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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第3章 黒と白

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理想の世界

 家の中はルカの記憶と同じだった。

 家具や道具、食器はもちろん長年使ってきたがゆえについた傷などもある。


 なんとなくこの家だけ他の場所と比べて情報量が多いことから妙なリアリティをルカは感じた。

 そのせいか不思議と外よりも安心感がある。


 ただおかしなことに自分ではまず買わないであろう少し洒落た小箱が台所にポツンと置かれていた。

 中にあったのはなんの変哲も無い茶葉。


「あ、それ私のお気に入り! お兄ちゃん、淹れて淹れて!」


「あ、ああ。わかった」


 少女の強い推し方にルカは少し躊躇いが長持ち慣れたように準備を進める。


 そうしてルカは定位置に、少女はテーブルを挟んだ向かい側に座り紅茶に口をつけていた。


「……なんだこの味?」


 夢の世界だから、と怖いもの見たさで飲んでみたが味としては形容しがたいものだった。

 甘味、酸味、塩味に苦味と旨味。それらの味覚が一気に沸いたかと思えば一斉に消え去る。

 かといって口に残るような感覚はない。


「夢だからね。不思議な味でしょ?」


 嬉しそうに、自慢するように笑った少女は喜びを示すように足をパタパタとさせていた。

 そんな少女へとルカは問いかける。


「なぁ、ここは俺の夢じゃないのか?」


「そうでもあるけどそうでもない。

 お兄ちゃんの夢だけど同時に私の夢でもあるの。なんとなくわかってるんじゃない?」


「確認だよ。確認。

 なら俺たちは一緒に夢を見てるのか?」


「うん。そうだよ。

 似てるからね。私とお兄ちゃん」


 その言葉である答えがルカの頭の中に過ぎる。

 まるでその答えを補強させるかのように少女は続けた。


「んー、例えるなら兄妹かな?」


 紅茶の液面を見つめながら聞いていたルカはその答えに行き着いていた。

 浮かんだそれをルカは少女へと次の問いを投げる。


「お前、あの白いアバードか」


 少女は一瞬だけ目を見開いたがすぐに満面の笑みを浮かべて頷いた。


「正解。流石にわかっちゃうよね」


 なんとなくそれは諦めたような笑みだ。

 夢が終わり、現実を見てしまった1人の少女が今ルカの目の前にいた。


「恨んでる?」


「ああ」


「憎んでる?」


「ああ……」


「殺したい?」


「……」


 最後の質問にルカは言葉を迷わせた。

 恨んでいるし、憎んでもいる。だが、殺意があるのかどうかは自分ですらは怪しいところがある。


 彼女はあくまでアギルの指示に従ったまでだ。

 たしかに罰は与えられるべきだろう。


 しかし、その罰は死なのだろうか。


 そんなことなどわからなかったルカは自分から話を変えた。


「お前は、なんで村を滅ぼした?」


「探してたんだよ。お兄ちゃんを、ね」


「なら、俺がいればみんなは助かったのか?」


「変わらないよ。きっとね」


「……なに?」


 怪しく口が弧を作ったかと思うとろうそくの火が消えるように周りの景色が飛び、唐突に黒に染まった。

 座っていたはずの2人はいつの間にかその空間に浮かび、向かい合っていた。


 少女は突如として変わった空間に動じることなく滑るようにルカに近づき、右手でその頬を撫でた。


「私たちは1つになるの……。

 身も心も1つに溶け合って混ざり合って、新しいカタチになるの」


「新しい、カタチ?」


「そう、私たちで繭を作ってぐちゃぐちゃに溶け合って。

 とても素晴らしい事だわ」


 全身の毛が総毛立ち、鳥肌が現れ、冷や汗が背中を伝う。

 刃が心臓に突きつけられ、真綿が首を締め付けているようなじわりと広がる恐怖。


 そんな初めての感覚を覚えながらルカは呟く。


「それ、が……父さんの、アギルの目的か」


