謎の少女
「御主、こんな所で何をしておる?」
そう問いかけてきた謎の少女、
それは此方の台詞だ。
少女の格好は山を登るにはとても不釣合いだった。
白装束に下駄、その姿がとても不自然に思えた。
適当にあしらおうかとも思ったが、自分の中の探究心を抑えることが出来なかった。
「貴方こそどうしてこんなところに?」
「問いに問いで返すとは無粋な男じゃ」
少し不満げな表情で少女は言った。
それもそうかと思い、ここに来た理由を話した。
「そうかそうか、御主!星が好きなのか!星は美しいからのぉ」
この言葉を肯定していれば、少女との関係は此処で終わっていただろう。
いつもの僕ならそうしていただろう、だが目の前に立つ異質な雰囲気を放つその少女を見ていると、何故だか心が安らいだ。
気付くと僕はその言葉に対し自分の意見を口にしていた。
「いや、違うんだ。美しいとかそういうのじゃなくて、ただ星を観ていると、この世界がどれだけ小さなモノなのか諭しているように思えるんだ。そういうところが好きなんだと思う」
見ず知らずの初めて会った少女に僕は何故こんなに自分の気持ちを話したのだろう。
自分でもとても不思議な感覚だった。
「ククッ中々面白い感性の持ち主じゃな!
御主、気に入ったぞ!名をなんと申す?」
何やら気に入られたようだ。こんな事は初めてだったが、不思議と嫌な気はしなかった。
「夜守 星です。夜に守でヤモリ、空に浮かぶ星でショウといいます」
すると少女は少し険しい顔をした後、
「ふむ、何やら聴き覚えのある名じゃのぉ
まっそれはさておき小僧にしては中々良い名じゃ」
と言い終えて間もなく、何やら閃いたかのような顔をした後続けて言った。
「小僧…うむこの響きはしっくりくるのぉ、御主のことは小僧とでも呼ばせて貰うが、構わんな?」
小僧って、見た感じコイツも同じぐらいか、それ以下の年齢だろ…
まぁとは言うもののこういう時、どう切り返すべきなのかコミュ力の乏しい僕にとっては難易度が高すぎる。どちらにせよコイツとはもう会うことはないだろうし、適当にあしらっておこう。
「ハハ、好きなように呼んでくれて構いません」
少し苦笑いを浮かべながら返した。
「ふむ、何やら不満そうじゃのぉ?まっいっか」
まっいっか、って…まぁいいか別に、これ以上コイツと関わるつもりもないしな。
「あっそうじゃ、気に入ったついでに小僧の問いにも答えてやろう。何じゃったか?どうしてここにいるのか?だったか?」
そうだった僕はそんな質問をしていたな。
コイツのペースに飲まれっぱなしで完全に忘れていた。
とりあえず頷いておこう。
「うむ、教えてやろう!妾は祭りを見に来ていたのじゃ、此処は眺めが良いからのぉ」
確かに、この山の麓では祭りをやっているが、直線距離にしておおよそ600m以上は離れている。
僕も一般的には目の良い部類だが、それでも祭りの赤い光が見える程度だ。
「こんな遠くからじゃ何も見えませんよね?」
「いいや、見えるぞ。夜は広いからのぉ、あの祭りにいる人の表情まで見てとれるわい!」
何を言っているのだろうと考える間もなく
「あっそういえば、妾に敬語は不要じゃぞ、その方が話しやすかろう」
「ああ、わかりまっっ、わかった」
少女は満足げに頷いた。
どうやらお気に召されたようだ。
「そういえば君、名前はなんていうんだ?」
自ら他人に興味を示さない僕だが、何故だかこの時少女のことを知りたいと思っていた。
他人のことを知りたいと思ったのは、これが初めてだ。
「ああ、そういえば言っておらんかったな、まぁ今は”ヨル”とでも呼んでくれ」
何か引っかかる物言いだが、この時の僕は特に気に留めることはしなかった。
それよりもこの喋り口調の方が気になって仕方がない。
見た感じの年齢は、僕と同じかそれ以下だと思われる、にも関わらず、この喋り口調は何なのだろう?
僕の捻り出した答えはこうだ。
ヨルは相当、厨二病を拗らせているのだろう。
そう思えば今までの言動にも辻褄が合う。
今はそういうことにしておこう。
そうこう考えていると、
「そういえば小僧、星を見に来たのではないのか?」
あぁそうだったすかっり忘れていた。
「ああ、観て行くさ」
そうして空を見上げると、そこには天気予報の通り、雲一つない満天の星空が広がっていた。
あぁ何度観てもこの感覚は良いな…
持ってきたレジャーシートを広げ、そこに寝転がりまた星を眺めた。
ヨルは何も言わず、妖艶な笑みを浮かべながら僕を見ていた。
僕は時間を忘れて星を眺めた。
星を眺めていると時間を忘れてしまうのは、いつものことだ。
気がつくと既に1時間以上星を眺めていた。
ふと、ヨルの存在を思い出し、辺りを見るとヨルは、まだ近くで僕を見ていた。
「ヨル、まだ居たのか?」
「ああ、人間を見ているのは面白いからのぉ、小僧、お前のように面白い奴は特にな」
「ああ、そうかい、それは良かったな。もう夜も深いし、僕はそろそろ帰るぞ、ヨル、お前もそろそろ帰れよ、女の子がこんな夜遅くに出歩いてるのは危ないからな」
「ククッ何を言っておる、夜はこれからじゃぞ?」
「補導されても知らないからな、じゃっ僕は帰るよ」
大丈夫だと顔に書いてあるような表情で、妖艶な笑みで返してきた。
僕は何も言わず振り返った。その時、
「またな、小僧!」
後ろから声が聞こえる。
こういう時なんて返すのが正解なんだろうか、僕にとっては初めての経験だった。
少し考えた後、
「ま…たな、、」
振り返らずに言った。
そうして僕は山を降り始めた。
またな、か…初めて口にした。
そう呼び合う相手に1度も出会ったことが無かったから。不思議な感覚だ…でも嫌な気はしなかった。
僕は、少しの高揚感と不思議な感覚を胸に抱き、
帰路を歩く______________
本作品を呼んで頂きありがとうございます。
今回も拙い文章で申し訳ないですが、楽しんで頂けたら幸いです。
もしよろしければ、コメントや評価等して下さると嬉しいです。
では、また次回も宜しくお願いします。