表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の頬をひっぱたいて下さい  作者: ひつじまぶし
第一章 はじまりの古城
15/24

国境から続く深い朝霧を抜けると、異国の古城だった。(改訂版)

本話は第一話である「国境から〜」の改訂版であります。

既に投稿した話の改訂版ですので内容は全く変わっておりません。

興味のない方、全話までをご覧になっていない方のご拝読はお勧め致しません。

ですのでどうしてもお読みになりたい方だけお読みください。





 早朝の平原に朝霧が広がっている。霧に阻まれた陽射しが、あたりをぼんやりと照らしている。

 

 霧の中を、一台の荷馬車がガタゴトと進んでいる。


「ありがとうな、パウルさん。こんな得体の知れない男を乗せてってくれてよ。」


「いえいえ、同行人の一人や二人よくある事です。お気になさらず。

 それより旅のお話、もっと聞かせて欲しいです!」


 くたびれた荷馬車で御者らしき青年パウルと、東洋的な風貌をした大男の2人が雑談を交わしていた。


 パウロは、まだ少年らしさを残す青年だ。

 平均より若干高い背は、御者台の上でピンと張られている。顔には明るい笑顔が浮かんでおり、優しげな雰囲気も相まって好青年さが滲み出ている。

 けれど着古した麻と羊毛の衣服、雑に切り揃えられたカーキの髪がいかにも村の若者といった雰囲気を醸し出している。


 一方の大男は若さと老成した雰囲気両方を纏い、年齢がよくわからない。

 がっしりとした顎と厳しい顔は武人を思わせるが、顎のラインと瞳の据わり方がどことなく繊細さと知性を滲ませている。

 東洋風の着流しに打刀と脇差をそれぞれ左と右に差している。

 そして脇には、子供の背丈ほどの太刀が渋柿色の包みに包まれている。太刀も持ち主を真似てか荷台に寝転がるように置かれている。

 

「そうさなぁ……つってもほとんど話しちまったもんなぁ。

 山嶺の道士相手の大立ち回り、切るか齧るかで味が変わる幽霊桃の話、あと東洋の街で俺の目を薬にしようとする奴から三日三晩逃げ続けた話ももうしたよな?


 そうなると……あぁ、酒が湧き出る竹の話なんてどうだ?」


 それを聞いたパウロは目を輝かせる。


「そんなのもあるんですね!是非お願いします!」


「了解。

 コレは三日三晩逃げ回った東洋の街から逃げ延びたちょいと後のこと。」


 男が話を続ける間にも、忠実な馬は黙々と平原を進む。早春の朝の空気は未だ凍てつくようで、馬はフゥンと白い鼻息をあげている。


「山岳の酒場で『ここに来て本物の竹葉(ちくよう)を飲んでいかないなんて馬鹿だ』なんて話を耳にした。

 俺の故郷では酒を竹葉なんて呼ぶんだが、どうやらこの地方がその発祥地らしい。

 その地では竹から極上の酒が取れるそうだ。」


「その竹っていうのは何です?」


「植物の一種だよ。すごく背の高くなる草と木の中間みたいな植物なんだが、筒状になっていて内部が小さな空洞ごとに分けられているんだ。」


「へぇ、そんな植物があるんですねぇ!」


 パウロは目を輝かせてそう応える。

 大男にとっては何のことはない話なのだが、パウロにとってはそれもまた遠い異世界のように感じられるのだろう。


「でな、竹葉酒の採集にはこの空洞が重要なんだ。

 竹葉酒はその地に住むミャン族って言う少数民族が作っているんだ。そこでミャン族について行って、竹葉酒の採取を教えてもらった。


 手順はこう。

 まず手頃な竹を見つける。なるべく若く生気に満ちた竹が良いんだそうだ。

 次に竹の空洞上部に穴を開けて、空洞の内側に傷をつける。

 そして数ヶ月放置していれば、空洞に竹葉酒が貯まっているそうだ。」


「簡単ですね。私でも出来そうです。」


「おう俺もそう思ったよ。だから疑問に思ったんだ。

 なんせ竹なんぞ俺の故郷なら何処にでも生えてる。だが普通竹から出る水、竹水って言うのは放置すると腐っちまうんだ。


 だからなんでこの土地では水が腐らず酒になるんだって聞いたんだ。

 そしたら蜂のおかげだってさ。」


「蜂ですか?」


「あぁ、この国の言葉にはその虫に対応する言葉がないから、正しい名前は言えないけどな。

 

