プロローグ
私はモビルスーツだ。
………………
こいつは何を言っているんだという、あなたの心の声が聞こえるが、私は病気でもなければ、頭がおかしくなった訳でもない。
言葉通りの意味だ。
私は今、数多の星が煌めく広大な宇宙空間でビームライフルを構えている。
だが自分の意思でこの鋼鉄の身体を動かしている訳ではない。
きちんとコクピット内に居るパイロットが操縦している。
パイロットは16歳。
反抗期青春ド真ん中だ。
しかしながらモビルスーツの操縦に関しては天賦の才に恵まれ、幾多の死線をくぐり抜けてきている。
やはりモビルスーツの操縦は訓練された大人よりも、
ひょんな事で乗らざるを得なくなった民間の子供の方が、なぜか優れているというのは、どこの世界に於いてもお約束のようだ。
まぁそんな事より、普通のオッサンだった私がどうしてモビルスーツになってしまったのか?
この鋼鉄の身体に生まれ変わってしまったのか?
色とりどりの光線と爆発が輝く暗黒空間。
多くの生命が、いとも容易く奪われていく。
殺意、憎悪、怒り、悲しみ、後悔、恐怖、ここはそんな感情が渦巻く紛れもない本物の『戦場』
気を抜けば一瞬で敵のビーム兵器の餌食だ。
だが、彼の天才的な操縦技術がそれを許さない。
敵のビームを、ミサイルを、蝶のようにひらりひらりとかわしたかとおもえば、次の瞬間には銃口を向けていた敵が、次々と爆発四散していく。
私は彼に操られるまま、全方位360度、死と隣り合わせのワルツを踊り続ける。
はっきり言おう。
怖い。
涙目である。
ただでさえジェットコースター苦手なのに。
もう、ちょっと気持ち悪い。吐きそう。(気分的に)
生身ならとっくに気絶してる。
だが私には、気絶する事も目を瞑る事もできない。
なぜなら私は、モビルスーツなのだ……。