「うん。誰もが自由で縛られない。とても素晴らしい世界“らしい”よ」


 最後の言葉に違和感を覚えた。

 どこか他人事で誰かから言われたことをそのまま飲み込んでいるような語調。


 ルカがそれについて聞こうとした直前で景色が白み始めた。

 感覚でわかる。これは確実に夢から覚める合図だ。


「待て! 俺の話はーー」


◇◇◇


 次にはっきりとした意識を得たルカの視界に広がったのは病室の天井だった。


 少し荒い息を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き、右手で掛け布団をめくろうとしたところで気がついた。


「あぁ、そうか……俺、腕なくなってたんだ」


 不思議なことに喪失感どころか混乱することすらなかった。

 しかし、元々あったものが急になくなれば違和感ぐらいは覚える。


 ゆっくりと上半身を起こしたが大きな痛みはない。

 強いて言うなら食い千切られた右腕の切断面からピリピリとした痒みに似たもの感じる程度。


 その痒みを紛らわせるように切断面を撫でるのと同時、病室の扉が開かれた。


「あら、目を覚ましてたのね」


 言葉をかけながら入ってきたのはツェルトだ。

 ルカが起きていたことに驚きの表情を浮かべたがすぐに安心したようにほっと息をついた。


「ツェルトさん……」


「よかった。顔色も悪くはないわね。

 もしかして腕を無くしたことってあるのかしら?」


「ありませんよそんな経験」


 ルカのジト目を受けながらもツェルトは「そうね」と笑い、ベッドの側に置いてあった椅子に座った。


「にしてはちょっと落ち着いてるから」


「それはそれ以上に気になることがあるから、かもしれないです」


「気になること? お父さんのことかしら?」


「も、あります」


 ルカはその内容を言うべきか否かを迷っている。

 その遠慮を取っ払うようにツェルトは笑みを浮かべた。


「時間ならあるから話に付き合うわよ」


 それをきっかけにルカは未だはっきりと頭にある夢を話し始めた。

 大まかな内容を伝え終えた彼は息をつく。


 話し続けたことで喉の渇きを感じたころにツェルトは瓶からコップに注いだ水をルカへと差し出していた。


「ありがとうございます」


 それを受け取ったルカが喉を潤している間にツェルトは確認するように呟いた。


「自由で縛られない世界。

 そのために繭を作り、ルカ君とあのアバードを融合させる……」


「はい。たしかにそう言ってました。

 たぶん父さんと彼女の目的はそれだけだと思います」


「なるほどね」


 ツェルトはおそらく先ほど聞いた夢の内容を自分の中でもう一度噛み砕いているのだろう。

 あまり見ない難しそうな表情で顎に手を当てていた。


 そんな彼女へと遠慮がちに声をかける。


「あの、1つ聞いてもいいですか?」


「ん、何かしら」


「自由ってなんですか?」


 そう問いかけたルカの脳裏にこびりついているのはアギルの言葉。

 ルカの「自分の自由のために誰かの自由を奪ってはならない」という言葉に反論した時のものだ。


『今あるその自由が誰かの上にあるのを知ってなおそう言うか!』


 瞬きを数度したツェルトは少し唸ったかと思うと苦笑いを浮かべた。


「難しい質問ね」


「うっ、す、すいません……」


「いいのよ。責めてるわけじゃないから」


 柔らかい笑みを浮かべていたツェルトだったが、一瞬だけ表情が曇ったような気がした。

 ルカが見つけたその変化を否定するかのように落ちた影を吹き飛ばした彼女は言う。


「ただ、そうね。ルカ君が欲しい答えになるのかどうかはわからないけれど今の私できる話ならいくつかあるわね」


 疑問符を浮かべたルカへとツェルトは微笑みながら立ち上がった。


「ここから先はまたちょっと長くなっちゃうし先に先生を呼んでくるわ。

 問題がなければお茶と一緒にゆっくりお話ししましょ」

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