 酒は穀物汁とか糖が溶けた水を酒精が発酵する事で出来るんだ。

 竹水にも酒精は宿るけれど、弱っちいから邪精に負けて腐っちまうんだと。

 

 そこで活躍するのが蜂だ。

 蜂は竹に貯まった甘い汁を飲みに来る。

 その際に花の生気を酒精に送ることで、酒精が邪精に打ち勝って、酒ができるんだとよ。」


「へぇ。」


 パウロは感心したような声をあげるが、どことなく上の空だ。


「ハッハッハ、スマン無駄話が過ぎたな。

 本題は味だよな。」


 パウロの瞳の輝きが増した。青年パウロ、とても分かりやすい性格をしている。


「連れてってくれたミャン族の奴に金払ってな、その場で呑ませてもらった。

 なんでも竹から取り出してすぐが、一番香りが強く冷えてて美味しいらしい。


 自前の盃に竹葉酒を注いでみたんだが、驚くほどに澄んだ色をしていた。自然に作られたとは思えない程瑞々しい透明さで、酒じゃなく水かと思った。」


「へぇ、美味しそう……。」


 パウロは耳を傾けている。


「そしてまた香りがいい。花のような甘い芳香を清涼な竹林のツンと爽やかな香りが引き立てる。」


「そして一口煽ると、口の中で竹香と共に酒精の辛さがツンと刺激してくる。そのくせ、絹のように繊細な甘さが控えめにと舌の上に広がってくる。」

 

 パウロがゴクリッと喉を鳴らす。


「舌の上で充分に味を愉しんだ後、ごくりと飲み込むわけだが、その際辛さに隠れていた甘味が一気に襲いかかってくる。

 それと同時に、竹林の澄んだ香りと竹水自体の甘い香りが











 よくぞ参ったな(いまし)ら、こんな所まで来るとは余程暇人なのかのう?

 くく、冗談じゃ冗談。

 最後まで読み切ったからこそここに参ったのであろう?

 幾人かそうで無い者が混じっているようじゃが……。そうじゃ(いまし)じゃ。いやそちではなくこっちの(いまし)じゃ。(いまし)はまだ読み切ってはいないじゃろう?ならば疾くこの場より去ね。ここに(いまし)の居場所なぞないぞ。

 もし続きを読みたかば、いままでのことをしかと観てから戻ってくる事じゃの。それが嫌ならとっとと続きでも観てまいれ。




 さて(いまし)ら、待たせて悪かったのう。ここまで良くぞ読み果たしたものじゃ、感心感心。(いまし)らはサドゥーか何かかの?

 此度はそんな苦行を乗り越えた(いまし)らとちと話がしたくてのう、こうして呼んだわけじゃ。


 うぅ〜む、とは言え何から話すべきかのう?そうさのう、まずはこれまでの話でも振り返ってみるかや。


 (いまし)らはあの野干、あぁ朝護が捕まった所から見始めたんじゃったかの?

