300円
ここはスーパー超元気半分ヶ丘しょっぱうんこ市立鼻毛バビロンキングダムギャラクシーヒザ貧乏小学校。略してヒザ貧だ。
2024年4月、ヒザ貧に156名の新入生が入学した。
「新入生挨拶! はよ!」
入学式の司会のおっさんが鼻をほじりながら新入生を急かす。
この上半身スーツにプリけつ丸出しの司会のおっさん、こう見えてヒザ貧の前校長である。モンスターペアレントに毒を盛って一切の味覚を奪った罰として、入学式の司会のおっさんにまで降格させられたのだ。今日が終わったら次の出勤日は来年の今日である。給料は40円だ。
「〜〜〜っちゅーことで、挨拶とさせていただきマンモス。新入生代表、砂嘴嬾僥熾拝」
ペチパチポチポチマチポチ!
ウィーウィー!
6歳の堂々たる歌唱に割れんばかりのチビりそうなスーパー拍手喝采を贈る観客たち。
「っちゅーことで、入学式終わりです」
役目を終えた司会のおっさんは海へ帰っていった。来年まで海底で過ごすのだ。
「ではこれからクラスごとに分かれて移動したいと思います! 1組はそっち、2組はそっち、3組はそっち、4組の生徒は私のところへ来てください!」
やたら線香の匂いのする真っ白フェイスの、アゴのとこのデカいホクロから毛の生えている美人教師・右耳左耳よしっこの声かけにより、4手に分かれた。
今回のお話は、1年2組のお話である。
閉式後、教室にて。
1年2組には、他とは違う点があった。
新入生156人中100人が振り分けられており、出席番号40番以降は立ち見なのだ。
大きな字で『GTO』と書き殴られている黒板。
「今日からお前らの担任になったグロチンコ大塚、略して『GTO』だ。よろしくな。まさか100人もいると思ってなかったからだいぶ焦ってるわ。去年まで35人とかだったのに」
程よくがっちりした長身の男性教師・グロチンコ大塚が黒板をコンコンして言った。
「先生!」
気になることがあるようで、着席中の1人の生徒が手を挙げた。
「なんだ」
「本名ですか!」
「ああ、本名だ。苗字は湯川だ」
「下の名前だったのかよ」
下の名前だったことに驚愕する窓際の右半分が坊主で左半分が坊主の男子生徒。
「名前に大塚入ってんだ、すげぇな」
「大塚よりもチンコが入ってんだけど」
「しかもグロチンコな」
「確かに」
「ヤバいな」
「ヤバすぎるな」
「グロチンコって名前なの、やっぱり生まれた時すごかったからなのかな」
「気になるよな、グロチンコ」
「今はもう治ってるんじゃないか?」
「治るもんなのか?」
「いや治したんだろ」
「どうやって?」
「知らねーよ」
大塚そっちのけで盛り上がる新入生たちに飽き飽きした大塚は「今もグロいぞ」と白熱する議論に終止符を打った。
「1人1000円で見せてやってもいいぞ」
グロチンコも商売なのだ。
「1000円!? 今日小学生になったばかりのオイラたちに1000円払えと!?」
「すき家の牛丼2.5杯食えるぞ!?」
「0.5で売ってないだろ」
「例えばの話だよ」
「だったら最初から例えばの話ですって断っとけよ」
「は? そんなのいるか?」
「いるに決まってんだろバカか?」
雲行きが怪しくなる生徒Aと生徒B。
「あんだとコラ? やんのかテメー?」
生徒Bの額に自分の額を押し当て、睨みつける生徒A。
「あ? 死にてーのか?」
「おめーがな?」
「死ぬか? あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「長くね? そっから進まないことある?」
痺れを切らした大塚が疑問を投げかけた。
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「嘘だろ? いつまでやるつもりだ? もしかして止めてほしいのか? 2人とも喧嘩経験がなくて怖いから、俺に止めに入ってほしいのか? だからそこから進まないのか?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「せめて喋れよ!!! なんなんだお前ら!! こんなヤバい奴が、しかも同じ方向にヤバい奴が2人もいるクラスなんてどうやってやっていけばいいんだよ!」
「先生は何が好きなんですか?」
突然おでこを離した生徒Aが大塚に訊ねた。
「え、いきなり? うーん、うなぎかな」
「へー、そうなんですね。美味いですよね、うなぎ」
「な、美味いよな」
「ね」
「ちょっとごめん、その会話なに?」
今まで喧嘩していた相手が突然担任と中身のない話を始めて戸惑いを隠せない様子の生徒B。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
生徒Bの問いかけに答えない2人。
「さて、俺の紹介も終わったことだし、今度はみんなの自己紹介を聞こうかな! 出席番号1番の脇毛紫さんからお願いします! ていうかなんだよ出席番号って、出席の番号かよ。んで1番から『わ』ってなに順だよこれ」
独り言の多いグロチン。
「はい! 脇毛紫です! 今日本は頑張る時なのです! 私たち国民ひとりひとりが国を支え、なんちゃらかんちゃら⋯⋯です! 好きな食べ物はネギです! よろしくお願いします!」
ちょっと待って、もしかしてこのクラス、ヤバい?
ん? 俺は誰かって?
俺はこのクラスの副担任、吉田300円だ。よろしくな。
「はい、ありがとうございましたパチパチパチ〜、次2番の子お願いしまーす」
湯川先生、さっきの謎の演説気にならなかったのかな。
え? 呼び捨てにしないのかって?
さっき俺視点なのがバレたからもう呼び捨てもしないし悪態もつかないよ。
「はい! 出席番号2番の屋久黄麻里です! 昨日はお空を飛びました! 楽しかったれす!」
あんまり人の名前を悪く言いたくないけど、黄色の必要あるか? 麻里じゃだめなの? なんで今予測変換にマラカイボ出てきた? 灯台?
「薬物とかやってるの?」
湯川先生、なに普通に聞いてんだよ。
「私の名前がヤクキマリだからってそういうことを言うのはやめてください。訴えますよ」
こわっ。
「ごめんちゃい」
「いーよ」
軽っ。
「はい次ー!」
「はい、出席番号3番! 似鳥緑です! 好きな食べ物は鼻くそです! 最近鼻くその塩味が舌のできものにしみて痛いです! よろしくお願いします!」
どっから突っ込めばいいんだ。
ニトリが緑なのは共感するとして、いやそれにしても名前の色率が異常に高いな⋯⋯
でもよく考えたら似鳥って普通にある苗字だし、緑もよくある名前だ。色じゃなくて木々とか環境のことも緑って言ったりするし、いい名前じゃないか。なんで俺はあんなことを⋯⋯
「鼻くそも緑だもんな! 口内炎、お大事にな! じゃあ次!」
え? 緑色だから好きってこと? じゃあキャベツとかピーマンとかも好きってこと?
ごめん、関係ない話していい?
今俺教室の隅っこでみんなの自己紹介聞きながらこれ書いてるんだけどさ、親指の関節がめっちゃ痛いのね。だから出席番号4番からは次の話で紹介させて。切実に。お願い。あざっす。
って書いて区切りつけた瞬間に親指治った。どれだけ動かしても1ミリも痛くないわ。人間の体って不思議だね。こんないきなりレベル80の痛さが0になることってある? 不思議というより怖くなってきた。感覚がなくなった可能性もあるのか? もしそうだったらコンスコル怖すぎるよね。なんだコンスコルって。
爪楊枝でつんつんしたら感覚ちゃんとありました。良かった。じゃあ本当にただいきなり治ったんだね。これはこれで怖いな。怖がりだな俺。
続くぜ!