのに!これじゃ最悪……!!)」
ゲームならボスに負ける、もしくは死亡した時点でセーブポイントや宿屋に戻るだろう…
しかしこの世界にはセーブポイントなど無く、そんな不思議パワーでワープさせてくれるかもわからない…だが確実に最悪のパターンは存在している
「この部屋で死んでもいつも通り蘇ってたら……最悪ハメられる!!」
ゲームには一定の行動のループをくり返してキャラクターを型に嵌めるテクニック、俗に言う『ハメ技』というものが存在する
もしもこのボス部屋でもいつも通りその場で蘇る場合、蘇っては殺されるループ状態に陥る可能性があるのだ。普通の敵ならば地道にダメージを入れればいつかは倒せる…しかしボスにそんな地道な戦法を使っていたら何年もかかる可能性もあり、下手をするとダメージを稼ぐことすら出来ずに永遠にこの場で殺され続ける
「勝つしかなくなった…のか」
燃えるような瞳でこちらを睨むゴブリンキング、それと正面から睨み合いゴブリンから剥ぎ取った剣と盾を構えた