 あの愚か者は門守が悪いだの抜かしておったが、そも入門の段になっても野干がいつまでも惰眠を貪っていたのがことの発端よ。彼奴全ての手続きをパウロとやらに任せて雲の数でも数えておったのじゃ。その舐め腐った態度に門守たちが苛立ったとこからあれよあれよと牢屋に引きずられることとなったのがかの顛末じゃ。

 彼奴は己が怠慢と相手の七慢を見抜けなかった未熟さを反省すべきじゃというのに、ほんにいつまで経っても滑稽じゃのうあの野干は。


 そして連れて行かれた牢にてかの娘子の護人たるファーガスに出会ったわけじゃ。

 あの男、次ぐの日には死体となっていたが一体何故殺されたと思う?何者かの口封じかの?それとも過激な教徒たちによる私刑か?はたまた国ぐるみの陰謀にでも巻き込まれたのやもしれぬな?

 くく、まあ余は知っておるのだがのう。


 そして解放後に出会った、修道女マルガレーテ。

 彼奴も彼奴でまた難儀な者でのう、弱者を救いたいなどと心の底から思っておる手合いじゃ。そんな願いなど持っておるから破滅s……おっとここから先は汝らには早かったの。くく、すまぬすまぬ許してたもれ?どうせ直ぐに判るのじゃから。


 して、娘らを救ってから野干どもは岩窟地帯に向かったわけだが、あの岩窟妙だと思わなかったか?

 西都とやらの建設当初に使われていたそうじゃが、幾らなんでもあのような所に兵舎など作ると思うか?壁に張り付いてカンカンと穴を掘って出来上がるのが数人分の兵舎だけ。そんなの非効率じゃろう?しからば、元からあの場所に穴があったと考えるのが普通じゃろう?

 それに岩窟の裏にあった水脈。かの暗渠は都合よく地下水脈に流れ込んでおったそうじゃが、何故川のすぐ隣にも関わらず地下水があのような表層に現れていたと思う?自然に出来たにしては不自然であるし、水脈として掘ったにしてもわざわざ川ではなく地下水脈を用いる意味が何処にある。それに逃げ道として都合が良すぎるあの立地、何やら意図のようなものを感じはせんか?まるで彼奴らがここから逃げるのを見越しておったようなのう……。杞憂に過ぎぬかもしれぬが、(いまし)はどちらだと思うかや?


 ふむ、振り返りはこんなものかのう?案外長うなったは。


 そういえば(いまし)ら気づいておったか?野干が心の中で女らの名前を呼ばぬことに。

 男どもに対してはケイだのパウロ様など抜かしておったが、女らには御令嬢だの少女だの少女の母親だのと名前を使わないし聞いてすらいない。アイラに至っては名を知っておるにも関わらず女騎士と呼び続けておる始末じゃ。

 女どもから距離を取ろうとしている恥ずかしがり屋のガキのようだと思うたか?確かに野干はまだガキじゃがそれが理由ではない。

 野干はの、女運が悪いのじゃ。生まれ故郷でもそうであったが旅の先々でまあ女関連で色々なことに巻き込まれたのじゃ。野干の魔羅を切り取らんとする女なんぞ可愛い方で中には野干を巡って一族郎党滅んだ女もおる。何よりあの災害で失ったあの娘の事もあっての、彼奴は女子から距離を取ろうとしておるのじゃ。


 ん?余が何故彼奴を野干と呼ぶのと?たわけが、あのような痴れ者に名を使うまでもないわ。

 彼奴は昔神童と呼ばれておってのう、それはそれは図に乗って好き勝手やっておったものよ。その傍若無人な態度が面白うて見ておったのじゃがそれが今ではあの様な醜態を晒しおって、くくく誠に滑稽で愉しゅうてならぬ。いつまでも見てられるわ。




 さて、話はこんなものか。光る板切、えきしょうぱねるじゃったか?越しとはいえ話せて楽しかったぞ、また機会があれば話そうぞ。

 ん?結局、余が何者だったのかだと?くく、それはすぐに分かることじゃ気長に待っておれ。それではまたの。



 ご拝読くださりありがとうございます。

 彼女の正体についてこの場では語りませんが、すぐにでもお披露目できますように精進して参ります。

 それに彼女自身が語っていました通り、彼女の登場もそう遠くないはずです。

 ですから首を長くしてお待ちいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