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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第3章 黒と白

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決闘

 アギルと白いアバードの襲撃から3日が過ぎた。

 ミクズム城塞内ではそのレベルは落とされようと警戒が続き、街の住人たちは日常を取り戻したころ。


 天使団の訓練場の1つに先んじて待機していたリヴァレは現れた存在へと声をかけた。


「まだ病み上がりのところにすみません。そして、話を受けてくれたことに感謝します」


「いえ、俺もそろそろ体を動かしたいところでしたから」


 リヴァレに答えたルカはそこで区切ると深呼吸を挟み、逸る気持ちを落ち着かせながら言葉を再開させる。


「それに、俺も話したいことがありましたし」


 ルカは戦う目的をその手に得た。

 今ならリヴァレと交わした約束を果たすことができるのだ。


 彼の語調と表情からたしかな変化を感じ取ったリヴァレはどこか嬉しそうに小さく笑った。


「……なるほど。では、それも聞きましょうか」


 2人は頷きあうとどちらかが合図するわけでもなく、同時にその言葉を響かせる。


「「アバード・クラッド」」


 ルカは黒い炎、リヴァレは青白い光に包まれる。

 それらが吹き飛ばされる頃には2人はアバードを展開していた。


 リヴァレのアバードは赤を基調として白いラインを全身に走らせていた。


 外見の特徴としては背中から伸びた大剣を思わせる突起を持ち、頭部の額からも剣のようなツノを持っている。

 さらに両腕は他の部位に比べて籠手のように数段厚い外骨格。


 なんとなく剣と鎧、もはや盾と呼んでもいいそれらを持つアバードを「彼女らしい」とルカは直観で感じた。


 リヴァレはなんの言葉もなく剣を2本作り出す。

 右手のものは攻撃用であろう長剣、左手は防御用であろう少し短めの剣。


 片腕であろうとも一切の手加減はしない、ということを態度で示す彼女に答えるようにルカは左手に剣を作り出した。


 そして、感覚を確かめるように数度軽く振るうと右半身を軽く引き、中段に構える。


 2人の間には決闘の前の最後の静けさが訪れていた。


◇◇◇


 剣を作り出し、睨み合う2人を訓練場の観覧席から見ていたルリナは怪訝な表情でミカエラへと問いかける。


「……あの、ミカエラ。話をするだけならばわざわざああして戦う必要はあるのでしょうか?」


 今回の発端はリヴァレ。

 彼女がルカへとアバードでの決闘を申し込んだのだ。


 決闘自体はミクズムでは珍しいがそこまで不思議ではない。いくらかの手順を踏んで申請すれば街の住人でもできる。


 ミカエラから聞いた限りではリヴァレが申し込んだ理由は「話がある」その1つだけ。

 ルリナとすればたったそれだけの理由でアバードで剣を向け合うとは考えにくかった。


 そこからでた純粋な問いかけにミカエラは苦笑いと共に頬を掻く。


「まぁ、私としてもよくわかりませんし、察することもできないので」


「2人ともそこまで深い理由はないと思うよ」


 珍しく言葉を詰まらせるミカエラへと出された助け舟。

 突然降ってきた声にルリナと共に振り向いた。


「ナテスア局長……」


 名前を呼ばれたナテスアは笑顔で軽く手を振り答えるとミカエラの隣に腰を落としながら言葉を再開させる。


「ただ彼らにとってはあれが言葉をぶつかり合わせられる状況ってだけだよ。

 私が机に向かうのと同じ感覚なんだろう」


「でも、それはウェスバでいいのでは?」


 ルリナの疑問は当然だ。

 ただ剣を交えさせるということを考えるならばわざわざ面倒な手続きをしなければならないアバードの決闘よりウェスバを使った方がいい。


 しかし、それでも2人はアバードを選んだ。


 その理由をなんとなく察したミカエラは口にする。


「おそらく本心を隠さないという意味でしょう。ナテスア局長の例を使うなら、浴場で話をするようなものかと。

 アバードはもう1つの己の姿ですから」


「たぶんそうだろうね。彼らは本音でぶつかり合いたいんでしょう」


「そういうもの……なんでしょうね」


 ルリナは理解はできなかったようだが納得はしたらしく視線を2人へと戻した。


◇◇◇


 さらに浮かんだ言葉をルリナが口にする頃、それと似た疑問をデメヴィオを纏って上空で待機していたツェルトは口にする。


「どちらが勝つと思います?」


 それに答えるのは同じくデメヴィオを纏ったガリスだ。

 ちなみに2人は介添(かいぞえ)人としてデメヴィオを纏って上空に待機している。


「現状は互角といったところだろうな」


「ルカ君、右腕ありませんけど。それでも?」


「ああ、そうだ」


 ルカ・アバードの実力は言わずもがな。おそらくそれは右腕を失ったところで大きく力を損なうとは考え難い。


 それをリヴァレも思ったからこそなんのためらいもなく決闘を申し込み、今のように2本の剣を作り出したのだろう。


「ルカが腕を失ってどう戦うか」


 顔が見えずともその語調から楽しむような明るいものがある。


「なんかワクワクしてません?」


「そりゃするとも。おそらく今来てる整備班や天使の連中も同じ気持ちだぞ?」


 顎で指したガリスに従いツェルトは観覧席を見下ろした。


 ミクズムではあまりしないアバードの決闘ということ、噂のルカとヘルファイス研究局のリヴァレが戦うとなれば彼らも興味があるのだろう。


 警戒中ということもあり席は3分の1ほどしか埋まっていないが、天使や整備士、庶務を行う者、彼らと比べるとあまり多くはないが貴族の顔ぶれもある。

 笑顔で雑談をしていたり、どちらが勝つかで賭けをしていたりとどこか楽しそうだ。


「士気高揚ってところですかね」


「ああ、決闘はある種の見世物だからな」


 ガリスがさらに言葉を続けようとしたがそれが形になるよりも早くルカとリヴァレが同時に地面を蹴り飛ばし剣をぶつけ合った。


◇◇◇


 剣をぶつけ合ったアバード2体を見つめながらミカエラがポツリと呟く。


「始まったな」


「ですがリヴァレはアバードを扱えるのですか?」


 次にルリナか気になったのはそれだった。

 リヴァレの活躍やその経歴は知っているがそこにアバードを扱ってどうこうといったようなものはなかった。


 少し意外そうな声音でナテスアは言葉を返す。


「おや? ルリナ様はご存知ではありませんでしたか」


「どういうことです?」


「アバードを扱える者がウェスバを扱いきれるとは言い切れない」


 ウェスバは鎧だ。

 当然ながらそれは重く、しかも普段は身につけないということもあり慣れるまでは簡単な動作も難しい。


 それは天使たちを相手にアバードで容易に退けるほどの実力のあるルカが苦戦していたのがその証拠となるだろう。


 ナテスアの言葉に首肯したミカエラは補足するように口を開く。


「アバードを扱える者からしてみればウェスバは鎧というよりもある種の枷と言ってもいいでしょう。

 もちろんそれがあっても万全に動けるように訓練はしていますが、天使はその枷がある中で動いています」


 耳が痛い話なようでナテスアにしては珍しくどこか気まずそうな苦笑いを浮かべてからルリナへと問いかける。


「もし、そんな枷があってなお十分以上の力を待つ者が枷から解かれればどうなるか。

 想像するのはそう難しくはありませんでしょう?」


 その答えを示すようにルカ・アバードの背中を取ったリヴァレ・アバードは長剣を振り下ろした。

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