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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第3章 黒と白

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再戦準備

 ガリスから上がった決闘終了の声と広がった歓声を合図にルカとリヴァレは一歩引くとアバードを解いた。

 戦闘後に始めて顔を合わせた2人だが、そこには微かな疲労と共に笑顔が浮かんでいる。


 文字通り全力を出し尽くした結果なのは言う必要ないだろう。


「さぁ、戻りましょうか。ルカ」


「ああ、そうだな。リヴァレ」


 それからは2人並んで先ほどの決闘の感想を言い合いながら出入り口へと足を向け、歩き出す。


「あ、そうそう」


 足を一歩踏み出したところで思い出したようにリヴァレは振り向くと挑発気味に言う。


「アバードであれウェスバであれ、次は勝ちますから」


 現状の戦績は互いに1勝ずつだ。

 たしかに今回は右腕がないという状態だったがそれを抜きに次はどうなるかはわからないほど2人の能力は接戦している。

 次はどうなるかはわからない。


「……次も勝つさ」


 次があることを示すためにルカはリヴァレの挑発を受けとり、そう返した。


◇◇◇


 そんな2人を微笑ましそうに見ていたルリナは安心したように息を吐く。


(良かった)


 おそらく彼はクロスブレンで何か大きな違反でも起こさない限りは居られるだろう。

 クロスブレンという部隊が正真正銘、ルカの新たな帰る場所となったのだ。


 彼の帰りを待つ者がいるということを知った今ならミクズムに向かっていた時のような孤独や寂しさを紛らわせるような笑顔を見せることはない。


 自分含めこれから何度も衝突することはあるだろうが、大丈夫だろう。

 断言はできないがそんな確信があった。


 早く自分もルカへと出迎えの言葉を向けなければならない。

 そう思ったルリナは立ち上がりながら言う。


「ミカエラ、2人のところに行きますよ」


「わかりました」


「いやー、にしてま見応えありましたね〜」


「はい! 2人ともとても強かったですね。決着がついた時は息を飲みましたわ」


 そんな言葉を和気藹々に交わし、3人は観覧席から出るとルカたちがいるであろうウェスバの格納庫へと足を向けた。


 通路を明らかに嬉しそうに歩くルリナの背中を見てミカエラ小さく笑みを浮かべる。

 しかし、その表情を引き締めると彼女に聞こえないように小声でナテスアへと問いかけた。


「それで、どう出るつもりだ?」


 白いアバードとアギルが襲来して3日だ。


 今回の決闘を許可したのはレベルは下がれど警戒を続けている天使たちへの休養という意味合いが強いが、ルカがアバードを使った時の彼らの出方を伺う理由もあった。


 最悪再びミクズムが戦場になることを考慮し、格納庫では防衛部隊のウェスバを待機させていたり即応体制を整えていた。


 結果としては徒労に終わったが、それは同時に手詰まりでもある。


 そう思っていたミカエラだったがナテスアはニヤリと露骨に笑みを浮かべた。


「もちろん、考えてあるとも」


「なに?」


「彼らの目的はルリナ様でも、このミクズム、果てはこの国でもない。

 あくまでもルカ君との接触、それがどのようなものかはわからないが繭の形成だけだ」


「つまり、防衛部隊を警戒しているのか」


「ああ、あの時はまだ正体や目的がわからなかったし、夜だったから強襲を仕掛けられたが今は違う。

 もしその繭とやらを攻撃されてはたまったものじゃない」


 露骨にルカ・アバードがいたとしてもその周囲に不確定要素であるウェスバが存在していれば失敗する可能性を考える。


 ルカを見ていれば白いアバードもすでに戦闘可能なレベルにまで傷を治し、体力を戻しているのは間違いない。

 それでも攻めてこなかったというのはそういう理由からだろう。


「ふむ。話が戻ったな。

 では、改めて聞く、どうするのだ?」


「それはーー」


 内容を聞いたミカエラは苦い表情を浮かべた。


◇◇◇


 ヘルファイス研究局が管理する格納庫にはルカとリヴァレ、デメヴィオから降りたばかりのガリスとツェルトがいた。


 彼らを見つけたルリナは小さく咳払いをして髪を整えてから声をかける。


「お2人ともとても素晴らしい戦いでした」


「ありがとうございます。ルリナ様」


 頭を下げながら答えたリヴァレ。それを受け取ったルリナはルカへと視線を向ける。

 彼もリヴァレに続いて軽く頭を下げて満足気な笑みを浮かべた。


 そのおかげで自分が2人を見て得たものに間違いがないと確信すると口を開く。


「ルカ、約束は守れそうですか?」


「はい。任せてください。必ず」


 どこかいつもとは少し違う雰囲気が流れ出したのを察したリヴァレは反射的に問いかけた。


「約束、とは?」


「ふふっ、秘密です」


「秘密、ですね」


 どこか悪戯を楽しむ子どものように揃って笑う2人にリヴァレはそれ以上問い詰めることはできなかった。


「秘密……」


 そんな2人を見て疎外感と1つの感覚をリヴァレは覚えた。

 残り1つの感覚については彼女の中で名前は出てこなかったがあまりいいものではない。


 そう思ったリヴァレは覚えた感覚を忘れるために話題を変えることにした。


「ともかく、少し驚きました。片腕だけであそこまで戦えるとは」


「アバードなら出来ることですよ。ウェスバだと正直まだどうなるか」


 この3日間、ルカはウェスバに乗れていない。

 それは当然のことで、元々ウェスバは片腕の装備者を想定していない。


 構造はある程度ブロック化されているため右腕を外すだけでいいとルカは思っていたが、どうにもそれだと機体バランスが崩れるようで特に近接戦が難しくなるようだ。


 そして、その調整は整備士たちには初めての事であり手探り状態であるため一切触れることができていない。


 しかし、そんな彼の心配をリヴァレは即座に払う。


「ああ、そこは問題ありませんよ。私がいますからね。

 私があなたの右腕になりますよ」


 さも当然のように言ったリヴァレに場が静まり返った。


 ルカもその理由がわからなかったのか言葉を交わしていた2人は顔を見合わせると揃って疑問符を浮かべた。


 そんな2人にツェルトがからかい混じりに言う。


「さっきのリヴァレちゃんの言葉、告白みたいね〜って」


「……なっ!?」


 ツェルトのからかいにガリスも乗ることに決めたらしく満面の笑みで口を開いた。


「まぁ、部隊内でそういう関係になるのはよくあることだから止めはせんが、仕事には持ち込むなよ?」


「ち、違いますよ! そんな関係じゃ!」


 慌てたルカの即答に2人は「わかってる」と変わらずからかう笑みのまま答える。

 さらに言葉を続けるルカを見ながらリヴァレは感じた妙な靄を口に出していた。


「たしかにそうですが、即答されるとなんだか……」


 そのどうにも言葉にできない感情を抱えているとナテスアが両手を2回叩き、乾いた音を辺りに響かせた。


「さぁ、そろそろ今後の話をしたい。更衣室に行かないか?」


 その言葉に全員の表情がガラリと変わった。

 そして、彼女の提案に従い、彼らの話し場所を格納庫から更衣室へと移す。


◇◇◇


 長椅子にルカとルリナ、リヴァレが、椅子にはガリスとツェルトが座り残りのナテスアとミカエラは立った状態で話しはされた。


 ナテスアの語った言葉をルカは反芻するように口にした。


「ーー俺を餌に白いアバードを誘き出す、ですか」


「ああ、アギルたちの狙いは君だ。

 そして、白いアバードは君の腕を食ったおかげでどこにいたとしても君を見つけ出すだろう。

 それを利用する」


「なるほど。たしかにそれなら餌としては優秀ですね」


 必ず見つけてくれるということならば戦う場所を自分たちで決められるということだ。

 当然有利な条件を作ることもできる。


「しかし、奴らもバカじゃない。露骨にウェスバを並べても向かっては来ない。

 かといってこの状況で焦れてミクズムで暴れられても困る」


「そこでだ。クロスブレンのみで白いアバードの撃破、ないし無力化とアギルの確保を行う」


 戦闘範囲はリジオ村近辺の平原。

 ルカ・アバードを置きおびき寄せたところで白いアバードは撃破、アギルは確保を最優先で行う。


「実にシンプルでいい作戦だな。たった4人でやるということを除けばだが」


「そうですね。それに白いアバードの力は未だ未知数。

 ルカ君も腕を失っている状況ですし」


 ガリスとツェルトが頭を悩ませ唸る中でリヴァレも頭をひねっていた。


 伏兵を忍ばせる方法も考えはしたが相手はエレマフォトンが見えている。

 確実にそうであることがわかっている中に飛び込んでくるとは思えないため使えない。


 数として用意しようにも、もしのことを考えてミクズムの防衛部隊から戦力を借りることはできず、ミカエラたちもルリナの護衛であるため同じ。


 動かせるのは良くも悪くも独立しているクロスブレンのみだ。


「私としてはそのようなことはあまり好ましくない。

 だから断ってもらってもーー」


「いえ、やります」


 顔を曇らせるミカエラの言葉を遮ったルカは続ける。


「現状それしかできないならやるしかない。

 1人でもやりきります」


「ダメです。行くなら私も出ます」


「リヴァレ……」


「何を驚いているのですか? 告白、ではありませんが戦闘で右腕になると言ったのは嘘ではありませんよ?」


 即座に当然のように言ったリヴァレにガリスは頭を掻く。


「そうだな。住人の避難も今日明日できるわけでもない。かといって守るのも厳しい。

 であれば打って出るしかないだろう。ツェルトはどうする?」


「この流れで断れませんよ。まぁ、流れがなくてもやるつもりではありましたけど」


 4人の答えを聞いてミカエラは動けない自分に歯がゆさを覚え、拳を握りしめる。

 それをふっと緩めて頭を下げた。


「すまない。どうか、頼む」


 ルカたちはそれに静かに頷くことで答えた。

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